37. 私と彼は、一心同体
私は何本もの剣を向けられ、床に座っている。私の前に、うつろな目のドミニクが歩いてくる。この変態は、エロいことばかりを考えているのだろう。
「それでは、ここで致すとしよう」
気持ち悪いドミニクがそっと手を伸ばし、私の腕を握る。
体がゾクっとした。ドミニクに触れられるだけで、嫌悪感が湧き起こる。
……レオン様!!私はここです!
早く!!
不意に大きな音を立てて窓ガラスが割れる。そして窓ガラスを割って、緑色のものが部屋に入ってきた。私はドミニクに腕を掴まれたまま、それを見た。大好きなレオン様の魔力を、一段と強く感じる。
窓ガラスを割って部屋に飛び込んできたのは、紛れもなくレオン様だった。金色の髪と緑色の鎧がきらりと輝いた。そして怒りに満ちた表情で、剣を向ける。
「ローザを返せ!」
だが、圧倒的優勢のドミニクが離すはずがない。おまけに、私は囚われている。
「嫌だね」
ドミニクは馬鹿にしたようにレオン様に告げる。
「こいつは、僕の第二夫人だ。僕を特別な世界に連れていってくれると公言した」
私はレオン様を見て微笑んだ。助けに来てくれて嬉しいのと、会えて嬉しいのと。私は絶対に、ドミニクになんてやられない。弱かった頃の私とは違うのだ!
「特別な世界に連れて行きましょう。……ロスノック帝国、第二王子の目の前で」
私は甘くそう呟き……全力で光の魔法を放った。予想以上の私の魔力に、油断していた敵は吹っ飛ばされた。そして、ドミニクだってギャグのようにひっくり返る。
そのまま私は走り去り……レオン様の胸の中に飛び込んでいた。
飛び込んだ私を離さないとでも言うように、レオン様はしっかりと抱きしめる。
「ローザ!……良かった!!」
やっぱり、私はレオン様がいなきゃ駄目だ。レオン様がいると、もっともっと頑張れそうな気がする。こんな大人数の敵だって、二人で力を合わせたら、やっつけてしまえそうだ。
私はレオン様を抱きしめたまま、鎧の隙間から右手首に触れる。レオン様は無事でいるものの、結構消耗していたからだ。だから私は、レオン様に魔力を供給する。
「ありがとう、ローザ」
私はレオン様を見上げて微笑む。すると、レオン様も甘い目で私を見返してくれた。
「私は本気でやります!
そして早く、ロスノック帝国に帰りましょう!!」
気付くと敵に囲まれていた。油断していたが故に、私に吹っ飛ばされた敵たちだ。その後ろにも、新たな援軍が見える。そして、ドミニクが怒りに満ちた真っ赤な顔で起き上がった。
「……殺す!お前ら二人とも、殺してやる!!
野郎ども、かかれ!!」
ドミニクの合図で、家来たちが一斉に飛びかかってくる。中には魔法を使える者もいるらしく、私たちの周りから火花が散った。それを私は、防御魔法で華麗に跳ね返す。
「さすがだな、ローザ」
レオン様は私の頭を撫で、私と背中を合わせる。
「この下に、緊急脱出装置があるようだ。そこまで行こう!」
「はい!!」
私たちは背中を合わせて魔法を使う。部屋中を白い光が駆け巡り、人がバタバタと倒れていく。
運良く魔法に当たらなかった戦士が、剣を持ち上げて飛びかかる。それをレオン様は軽々叩き斬った。
「お前!僕を騙したな!!」
ドミニクが怒りに満ちた叫び声を上げ、がむしゃらに剣を振るう。そんなドミニクに、私は草属性の魔法をかけた。地面から蔓が伸び、ぐるぐるにドミニクを縛り上げる。
「魔女だ!こいつは魔女だ!!」
混乱して叫ぶドミニクに、私は笑顔で告げた。
「魔女ですよ。私は、魔導士なんですから」
そして、このひ弱な草属性の魔法に簡単にやられてしまうドミニクは、きっととても弱いのだ。
ドミニクは弱くても、さすがに部下は強かった。赤いローブを着た魔導士たちもやってくる。敵は倒れても倒れても湧き出るように増えており、このまま耐えるのは時間の無駄だろう。
「ローザ!床をぶち抜けるか?」
レオン様が私に背を向けたまま言う。
「このまま階下に落ちよう」
「分かりました!!」
レオン様が防御魔法を張る。その隙に、私たちの周りにぐるっと火属性の魔法をかける。灼熱の炎はどんどん床を溶かす。そして、私たちの周りの床が丸くすぽっと抜けた。
「よし!さすがだ!」
レオン様は私を抱えたまま落下し、足元に草属性の魔法をかける。草がトランポリンのように生え、私たちを落下ダメージから守ってくれた。
こうやってレオン様と戦うと、レオン様の考えていることがよく分かった。それは魔力交換のおかげなのかもしれないが、私はレオン様と最高のパートナーなのだろう。
草のトランポリンを下りると、目の前にはこの世界には似合わないものが置いてあった。
剣や魔法に頼るこの国に……なんと、自動車があったのだ。それも、もとの世界でよく見た、紛れもなくあの世界にある自動車だ。
「脱出装置ってどれだ!?」
焦るレオン様に、私はそれを指差して告げた。
「車です」
「車!?」
驚きふためくレオン様の腕を、私は引っ張る。そして助手席に押し込んで、扉を閉めた。
この世界の人は使い方が分からないから、このまま放置されていたのだろう。だが、私は使える!
通路の先には光が見え、おそらくこのまま外まで繋がっているのだろう。
私はブレーキを踏んでキースイッチを回す。だが、ずっと使われていないためか、エンジンがかからない。まさか、ここへ来て使えないの!?
ピンチに陥る私の前に、穴から敵がどんどん降りてきた。
こんなところで捕まるなんて……
その時、ピンと閃いた。バッテリーが上がっているのだ。電力を供給したら、エンジンが動くかもしれない。
私は頭の中でバッテリーがありそうな部分を想像する。そこに弱い雷魔法を落としつつ……再びキースイッチを回した。
暗い部屋に、エンジンの音が鳴り響いた。パッとヘッドライトが光り、暗い廊下を照らす。
後ろからは、もうもうと煙が上がっているのが見える。
「レオン様、シートベルトをしてください!」
「えっ!?……シートベルト!?」
慌てるレオン様の横で、私はアクセルを力いっぱい踏んだ。黒色の車は煙を上げて広い廊下を突き進む。そして次第に周囲が明るくなり、車は城外へと飛び出ていた。
「ろ、ローザ!!すごいではないか!これはなんという魔法だ!?」
レオン様が興奮気味に話している。私は田舎道を運転しながら、笑顔で告げた。
「これは魔法ではありません。
私の故郷にある、ごくありふれた生活用品です」
青空の下、のどかな田舎道をレオン様とドライブした。こうやってレオン様といると、幸せだと思う。私のいるべきところは、レオン様の隣なんだ。
「そうか。ローザの故郷には、すごいものがあるんだな」
レオン様は窓の外を見ながら、感慨深そうに告げる。
「私も一度は行ってみたいものだ」
「でも、私はロスノック帝国のほうが好きです」
ロスノック帝国には、レオン様がいるから。魔導士団のみんながいるから。私の居場所があるから。こんなみんなに囲まれて、私は楽しくやっている。
それに、今日だって、レオン様は助けに来てくれた。レオン様が来てくれると思っていたから、私は行動出来た。今日の私の行動力は、自分でも驚くほどだった。ロスノック帝国に来てから、私はこんなにも強くなって、自信を持てたのだ。
田舎道を走ると、しばらくして遠くに街が見えてきた。広大な城下町と、その中央に聳え立つ立派な王城。私が帰るべき、ロスノック帝国だ。
私はこうしてレオン様と帰ることが出来て、とても嬉しい。これからも、ずっとレオン様とともにいたい。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




