29. 切ない二人 (リリーside)
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レオン様は憔悴しきった様子で、ずっとその手を握っている。自分だって意識を保つのがやっとのはずなのに。
ベッドの上には、目を閉じたローザが横たわっている。死んではいないのだが、全く生気を感じられないのだ。顔からは血の気が引き、呼吸すらしていないように見える。ローザは魔力を使い切ってしまい、倒れたのだ。
魔力を使い切ってはいけないことは、魔導士の常識だ。魔力を切らした魔導士は、死んだように眠り続ける、そう言われている。死んだように眠り続ける魔導士を起こす方法は、よく分からない。
ローザはこのまま眠り続けるのだろうか。だが、酷くやつれたレオン様を見ていると、何も言えなくなってしまう。
レオン様は、ずっとローザの手を握っている。その右手首の痣に触れている。必死に魔力を与えているのだろう。ローザははっきりとは言わなかったが、魔力交換の相手はレオン様なのだと改めて思う。(レオン様が痣を見せびらかすから、みんな知っていたけど)
そんなレオン様だって、分け与える魔力なんて残っていないだろう。ましてや第二王子だ。ここでローザと共に眠り続けることになってはいけない。それなのに、レオン様はローザのもとを離れないのだ。
「マリウス」
レオン様は、喘ぎ喘ぎ近くにいるマリウス様に告げる。
「野菜ジュースを!はやく!!」
「れ、レオン様!さっきから野菜ジュースばっかり……」
「いいから、早く!出来る限り濃度の高い野菜ジュースにしろ!!」
こうして運ばれた野菜ジュースを、レオン様は一気に飲み干す。そんなに野菜ジュースばかり飲んで、吐いてしまわないのだろうか。
ベッドサイドには、レオン様の飲み干した野菜ジュースが入っていたグラスが、山のように積み重なっている。
こうしてレオン様は、ローザが倒れてから二日間、眠ることもなくローザの手を握っている。ただひたすら野菜ジュースを飲みながら。宮廷内の農園で育った、新鮮な野菜から作られた野菜ジュースを飲みながら。
そんなレオン様を見ながら、ふと気付いた。レオン様は野菜ジュースで魔力を回復しながら、その魔力をローザに送っているのだと。
こんな子供騙しみたいな方法で、ローザの目を覚まさせることなんて出来るのだろうか。だが、ローザの目を覚まさせることが出来る人は、おそらく魔力交換の相手であるレオン様しかいない。
「レオン様、頑張ってください!」
あたしはただ、応援することしかできない。あたしだってローザの力になりたいが、ローザに魔力を分けることなんて出来ない。それが酷くもどかしい。
ローザと友達になってから、あたしはローザから色々学んだ。もちろん魔力が高いことも尊敬するが、その優しさに心を打たれたのだ。
ローザはロスノック帝国にたいした恩はないのに、いつも国のために頑張っていた。誰もしたがらない農作業を黙々とやったり、種に魔力を注入する地味な仕事をしたり。だけどそんなローザの努力が身を結び、この国は確実に変わりつつあった。
ローザがいるから、ロスノック帝国は明るくなっている。ローザはロスノック帝国の恩人だ。そんなローザを、レオン様が離すわけがないだろう。レオン様がローザに執着しているのも、すごく理解できる。
レオン様には、今まで目立った恋の噂なんてなかった。もちろんかっこいいから人気ではあるが、どこか一歩引いてクールだった。そんなレオン様が、人が変わったようにローザにアピールしているのを見て、みんなは信じられない気持ちでいっぱいだった。
魔力交換だって、レオン様は冗談で言っていると思っていたのに……いつの間にか、本当にローザとしてしまった。
レオン様は本気なのだと思う。本気でローザを手に入れようとしているのだ。そしてこの二人が幸せになって欲しいと、あたしは思っていた。
そしてようやくくっつくと思ったのに……ローザは意識を取り戻すことが出来なくなった。
こんな結末は辛すぎる。あたしは嫌だ。
「レオン様、そろそろ休まれてはどうですか?」
マリウス様が遠慮がちに告げるが、当然レオン様は休まない。レオン様だって消耗しているのに、ただひたすらローザに魔力を送り続ける。
「マリウス、野菜ジュース!」
吐くほど飲み続けて、魔力を蓄えて、ローザに送る。
いつの間にか夜が明け、部屋の中に眩しい太陽の光が射し込んでいる。何年ぶりの太陽だろう。
この太陽を、ローザにも見せてあげたい。陽の光を浴びて照り輝く庭園を、レオン様と身を寄せて歩いて欲しい。
だからあたしは、ひたすら祈り続ける。どうか、ローザが目を覚ますように。
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