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最強魔導士となって国に尽くしたら、敵国王子様が離してくれなくなりました  作者: 湊一桜
第一章

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26. 第一王子、無理

「ローザ。いい知らせだ」


 部屋に入るなり、レオン様が笑顔で近付く。私はその心底嬉しそうな顔を見て、思わず笑顔になってしまう。

 

「国に配った種から、はやくも野菜が採れ始めているらしい。

 今、国は喜びに溢れている」


「そうなんですね!」


 その嬉しい知らせに、私も笑顔で答えていた。


「頑張ったかいがありました」


 レオン様は目を細めて、私の髪をそっと撫でる。このあとがばっと抱きつかれるのか。私は身構えたが……

 レオン様の魔力がかなり減っていることに気付き、そっと右手首の痣に触れた。レオン様の手に触れるだけで、私の体は沸騰しそうなほど熱くなる。ドキドキが止まらなくなる。

 私はきっと、魔力を与えることを口実に、レオン様に触れることを楽しみに思っている。なんて嫌な女なのだろう。


「いつもすまない、ローザ」


 レオン様は心底申し訳なさそうに告げる。


「いえ。私はこうして、レオン様のお役に立てて嬉しいのです。


 レオン様は、ご自身では私の魔力を取られないですから」


 そういうレオン様が消耗しているのも、朝から一人で新たな種に魔力を注入していたからだろう。王子として国のために尽力するレオン様を、私はすごく尊敬している。さあ、私も頑張って魔力注入をしよう。


 私は、いつものように小さな種一つ一つに魔力を注入する。毎日毎日繰り返しているため、絶妙な魔力加減さえ分かるようになってしまった。この種を国の人が育てて、みんなが幸せになれることを楽しみにしている。


「レオン様の功績を、国王様も褒め称えておられます」


 途中から来られたマリウス様が嬉しそうに言う。


「このままだと、レオン様が王太子になられるのではないですか?」


 マリウス様はレオン様が王太子になって欲しいのだろう。何しろ、レオン様が国王になったら、マリウス様は国王の宰相になるのだから。だけど、今まで以上にレオン様は遠い存在になってしまうだろう。


「私は国王の座に興味はない。ただ、国民が幸せに暮らしてくれることを祈るばかりだ」


 こんなレオン様が好きだ。レオン様みたいなかたが国王になったら、ロスノック帝国もずっと幸せだろう。

 マリウス様は不満があるようでぶつぶつ言っているが、私は微笑んでしまうのだった。





 いつものように種への魔力注入を終え、さらに『魔法の土』にも大量の魔力を注入し、ぐったりしたまま立ち上がる。窓の外は相変わらずどんより曇っており、すでに辺りに闇が立ち込めていた。

 レオン様は疲れた様子で立ち上がり、窓から外を見る私の隣に歩み寄る。その足取りすらふらついている。魔力容量の大きい私ですら消耗しているのに、レオン様は気を失う寸前なのかもしれない。

 

 レオン様に魔力を分けようと手を持つが、


「もういい、ローザ」


レオン様は掠れた声で言う。


「こんなにもローザに助けてもらうばかりでは、男としての顔も立たないだろう。

 君を守るために魔力交換をしたのに、私が守られてばかりだ」


「そんなことはありません」


 私は容赦なくレオン様の右手首を握り、魔力を分け与える。私の魔力は、すーっとレオン様の体に入り込んだ。


「レオンと私は、生涯添い遂げると約束をしました。

 私がレオン様に魔力を与えるのは、当然です」


 レオン様は少し泣きそうな顔をして、私を見る。その甘い視線にやられてしまいそうだ。だが、レオン様にこれ以上悲しんで欲しくない。なにより、私はレオン様に魔力を与えられて幸せだ。


「ローザ……」


 低くて甘い声で、私の名前が呼ばれる。この声で呼ばれると、ローザで良かったと思ってしまう。

 そのまま、レオン様はゆっくりと私の顔に近付き……




「レオン!」


 不意に荒々しい声で名前が呼ばれ、レオン様は私から離れる。それで真っ赤な顔のまま、私は固まっていた。

 何今の!顔近すぎるんだけど!!……まさか、キスされる……ってことないよね!?


 だけど震える私の甘い気持ちは、


「お前はいつも余計なことをする」


敵意に満ちたその声で吹っ飛んでしまった。


 扉の前には、ブロンドの長髪と緑の瞳をした男性が立っている。レオン様とよく似ているが、レオン様よりもキツい顔つきで、冷たい表情をしている。彼を見て、すぐに誰か分かってしまった。レオン様の兄の第一王子ヘルベルト様だ。


 レオン様は何も答えず、ヘルベルト様を見る。ヘルベルト様は、そんなレオン様に続けて告げた。


「国で野菜が採れるように仕向け、国中から感謝された。王太子の座を狙っているのだろう」


「……違います」


 レオン様は答えるが、ヘルベルト様は高圧的な態度で罵る。


「王太子になるのは私だ。お前は目障りだ!」


 ヘルベルト様を前に、足が竦んでしまう私。兄弟だというのに、ヘルベルト様はレオン様と全然違う。

 そして気付いて欲しくないのに、ヘルベルト様はゆっくり私に顔を向ける。そして、相変わらず冷たい声で告げた。


「お前が例の魔導士か。お前の噂は聞いている。

 レオンより、私のほうが将来有望だし強い。

 ……レオンではなく、私のもとに来ないか?」


 冗談じゃない。私は、ヘルベルト様なんて絶対に嫌だ。だってヘルベルト様は、グルニア帝国のドミニクを思い出させるから。


 怖い。だが、レオン様の元を離れるほうが、私にとってはもっと怖い。だからヘルベルト様に頭を下げ、震える声で告げていた。


「申し訳ありません。私の心は、レオン様と共にあります」


 ヘルベルト様は怒りに満ちた顔で私を睨んで吐き捨てた。


「このあばずれが!!」



 その瞬間、レオン様が閃光を放つ。放たれた白い光は、ヘルベルト様をガンっと壁へと押し飛ばした。ヘルベルト様はそのままみっともなく地面に座り込む。


「ローザのことを悪く言う人は、例え兄上でも容赦しません」


 レオン様は私に背を向けているため、どんな顔をしているのか分からない。だが、こんな時だってその言葉にドキドキさせられてしまう。レオン様が好きだと思ってしまう。私は、何が何でもレオン様のそばを離れない!


 ヘルベルト様はレオン様をきっと睨み、魔法を繰り出す。その黒い魔法はレオン様によって簡単に弾かれてしまう。ヘルベルト様はレオン様よりも強いと言ったが、どうやら力の差は明らかのようだ。


「くっ……」


 ヘルベルト様はレオン様を睨む。そして、


「覚えてろ!

 必ず貴様に這いつくばって命乞いさせてやる!!」


悪役さながらの言葉を吐きながら去っていった。




 ヘルベルト様がいなくなってから、レオン様が振り返る。そして少し悲しそうに告げる。


「ローザ。みっともない所を見せて、申し訳なかった」


 みっともないだなんてとんでもない。私は、レオン様のもとに居られて、とても幸せだと改めて思う。


「ローザ、すまない。……抱きしめさせてくれ」


 そんなこと、悲しげな顔で言わないで欲しい。拒否なんて出来なくなってしまうから。

 私はレオン様に手を伸ばし、レオン様は子供のように私の腕の中に飛び込む。ブロンドの髪が頬を撫で、レオン様のいい香りがする。レオン様は抱きしめさせてくれ、だなんて言ったが、私がレオン様を抱きしめている。レオン様が愛しくてなんだか可愛くて、その綺麗な髪をそっと撫でた。


 私はレオン様を抱きしめたまま、バレないようにレオン様に防御魔法をかける。白い光が優しくレオン様を包みこむ。

 ヘルベルト様は危険だ。レオン様に万が一のことがあってはいけない。




 


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