31. 空も心も晴れています
次の日……
明るい光で目を覚ますと、隣にレオン様がいた。その綺麗な瞳を細め、愛しそうに私を見ているレオン様が。朝からイケメンを見て倒れてしまいそうな私は、パニックを起こしてベッドから抜け出そうとする。だが、そんな私をレオン様は優しく、だがしっかりと羽交締めにする。レオン様に後ろからぎゅっとされて、頭が沸騰して燃えてしまいそうだ。いきなり迎えたこの甘い朝は、私にはレベルが高すぎる!
不意に扉がノックされる。私はほっと胸を撫で下ろし、ベッドから降りる。ようやくレオン様から解放されたのだ。
真っ赤な顔で扉を開けると、そこには爽やかな顔のマリウス様が立っていた。
「おはようございます、レオン様、ローザ」
「マリウス……わざとやっているのか」
レオン様はベッドから上半身を起こし、イラついているように吐き出す。レオン様は不服かもしれないが、正直私はホッとしている。あのまま流されたら、どこまでいってしまったのだろう。
「わざと……?知りませんね。
魔力交換した相手と体を重ねると想像を絶するとは言われていますが、まさかレオン様がそれを試されようとしているはずはないですよね」
そうなの!? そんなこと、初めて聞いた。そしてレオン様はその気満々だったのだろう。だけど、冷静に考えてそれはない。一国の王子が、後先考えずに関係を持ってはいけない!
真っ赤な顔で俯く私の後ろで、レオン様の刺すような殺気を感じる。マリウス様は、レオン様を怒らせる天才だ。
「ともあれ、お二人ともよく休まれましたね。
ローザが目を覚まされてから約一日、レオン様も眠られました。もうすっかり元気でしょう」
レオン様は、元気過ぎるほど元気になっている。そして、さらに頭のネジが数個外れてしまったのだろう。
「あとでゆっくり話をしますが、久しぶりの晴天続きで国は歓喜に満ちています。
晴天のせいで野菜もぐんぐん育ち、大豊作です」
「そうか……」
レオン様は髪を掻き上げて立ち上がる。その姿がなんだか色っぽくて、くらくらする。そして、抱きしめられたレオン様の体を思い出して、真っ赤になってしまうのだった。
「さあ、お二人とも朝食の準備も整っています。
新鮮な野菜をたくさん食べて、元気になってください」
充分休んだし、もう元気だ。だが、酷くお腹が空いていることにも気付く。マリウス様が部屋から出ると、侍女たちが食事の準備をしてくれた。テーブルの上には、野菜の入ったサンドイッチやら、新鮮なサラダやらが次々に置かれる。おまけに、野菜ジュースまで。
「野菜ジュースはもうこりごりだ」
レオン様はぼやく。そんな様子に笑ってしまった。
レオン様は、私が眠っている間、ずっと野菜ジュースを飲んでいた。そして得られた魔力を私に分け与えてくれた。レオン様がいたから、私はこうやって元気に過ごしている。
「レオン様、ありがとうございました」
ずっと言いたかった言葉、言わなきゃいけない言葉をようやく告げる。すると、レオン様は私の大好きな笑みを浮かべる。レオン様の笑顔を見ると心が安らぐ。この人が大好きだと改めて思う。
「私からも、ようやく恩返しが出来た。
ローザが元気になってくれて、私は本当に嬉しい」
そんなに嬉しそうに言わないで欲しい。また、レオン様にぎゅっとくっつきたくなってしまうから。
私の片思いだと思っていたのに、この思いはどんどん膨れ上がっていく。今ではレオン様に触れたい、気持ちを確かめたいとさえ思ってしまう。陰キャオタクの私には、レオン様なんてレベルが高すぎることは分かっているのに。
「恩返しなんてとんでもないです!
私はただ、レオン様が元気でいて欲しくて……レオン様を守りたくて……」
「それなら、私と一緒だな」
レオン様は目を細め、愛しそうに私を見る。こんな甘い目で見られたら、私はまたレオン様に引き込まれてしまう。恋なんて一生無縁だと思っていたのに、私はもうレオン様無しでは生きていけないのだろう。
朝食を食べ終えると、レオン様が立ち上がりながらぼやく。
「今日からまた、いつも通りの毎日か」
だけど、このいつも通りの毎日を過ごせることが、すごく幸せなのだと思う。
「空から落ちたものの正体も、マリウスから聞かねばならない」
それは私にも興味がある。
「兄の幼稚な攻撃にも耐えないとならない」
やっぱりレオン様もされていたんだ。
「だが、ローザがいるだけで、私はなんでも出来る気になる」
「そうですね。私と魔力交換したことによって、レオン様もさらに強くなられましたし」
苦し紛れに答える私に、レオン様はゆっくりと歩み寄る。甘くていたずらそうな笑みを浮かべながら。
レオン様に釘付けになりつつも、じりじりと後退りする私の手を、レオン様はぎゅっと握る。そしてそのまま、レオン様の胸へとぐっと引き寄せられる。バランスを崩してレオン様の胸に倒れ込んだ私を、待ってましたとばかりに抱きしめるレオン様。全身でドキドキしながらも、この瞬間をずっと待っていたのだと思い知る。
「ローザ」
低い甘い声で名前を呼ばれる。真っ赤な顔で見上げると、レオン様は親指でそっと私の唇をなぞる。
「愛してるよ、ローザ」
……え!?
何の前触れもなく、急に発せられた言葉に戸惑った。
混乱する私の唇に、レオン様はそっと唇を重ねた。咄嗟の出来事で、私はカチンコチンに固まっている。起こったことを頭で処理出来ていないのだ。
唇を離し、固まったままの私を見て、レオン様はおかしそうに笑う。大好きなその笑顔を見ながら、少しずつ私の頭は働き始める。
……キスしてしまったんだ!レオン様と、キスしてしまったんだ!!
ついに越えてはいけない一線を越えてしまった。その瞬間は前触れもなく訪れ、あっけなく終わってしまった。信じられない気持ちと、唇に微かに残る余韻に胸を焦がす。
「ローザも私のことを、好いているのだろう?」
直接的に聞かれ、どぎまぎする私。当然だが、私の気持ちもバレていたんだ。
真っ赤になる私を見るレオン様は、少し頬を染めている。そのまま、甘い声で続けた。
「私は焦っている。ローザが元気になっても、兄や魔導士団の男に取られるのではないかと思って。
ローザが目を覚ませなくなって、私はよく分かった。
私はもう、ローザがいないと生きていけないのだ」
「そんな大袈裟な……」
なんて言いながらも、私だって同じだと思う。レオン様が私を大切にしてくれるから、自信を持つことが出来た。前を向けた。私だってもう、レオン様がいないと生きていく自信がない。
レオン様が朝から私を求めたのも、きっと不安だったのだ。私がレオン様以外の男性になんて、靡くはずがないのに。
私はそっとレオン様のブロンドの髪に手を伸ばす。さらさらで綺麗なその髪を、そっと撫でる。
「レオン様だけです」
真っ赤な顔で告げる。恥ずかしいが、ちゃんと伝えなきゃ。レオン様だって、まっすぐな言葉で伝えてくれたのだから。
「私は、レオン様が大好きです」
レオン様は泣いてしまいそうな顔で笑った。そしてまた、唇を重ねる。先ほどの、触れるか触れないかのキスとは少し違うキス。レオン様の存在と温かさをしっかり感じるキスだった。
名残惜しそうに唇が離れ、真っ赤な顔でレオン様を見上げる。レオン様も頬を染めて、愛しそうに私を見下ろしてくれた。
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