27. 謎の物体を追え
次の日から、ヘルベルト様の執拗な攻撃が始まった。執拗な攻撃というか、想像以上に幼稚な攻撃だ。
朝、私が魔導士団に出勤するために宮廷の中を歩いていると、不意に横から魔力を感じた。嫌な予感がしたため防御魔法をかける。その瞬間、勢いよく炎が吹き出した。もちろん私は防御魔法のため無事である。
その後歩いていると空から滝のような水が降ってきたが、それもうまく防御することが出来た。
魔導士団で毎日魔法の訓練をしている私は、どんどん力を付けていた。そして、私を襲う魔力にも、咄嗟に反応出来るようになっていたのだ。
魔導士団の訓練後に、ヘルベルト様の幼稚な攻撃についてリリーに話すと、リリーは涙を流して笑っていた。
「何それ、ダサい!!」
同じ親から生まれたはずなのに、レオン様とヘルベルト様は正反対だ。そして、ヘルベルト様が国王になったら、ロスノック帝国も終わりかな、なんて思ってしまった。
「属性が違うから、ヘルベルト様はいろんな人にローザを狙うように命令しているんだろうね。
本当は、ヘルベルト様は喉から手が出るくらいローザが欲しいんだろうけど」
「そうなの?」
思わず聞く。確かにヘルベルト様は私に、自分に従うようにと持ちかけた。だが、その件についてはもう終わったと思っている。本当に欲しいのなら、私を攻撃なんてしないだろう。
「この国は自由恋愛なんだけど、王族は魔力の高い結婚相手を選ぶことが多いからね。子孫にも強い魔力を引き継がせなきゃいけないから」
「そうなんだ……」
じゃあ、レオン様が私に執着しているのは、まさか魔力が高いから?そうだったら、とても辛い。
そもそも、私は恋愛経験値ゼロの陰キャだ。男性に好かれるようなキャラでもない。
私があまりにもしょんぼりしていたからだろうか。リリーは慌てたように付け足す。
「れ、レオン様は違うと思うよ?
レオン様はきっと、ローザが大好きなんだよ!」
だけど、それも確証はない。レオン様に好きだなんて言われたこともない。万が一私の魔力が高いという理由でレオン様と結婚することになったら……それはそれで嬉しいが、心底喜べないかもしれない。
このままだと暗い雰囲気になってしまいそうなので、必死に話題を探そうとした時だった。
「……あれ?」
リリーはまた、遠くの空を見上げて目を細める。
「やっぱり、あそこに何かあるような……」
リリーの指差す空を見上げるが、やはり厚い雲に覆われていて何も見えない。ただ、今日は風が強く、雲の流れも速い。嵐でも来るのだろうか。
「何も見えないよ?」
私がリリーに告げた時だった。
どんどん流れていく雲の隙間から、黒いものがちらりと見えた。だが、それはすぐに厚い雲に隠されてしまう。だが、確かに何かがあるように見えたのだ。
「ねえ、ローザ。あの雲の下に行ってみようよ!」
「あの雲の下には何があるの?」
城から出たことのない私は、急に不安になってリリーに聞く。まさか、グルニア帝国の軍隊がいたりしないよね!?
「この国の農地が広がってるよ。
……でも、念のためレオン様にも報告しておこう」
その言葉が嬉しかった。
こうして、私はレオン様とリリーと、黒い物体が見えたあたりの農地に来た。
宮廷とその周りの繁華街を過ぎると、辺りは一気に建物がなくなりただ広い農村地帯が広がる。そして、ひび割れた地面からは、レオン様と私が開発した作物が順調に育っていた。
トマトやキュウリが瑞々しく垂れ下がり、カボチャやスイカも色付き初めている。
そして人々が、顔を輝かせて忙しそうに作物の世話をしている。その脇を、馬で颯爽と駆け抜けた。
こうして、不作の土地に野菜が出来ているのが嬉しい。相変わらず曇りや雨の日ばかりだが、この国は確実に明るくなりつつあった。
「なんだか、野菜が食べられるのが当たり前になってきたよね。
でも、野菜が食べられることに感謝しなきゃ」
リリーが農地を見ながら嬉しそうに言う。
「野菜を食べると元気になるし、この国には元気が不足していたんだね!」
「その話だが……」
レオン様は手綱を引き、馬の速度を緩めながら告げる。
「魔力を込めて作られた野菜を食べると、魔力が回復するらしい」
「……え?」
私は思わず聞き返していた。
ここのところずっと忙しくしており、魔力の消耗も激しかった。だが、食事をして休憩を取ると、魔力はそれなりに回復している。それはただ休憩により魔力が回復したと思っていたのだが、まさか野菜が魔力の回復を助けていただなんて。
思い返せば、初めてレオン様と共に食事をした時も、食事後に元気になった。あれも野菜のおかげだったのだ。
私たちの開発した野菜が人々の生活を豊かにするだけでなく、魔力まで回復させてしまうだなんて。
「ローザのおかげだ」
私を抱きしめるようにして手綱を引き、レオン様は馬を止めた。そして軽々と馬から飛び降り、私に手を差し出す。その手を握ると、ふわっと馬から降ろされる。
こうやって、レオン様に触れるたびにきゅんとする。レオン様にもっと触れていたいと思ってしまう。だが、ずっとレオン様と馬に乗るのも恥ずかしい。この世界にはもちろん車はないのだから、乗馬の練習もしなきゃいけないだろう。
「この辺りか、リリー」
レオン様は上空の厚い雲を見上げながら、リリーに聞く。
「はい。確かにこの辺りに浮かんでいました」
だが、やはり厚い雲が邪魔をしてそれが見えない。雲が次々に湧き出しているかと思えるほどだ。
ここでふと思った。風の魔法で、物理的に雲を吹き飛ばしたらどうだろうか。一瞬でもそれが確認出来れば、何か分かるかもしれない。
「レオン様。私が全力で、雲を吹き飛ばしてもいいですか?」
レオン様は驚いたように私を見る。そして、静かに答えた。
「それなら私がやろう。
ローザは連日私に魔力を分けてくれて、疲れているだろう」
確かに疲れている。だが、レオン様よりも私の魔力容量のほうがずっと大きい。おまけに、レオン様は自ら私の魔力を奪うことはしない。だから、やるとしたら私だ。現にレオン様だって、かなり消耗している。
「大丈夫です。やらせてください」
私はそう告げて上空を見上げた。あの黒い物体の正確な位置が分からないため、かなり広範囲の雲を吹っ飛ばさないといけないかもしれない。とにかくやるのみだ!
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