21. 王子の視察は大変だ
「ローザ、おはよう!!」
「お、おはよう!」
次の日の朝、私は魔導士団に出勤していた。もちろん、農園に魔力を送ってそれなりに消耗した後に、だ。
魔導士団のみんなは、昨日と同様私を明るく迎え入れてくれ、私もかなり頑張って挨拶を返す。
こんな私、今日は右手首にさりげなくスカーフを巻いている。というのも、人々の視線が気になって仕方なかったからだ。魔力交換しているか否かは、この国の人々にとって予想以上に重要なことのようだ。
そして、今日はさらなる不安材料がある。昨日、レオン様が、魔導士団の視察に行くと言ったことだ。レオン様はここへ来て、一体何をするつもりなのだろうか。
レオン様の魔力を探ってみるが、どうやらまだ場内にいるらしい。ホッと胸を撫で下ろした。
「みんなー!今日は防御魔法をするよー!」
リリーの元気な声が、訓練施設に響いていた。
防御魔法、もちろん知っている。だが、魔法の花形は攻撃魔法であって、私はそればかり練習していた。だから、防御魔法に関してはほぼ素人だ。頭の中を不安がよぎった。だが、リリーのひとことによって、さらにその不安が大きくなったのだ。
「ローザとカイト、前に出て」
言われたままに前に出ると、カイトと呼ばれた男性も同じく前に出たところだった。カイトは私と同じくらいの年齢で、ダークブラウンの髪をした快活そうな青年だった。その明るい表情を見る限り、私の苦手な陽キャだろう。カイトを前に、居心地の悪い私は俯いた。
「カイトがローザに攻撃魔法をかけて、ローザはそれを防いでみて!」
いきなりそんなことを言われても、どうやって防御すればいいのか分からない。
だけど、ふと思い出した。私は度々防御魔法を目にしてきた。レオン様が戦場で私を守ってくれた時や、レオン様に攻撃魔法をかけてみた時だ。レオン様は軽々と魔法を跳ね飛ばしていた。こんな時ですらレオン様のことを考えて赤くなる私は、まんまとレオン様の罠にはまっているのだろう。
「カイト、ローザに手加減してあげてね」
「もちろんだ」
カイトはそう言って、私に爽やかに告げた。
「いくよ、ローザ!」
カイトは私に狙いを定める。そして、指先に魔力を込めた。その瞬間、私の近くで魔力が渦巻くのが分かる。私はレオン様の防御魔法を思い出し、必死にイメージした。私の周りに、光のバリアーみたいな壁を作るのだ。
魔力の渦は大きくなり、旋風となって私に襲いかかる。私は身体中にまとった光の壁で、それを跳ね返していた。カーンと魔力同士がぶつかる音がする。そして、跳ね飛ばされた旋風は、さらに大きいものとなってカイトへと襲いかかり始めたのだ。
カイトは驚きと恐怖の入り混じった顔で旋風を見ていて……助けなきゃ、と私は思った。そしてカイトへ襲いかかる旋風めがけて、新たな魔法を飛ばしていた。旋風よ、どうか消えてと思いながら。
旋風は、閉じられたカイトの目の前ですっと消えた。ごーごーと渦巻く風の音が消えた訓練施設は、しーんと静まり返っている。私は信じられない思いでカイトを見ていた。
今の、何?私は旋風を消したの?
ぽかーんとする私に、リリーが驚いたように教えてくれる。
「ローザって、聖属性の魔法も使えるの!?」
「……え!?」
聖属性の魔法。それはゲーム中の話であるなら、私も知っている。聖属性の魔法は別名白魔術と呼ばれ、聖職者のみが使えるのだ。いわゆる『黒魔術』を使用する魔導士は、白魔術を使えない。
「い、今の!光属性の魔法じゃなくて!? 」
思わず聞き返すが、リリーは驚いた表情のまま教えてくれる。
「光属性なら、光が見えるはずだもん!
ものを消したり、人を回復させたり、息の根を止める魔法は、聖属性だよ」
訓練施設の中がざわざわし始める。どうやら、魔導士が聖属性の魔法を使えるなんて、前例がないらしい。私は想像以上に型破りな存在だったのだ。
ざわざわする訓練施設の中で、カイトはにこにこして私に歩み寄る。そして、ぎゅっと私の手を握った。
「ローザ、助けてくれてありがとう!
ローザって、すごいや!!」
私は目立とうとしてやったわけではない。ただ、カイトを助けたくてがむしゃらにやっただけだ。こんな私を、カイトは素直に褒めてくれる。それが嬉しくて、私は微笑んでいた……
そんななか……
「皆の者、ロスノック帝国第二王子レオン様が、魔導士団の視察に来られた」
不意に聞き覚えのある声がして、思わず扉を見た。扉の前にはマリウス様と数人の護衛がおり、その奥にレオン様がいる。レオン様と視線がぶつかり、私は慌てて目を逸らした。そして、カイトはばばっと握っていた私の手を離す。
私としたことが、レオン様のことをすっかり忘れていた。レオン様が視察に来るということを。おまけに、カイトと手を握り合っていたところを見られてしまった。
「みんな、整列してレオン様に敬礼!」
リリーの声で、魔導士団員は列を正す。そして胸の前で右手を握りしめた。私は列の隅っこに行き、見よう見まねで右手を握りしめる。かあっと顔を紅くさせたまま。
そんな魔導士団員たちをレオン様は一瞥し、静かに告げる。
「楽にしてください」
それで皆は、握りしめた右手を下に下ろした。私はレオン様を見ることが出来ず、紅くなって俯く。こんな私たちの前で、レオン様は話し始めた。
「私が今日ここへ来たのは、皆に一つ頼み事をしたかったからだ。それは皆の想像通り、ローザのことだ」
私は顔を上げることが出来ないが、レオン様の視線をひしひしと感じる。それだけではなく、魔導士団のみんなも、レオン様の話こそ聞いているが、私が気になって仕方がないのだろう。
「ローザはどういうわけか故郷を離れ、この地に迷い込んだ。そして迷い込んだこの地で、我が軍を救ってくれた。
誰も成し遂げられなかった野菜の栽培も、その高い魔力によって成功させることが出来た」
いきなり、こんな功績を話すのはやめて欲しい。私がロスノック帝国を救ったのは偶然だし、野菜の栽培をしたのも興味があったから。なにも、もてはやされるためにした訳ではない。
「私は、散々身を粉にしてきた彼女に、これ以上無理をしないで欲しかった。
だが、彼女は魔導士団に入って国に貢献したいと言って聞かないのだ」
確かに私は魔導士団に入りたいと駄々をこねた。だが、私が望んでいるのは、こういった特別扱いではない。魔導士団の隅で、目立たずひっそり過ごしたいのだ。
顔を上げると、レオン様と視線がぶつかった。私は真っ赤な顔のまま、きっとレオン様を睨む。だが、レオン様は勝ち誇った顔のまま告げるのだ。
「ローザ。私が来たら、きっと君は怒ると思っていた。だが、私は君が城内を自由に行き来出来るのも、不安に思っている。
君の魔力が強大すぎるから、グルニア帝国も君を手に入れたいと思っているだろう」
……え!?
「だから私は、皆に直々に頼みに来た。
ローザを敵の手に渡らないよう、守って欲しい。そして、故郷を離れ独りになったローザと、仲良くして欲しい。
……ローザがグルニア帝国の手に渡ったら、我らを待ち構えるのは敗北だ」
ちょっと、大袈裟過ぎるでしょう!しかも、レオン様は、私がレオン様のものだと見せつけに来るのではなかったの!?それなのに、私を守れ、私と仲良くしろと言いに来たのだ。どちらにせよ、特別扱いもいいところだ。
レオン様はシャツの袖を軽くたくし上げている。そして軽く腰に添えた右手首には、くっきりと魔力交換の痣が見える。
何やってるの!!見せつけないでよ!!
わざとやっているんだ!!
私はひたすら、皆がそれに気付かないことを祈るのみだった。
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