30. 王子様の魔力で目を覚ます
右手が温かい。右手から、少しずつ力が湧いてくる。その力は凍っていた左手を溶かし、足へ向かって進んでいく。
活動を停止していた頭にも、力が巡っていく。優しくて温かくて心地よい、大好きなこの力が……ーー
眩しい光が顔に当たり、ふと目を開いた。目に飛び込んできたのは、いつもの私の部屋。クリーム色の家具に、大きなソファー。私、眠っていたんだ。
慌てて身を起こすと、ベッドサイドでレオン様が眠っていた。そのあまりにも綺麗な顔に釘付けになってしまう。そしてレオン様の横に置かれたテーブルには、空のグラスが山々と積まれている。レオン様は眠っているのに、私の右手をしっかりと掴んでおり、そこからは少しずつ魔力が私の体に入っているのが分かる。
そんなレオン様はいつになく消耗しており、もう僅かな魔力しか残っていない。私は慌ててレオン様の手を振り解いた。
レオン様は少し目を開け、私を見る。そして嬉しそうに微笑んでまた眠ってしまう。レオン様はどうしてしまったのだろうか。明らかに具合が悪そうだ。
そんななか、
「レオン様、野菜ジュースをお持ちしました。
今回のジュースは、農園で採れた野菜をうんと圧縮しております。おかげですごくまずいかもですが」
グラスを手に、マリウス様が部屋に駆け込んでくる。そしてマリウス様は、私を見て驚いた顔をする。
「ローザ!起きたのか!」
「はい!」
それでマリウス様は、私が眠っている間に何があったのかを教えてくれた。私は魔力を切らして眠っている間、三日間もレオン様が魔力を送り続けてくれたのだ。そのため、私の魔力は結構回復している。だが、次はレオン様が危ないのだ。
「一度魔力が底を尽きると、相当回復するまでは目が覚めないようだな。
特にローザは、魔力容量が大きすぎるから」
マリウス様がぼやく。
「回復させても目が覚めない人がほとんどだから、ローザは運が良かったのだろう」
これも全部、レオン様のおかげだ。レオン様が私に魔力を送り続けてくれたから、私はこうして目を覚ますことが出来た。第二王子の身でありながら、三日間も私に魔力を送り続けたレオン様を思うと、身が引き裂かれそうな思いがする。そして、レオン様にはやく元気になっていただきたい。
魔力交換によって相手から魔力を奪うことだって出来るのに、レオン様は絶対にしない。だから、次は私自ら魔力を送るしか出来ないのだ。
マリウス様が忙しそうに部屋から出ていった後、私はマリウス様の持ってきた野菜ジュースを飲んだ。野菜の旨みというより、苦味がぎゅっと濃縮された、お世辞にも美味しいとはいえないジュースだった。レオン様は、こんなものを大量に飲んだなんて……
だが、飲んだ瞬間体に力が湧いてくる。私はレオン様の右手首の痣に触れ、みなぎるその力をそっとレオン様に注いだ。
青白かったレオン様の顔色が、少しずつピンク色になってくる。
レオン様、ありがとうございます。
私はこのご恩を、一生忘れません……
……大好きです。
「ローザ」
眠そうに顔を上げるレオン様に、私はぎゅっとしがみついていた。いつもはレオン様が私に抱きつくのに、今日は立場が逆だ。
レオン様は少し目を開き、私の髪を撫でる。
「良かった……」
喘ぎ喘ぎレオン様が言葉を紡ぐ。
「……大好きだ、ローザ」
「……えっ!? 」
がばっと身を起こす私と、自分が言った言葉すら理解していないようなレオン様。レオン様の魔力が回復したとはいえ、体力だって限界のようだ。
「れっ、レオン様!!私は元気ですから、このベッドで眠ってください!」
慌ててベッドから退こうとするが、レオン様は目を閉じたまま告げた。
「それなら……一緒に眠ろう。
私はローザから離れたくない」
ええッ!!? そのセリフ、破壊力抜群なんですけど!!
私はどぎまぎしながらも、ぐったりしているレオン様をベッドに引き上げる。レオン様は目を閉じたまま、ぎゅっと私に身を寄せてきた。私は緊張で固まりつつも、レオン様に手を回す。レオン様の体は見た目以上に引き締まってていて硬くて、それでいて温かい。男の人ってこんななんだ……
レオン様は子供のように私の胸元に顔を埋め、すやすやと眠っている。私はドキドキしながらも、ずっとレオン様を抱きしめていた。
レオン様は、私のことを大好きだと言った。陰キャで、恋愛経験ゼロで、もちろん誰からも好かれたことのない私のことを。
その言葉、信じてもいいのかな。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




