22. 第一魔導士団が睨んでくるのですが
それから、しばらくレオン様は魔導士団の練習を見て去って行った。そして、レオン様は想像以上に近付き難い存在なのだと思い知った。魔導士団の皆は、気安くレオン様に話しかけることなんて出来ず、レオン様が近くに来るとあからさまに緊張していた。
私がレオン様に拾われなかったら……もし、はじめから魔導士団にいたら……絶対に近付かない存在だっただろう。
カイトに至っては、死んだような顔をしていた。というのも、レオン様がカイトをじろじろ見るからだ。挙げ句の果てに、わざと痣が見えるように、カイトの横で髪を掻き上げる。相手がレオン様ではなかったら、ぶっ飛ばしたい衝動に駆られた。
最後に、レオン様は私の近くにやってきた。さりげなく逃げ回っていたのだが、とうとう捕まってしまったのだ。
「ローザ」
名前を呼ばれ、逃げられなくなった私はきっとレオン様を睨む。そんな私の頬に、レオン様はそっと触れた。みんなが見ている前で、そういうのはやめて欲しい。
「これにて私は失礼する。
昼過ぎに、いつもの部屋で待っているよ。君の甘い声を、今日も聞かせてくれ」
はぁ!? なんだかすっごい誤解される言い方なんだけど!!
私はあんぐりと口を開いて、去っていくレオン様を見ていた。ばくばくと心臓を狂ったように鳴らしながら。
レオン様は確信犯だ。結局はその宣言通り、私がレオン様のものだと見せつけて去っていった。これでみんなは、私の魔力交換の相手がレオン様だと確信しただろう。それだけではない、私とレオン様が特別な仲だと勘違いしているだろう。……そんなこと、全然ないのに。
レオン様が去った瞬間、訓練施設は騒然となった。皆が真っ赤な顔をして、一斉に私に詰め寄ってきた。それで訓練どころではなく、レオン様との仲を否定するのに時間を費やした。
「本当に、殿下とは何もないのです!!私たちはただ、魔力を使う上でのパートナーです。
私みたいな陰キャに、殿下の関心があるはずがありません!」
なんて必死に言いながらも、胸がちくりとした。
自分で言っておきながらも、激しい劣等感が湧き起こる。私みたいな陰キャを、レオン様が好きになるはずなんてないのだから。
午前中の訓練を終えると、
「ローザ。一緒に食堂でご飯食べよ!」
リリーに呼ばれた。リリーの気持ちは嬉しいが、私は一人で食事をしたい。陽キャの巣窟である魔導士団にいると、酷く気疲れしてしまうのだ。
だが、こんな陰キャ的な私の考えを、リリーが分かるはずもない。
「みんなでご飯食べると楽しいよ!」
なんて陽キャらしい言葉を吐いて、私は無理矢理食堂へ連行された。
食堂は第二魔導士団の訓練施設から、すぐの場所にあった。ここは第二魔導士団だけではなく、多くの人が利用しているようだ。いかにも強そうな騎士たちや、黄緑色のローブを着た魔導士たちもいる。
黄緑色のローブの魔導士たちを見ていると、
「第一魔導士団よ」
リリーがひそひそと教えてくれる。
「ロスノック帝国第一王子のヘルベルト様が率いる第一魔導士団は、エリート集団って呼ばれてるけど……
冗談通じないし堅っ苦しいし、あたし嫌だなー」
いや、少なくとも私には、第一魔導士団のほうが合っているだろう。だって、こうしている間にも、私の周りにいる第二魔導士団の人は大きな声でべらべらお喋りをし、ワイワイ盛り上がっているのだから。
「でも、ローザが一度目の戦いでグルニア帝国側にいた時、第一魔導士団を吹っ飛ばしたよね!」
「……え!?」
「もしかして知らないの?
あたしたち第二魔導士団は第一魔導士団の後ろにいて、吹っ飛ばされた強者たちを見て笑ってたのよ!」
笑う……戦場で笑うのか。恐るべし空気が読めない第二魔導士団……
だが、私は第二魔導士団のみんなを攻撃していないと知ってホッとしたのも事実だった。人を殺していないとはいえ、この人たちを傷つけてしまっていたら……なんて考える私は、少しずつこの陽キャ集団にも心を許し始めているのだろう。
「ねー、ローザ。第一魔導士団があたしたちのこと、睨んでるよ」
不意に発せられたリリーの言葉に、思わず第一魔導士団の人たちを見てしまった。すると、本当に彼らは私たちを睨んでいるではないか。もしかして、戦場で攻撃をした私を睨んでいるのだろうか。目立たず過ごしたいのに、怖すぎる……
俯く私に、近くにいたカイトも教えてくれる。
「大丈夫だって。第一魔導士団が俺たちのことを敵視してるのは、今に始まったわけじゃないから」
そうなのか。第一魔導士団と第二魔導士団は仲が悪いのか。
だが、第一魔導士団が第二魔導士団を敵視するのも分かる気がする。第二魔導士団は彼らを戦場で笑うわけだし、今だって食堂でわいわいがやがややっている。きっと目障りなのだろう。
陽キャ集団が苦手な私は、第一魔導士団の気持ちだって分かるのだった。
だが、そんなことで落ち込むはずがないのが、第二魔導士団。
「ローザ!ほらほら、あそこ!!
第二騎士団のイケメン、アイク様がいるよー!」
リリーが深緑の隊服の騎士たちを指差し、周りにいる女性たちが黄色い声を上げる。
「アイク、今日もかっこいい!!」
「ねー、リリー。今度第二騎士団と飲み会しようよ!」
「いいねー!」
最後はリリーの言葉だった。そして当然、私はこのノリについていけない。私が最も苦手とするノリなのだ。だから黙って昼食を食べようとするのに、
「ローザはアイクと殿下、どっちがイケメンだと思う?」
リリーをはじめとするみんなに、ぐいぐい話題に引き込まれてしまう。
私はちらっとアイクを見て、また下を向く。
アイクは確かにかっこよく、俗に言うイケメンで間違いないだろう。だけど私はレオン様がいい。レオン様は見た目だけでなく、性格までかっこいいのだから。なんて考えてしまう私は、完全にレオン様の虜となっているのだった。
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