28. 全魔力を使ってしまった
私は右手に全身の魔力を込めた。そして、上空の厚い雲目がけて渾身の魔力を解き放った。
私の右手からは、轟々と音を立て、竜巻のような風が湧き起こる。そしてそれは上空の雲を巻き込み掻き乱す。風に吹き飛ばされないように必死で踏ん張り、空を見る。雲はすごい勢いで回転し、わずかに青空が見えた。ロスノック帝国に来て初めて見る青空だ。だが、黒い物体は見えない。
もう少し……もう少しだ!!
さらに魔力を込め、全神経を集中させる。
私の右手から出る竜巻は、少しずつ青空を拡げていった……
「あっ!!」
リリーの叫び声が聞こえる。それと同時に、私にも見えた。
私たちの少し前方の空に、それは浮かんでいた。ぽっかりと空いた青空に浮かぶそれは、酷く不気味だった。
まるで気球のようにバルーンに吊るされている黒い箱からは、次々に煙が噴き出している。そしてあっという間に空は雲に覆われ、黒い物体も見えなくなってしまった。
「何だったの、今の!?」
リリーが叫び声を上げる。私は地面に這いつくばったまま、声すら出せず上空を見続ける。
「自然のものでは無さそうだ。誰が何のために作ったのだろうか」
レオン様が呟く。
その間にも上空はすっかり厚い雲に覆われて、青空が見えたのが嘘のようだ。
「レオン様、撃ち落としてみましょうか?」
「頼む」
レオン様が頷き、リリーは黒い物体があった場所目がけて魔法を放つ。さすが魔導士団長だけあって、リリーの魔法も相当強烈だった。燃え盛る火炎が雲を突き抜いたが、黒い物体が落ちてくることはなかった。
「リリー、もう一度頼む。次は私もやってみよう」
レオン様は右手に力を込め、リリーと共に魔法を放った。燃え盛る火炎と眩しい光が雲を突き抜ける。分厚い雲が赤に白にと光るが……黒い物体を撃ち落とすことは出来ないようだ。
リリーは地面に両膝を突き、レオン様は肩で息をしている。リリーは相当辛そうだ。そしてレオン様は……もう、ほとんど魔力が残っていない。二人とも、あと一回魔法を使うのが限度だろう。
私だって相当消耗している。めまいがするし、立っているのがやっとだ。だが、みんな必死でやっているのだ。私だけがやらないわけにはいかない。
「次で最後にしましょう!」
平静を装って、私は右手に力を込める。
「駄目だ、ローザ!!」
レオン様が必死で叫ぶが、叫び声すら出てこない。レオン様だって限界なのだ。
「大丈夫です。私を信じてください!
あれを撃ち落とせば、ロスノック帝国はまた変わるかもしれません!!」
そんな保証はない。だが、何となくそれが原因な気がしていた。ロスノック帝国のこの曇天は、人為的に作られたものなのだ。
私は最後の魔力を右手に溜め、黒い物体が見えた空に向かって力いっぱい放出する。私の魔力は強烈な光の魔法となって、まるでレーザービームのように空を突き抜ける。この強力な光属性の魔法は、レオン様のおかげだ。レオン様と魔力交換をしてから、私の光属性の魔法は極めて強いものとなっていた。
私の魔法に、レオン様の魔法が絡みつく。そして、リリーの魔法だって……
三つの魔法は矢のように雲を砕き……大きな破壊音が大地に響いた。そして遠くの畑に、上空から暗いものが落ちてくる。まるでパラシュートのように破れたバルーンが開き、ドスーンと地響きが伝わった。
やった!黒い物体を落とせた!!
そう思ったのが最後、私は地面に倒れ込んでいた。意識が完全に遠のく前、上空に青い空が見えていることに気付いた。
そして、
「ローザ!!!」
レオン様の声にならない叫び声が聞こえた気がした。
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