25. いつの間にか、陽キャ集団に馴染んでいた
「今日は戦闘実践をしましょー!」
朝早く、リリーの元気な声が響いた。
私はいつものように第二魔導士団の訓練施設にいる。そして、すっかり馴染んでしまった仲間と、今日も訓練をする。
リリーはみんなの前に立ち、相変わらず軽いノリで話し続ける。だが、意外にも真剣な内容を話すのだ。
「前の戦いの時、みんな思ったよね?魔法を使うには、魔力を込めてから発動するまでのタイムラグがある。
魔法を使うまでの間に攻撃されたら終わりってこと」
そうなのか。私は一度も実戦経験がなく、魔法を使って戦うイメージが湧かない。ただ覚えているのは、上空で激しくぶつかり合う魔法だけだった。
「だから、実戦の時は交互に魔法を使ってたよね?
でも、焦ると十分に魔力が込められず、弱い攻撃になっちゃうよ。
あと、大切なことは?」
「防御すること」
「そう!」
答えた魔導士に、リリーは満足そうに笑いかける。
「防御役の魔導士は、攻撃役の魔導士まで含めて、大きなバリアを張るの」
そう言ってリリーは、わざとらしく手を大きく動かした。リリーの前には赤くて透明な魔法の壁が出現する。
私ははじめ、このリリーのやり方が不安だった。リリー曰く、友達とわちゃわちゃする魔導士団だからだ。いかにも弱そうで、真面目にやっていないようにさえ思えた。
だが、陽キャだらけの第二魔導士団には、このやり方が合っているのだと最近思った。魔導士たちの仲は極めて良く、信頼関係が成り立っている。戦場に行っても、みんなはきっと仲間を投げ捨てないだろう。
「二対二に分かれて、やってみましょー!」
私は魔力は高いが、魔法を使いこなしたりするのはまだまだだ。実戦経験だってない。だから、魔力の高さに満足せず、上を目指していこうと頑張っている。そして、レオン様に頼られるような魔導士になりたいと思った。
レオン様を思うと顔が真っ赤になる。そして今日も会えるのを楽しみにしている。
他ごとを考えていた私は、見事に相手の呪文に吹っ飛ばされた。
「ローザ、大丈夫!?」
慌てて駆け寄る仲間に、
「大丈夫!ぼーっとしてて!」
笑顔で答える。
「もう、ローザってば、また殿下のこと考えてたんでしょ!? 」
「そんなんじゃないって!」
なんて言いながらも、私の頭の中はレオン様のことでいっぱいなのだと思い知る。レオン様は狂ったように私に執着するが、関係は何も前進していない。きっと、ずっとこのままなのだろう。だけど、レオン様が隣にいてくれればそれでいい、なんて思ってしまうのだった。
訓練を終え、昼食もいつものように魔導士団の仲間と食べる。このわいわいキャピキャピが苦手だったが、すっかり馴染んでしまった私がいた。
「あーッ!イケメン騎士のアイク様が来たよ!」
「今日もかっこいいねー!!」
ざわつく仲間たちを見て、私も笑っていた。確かにアイクはかっこいいが、私はもっぱらレオン様だ。
「ねえねえ、ローザは?殿下ってどうなの!?」
「一緒に住んでるの?」
興味津々のみんなに、
「……本当に、そんなこと全然ないから!!」
私は真っ赤な顔で告げていた。
どうやら魔導士団のみんなは、私とレオン様が恋人同士だと本気で思っているらしい。確かにレオン様の頭のネジは外れ気味だが、超えてはいけない線は超えていない。それどころか、私がからかわれている可能性すらある。私がそうみんなに言っても、みんなは断固として信じてくれないのだ。
私はこうやってレオン様に狂わされているのだが……
「第二王子に特別扱いされているとか、うざいんだけど」
思わぬ言葉が降りかかり、私は顔を上げた。
私の前には黄緑色のローブを着た、第一魔導士団の集団がいる。彼女たちは嘲笑いの表情を浮かべて、私を見ている。
「あんた『伝説の魔導士』なんだって?
何様のつもり?」
「ただの陰キャじゃん」
私は調子に乗っていたのかもしれない。私は、彼女たちの言う通り、ただの陰キャだから。あまりに周りが優しいから、そのことをすっかり忘れていた。
私はやっぱり、この集団にいてはいけないんだ……
だが、私の暗い気持ちは、
「何言ってんの?」
私を庇うように前に立ち塞がる、深緑のローブ集団によってかき消された。
私の前にはリリーをはじめとする第二魔導士団のみんながいて、一斉に私を守ってくれている。
「あなたたち、笑っていられるのも今のうちよ!」
「ローザを悪く言う人なんて、許さないんだから!!」
私はずっと孤独だった。みんなから嘲笑われ、馬鹿にされてきた。だけど今は違うのだと改めて思う。
今は、こうも私を大切に思ってくれている人に囲まれている。
第一魔導士団の女性は、吐き捨てるように私たちに告げる。
「次期国王はヘルベルト様よ。第二王子に付いていても、意味なんてないわ」
「あたしたちは、レオン様が国王になるから付いているわけではないの」
リリーは馬鹿にするように吐き捨てる。
「あなたたちのそういうしたたかなところ、大嫌い」
それが決定的だった。黄緑色のローブの魔導士たちは、私たちを睨んで去っていった。この陽キャ集団には、口では勝てないと思ったのだろう。そして、争いに巻き込まれたくない私は内心ドキドキしていたが……
「もう!本ッ当に嫌な人たちね!」
ぷんぷん怒るリリーや、
「ローザは全属性の魔法を使えるんだから、特別に決まってるじゃん!」
なんて、私のチート能力さえ認めてくれる仲間に救われたのは言うまでもない。
「みんな、ありがとう!!」
私は笑顔で頭を下げる。仲間がいて、こんなにも嬉しいと思ったことはなかった。
「何言ってんの。ローザが言われ放題で、私たちもムカついてんだから!」
みんなは、レオン様がするように私の頭をわしゃわしゃ撫でる。やられ放題の私は、仲間に囲まれて幸せを噛み締めていた。
食堂を出ても、みんなの怒りは収まらないらしい。
「私たちからすると、ヘルベルト様に付いているほうが不思議だわ。
ヘルベルト様ってすごく性格悪そうだもん」
「万が一レオン様が王太子になったら、彼女たちどうするんだろう」
口々に第一魔導士団や第一王子のことを罵るが、正直もうそろそろクールダウンして欲しいと思ってしまう。散々悪口を言われてきた私は、悪口を聞くと萎縮してしまうのだ。たとえ私の味方だとしても。
そんななか、
「……あれ?」
リリーが遥か彼方の空を眺めて目を細めた。
「どうしたの?」
思わず聞くと、リリーは目の上に手をかざし、目を細める。
「見間違いかなぁ。
……雲の中に、きらっと光る何かがあった気がするんだけど……」
私もリリーの視線の先を辿るが、やはり何も見えない。相変わらず厚い雲に覆われて、空はおろか雲しか見えないのだ。
「本当に嫌になっちゃう。
毎日雨か曇りばっかりで」
皆がこの雨や曇りは、ただの天候のせいだとばかり思っていたのだ。
私だって当然、疑うことすらしなかったのだ。
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