13. 農業改革をしてみる
「魔力交換ってのはね、普通は生涯尽くすと決めた人とする契約なのよ」
私がレオン様に散々弄ばれ、魔力交換を迫られた次の日、いつものように魔法の指導に来てくれたリリーが教えてくれた。
「魔力交換とは、魔力をお互いに分け与える契約なの。今まではそれぞれ一つの体に入っていた魔力を、二人で二つ分の魔力を分かち合うようにするの。
魔力交換によって、相手の属性の魔法も使えるようになるし、二人で魔力の分配も出来るようになるわ。魔力交換を行うことによって、その二人の魔力も底上げだってされる。
だけど、そのせいで悪用も出来るの。
魔力を全部吸い取られて廃人になってしまった人もいるわ。
探そうと思ったら、相手の居場所だって探せるしね」
そうなのか。魔力交換とはまさしく諸刃の剣なのか。
そして、レオン様が私と魔力交換をしたい理由は、いくら鈍い私でもピンと来る。私はどの属性の魔法でも使えるし、魔力は桁外れに高い。
レオン様がそういった理由で魔力交換をするのならば、私は喜んで差し出すだろう。
だが、レオン様は私を守るために魔力交換をすると言ってくださった。そもそも、魔力交換は、ただ一人の人としか交わせない、それで私は拒否しているのだ。
レオン様の魔力交換のチャンスを、私なんかが奪ってはいけないのだ。
この後、私よりも優れた魔導士が現れたら、きっとレオン様は後悔するだろう。だから、レオン様は私なんかとは魔力交換をしてはいけない。
思っていることをリリーに話すと、
「なんかちょっと違う気もするなぁ」
リリーは首を傾げて考える。
「魔力交換って、普通は結婚相手とか尊敬する師匠と交わすものだよ。そこには絶対的な信頼関係が必要だから。
だから、レオン様が会って一ヶ月のローザと交わすのもね……」
け、結婚相手だなんて!!それならば、やっぱりレオン様と魔力交換をするのは無理だ。
レオン様はなぜか先走っているが、しっかりと考え直してもらわないといけない。
「ローザは知らないと思うけど、レオン様の魔力だってすごく高いわ。……魔導士団長のあたしよりも。
だから、ローザくらいしか魔力交換をする相手がいないのかもしれないけど……」
その言い方、なんだか私が残り者みたいでグサッと来る。だが、リリーが言っていることは本当なのだろう。とにかく、レオン様には後々後悔しない相手と魔力交換をして欲しいものだ。
「それよりも、ローザ。今日はなんだかすごく疲れているね」
「うん……レオン様に魔力交換だと、追っかけ回されたからかな」
なんて言いながらも、思い当たる節がある。
私は昨日、あれからずっと農園に魔力を注ぎ込んでいたのだ。レオン様と別れた後、自室にいるふりをしながら、ずっと土に手を突っ込んでいた。
おかげでたくさんの魔力を消耗したが、芽は少しずつ大きくなっていった。どうやら草属性の魔力を与えれば与えるほど、成長も速まるようだった。そして、それは草属性以外の魔力では代用出来ないようだった。
今日だって、ついさっきまで農園にいた。そして、魔力を注ぎ込む以外にももう一つ考えたのだ。太陽を召喚出来なくても、太陽と同じくらいの強い光で照らせばいいのだということを。
私は魔法の訓練によって、強い光を出せるようになっていた。だが、それは一瞬だったのだ。
リリーに相談すると、リリーは驚いた顔をする。
「ローザって、変なことするよね!
この国の日照不足に関しては、もうみんな諦めているのに」
諦めたい気持ちも分かる。だが、私は昨日発見してしまったのだ。魔力を注ぎ込めば、作物は息を吹き返すことを。そして、太陽の代わりになる光があれば、日照不足は解消されるかもしれないことを。
「そうね……持続魔法を使えば、持続的に魔力を注ぎ込んだり、強い光で照らし続けられるかもしれないわ」
考えるリリーに、
「持続魔法!?」
思わず聞いていた。
だけどリリーは、あまり浮かない顔で話すのだった。
「ローザは出来るようになるとは思うけど、持続魔法は高度な魔法なの。かけている間ずっと魔力は消耗するし、何時間どのくらい魔力を使うか計算しなきゃ、魔力が全て奪い取られて倒れてしまう。
教えてはあげるけど、無茶しないでね」
私は大きく頷いていた。
こうして私はリリーから持続魔法を学び、農園にて実践することになった。
持続魔法は、リリーの言う通り本当に疲れるものだった。眩しい光を広い農園全体に浴びせるだけでも疲れるのに、それを持続させるのだ。おまけに、私にはまだ五分ほどしか魔法を持続させることしか出来ない。結局、五分おきに農園と部屋を行き来していた。
そして、比較的魔力に余裕がある時は、土に手を突っ込んで魔力を送るのだ。
こんな農園の異変にいち早く気付いたのはレオン様だ。
私の部屋に飛び込むなり、
「ローザ。農園が眩しいのだが」
まるで私のせいだと言わんばかりに告げる。二言目には魔力交換だと言い始めないか心配したが、どうやら今日は何も言わないらしい。押して引く作戦を取るレオン様は、人の心を掌握する熟練者だろう。
私は平静を装ってレオン様に告げる。
「作物に草属性の魔力を与えれば、生きる力を取り戻すことが分かりました。
さらに元気に育ってもらうよう、太陽の光に代わる光をと思いまして……」
「そうか……」
レオン様はじろじろと私を見る。私は必死に消耗しているのを隠すため、笑顔でレオン様を見上げる。
こんな私に、
「ローザ。君が心を開いて笑ってくれるのが、私はとても嬉しい」
レオン様は言う。
そんな甘いことを言うのは、やめて欲しい。私が笑っているのは、心を開いているというより、消耗しているのを知られたくないからだ。
だが、それすらレオン様は分かってしまうのだろう。
「分かった。私は草属性の魔法は使えないが、光の持続魔法なら使える。
私も魔法で農園を照らすとしよう」
レオン様はそう言って、そっと私の頭を撫でた。こういう不意打ちに、私は弱い。もう体もヘトヘトなのに、ありったけの力で固まってしまうから。熱なんて放出している余裕もないのに、顔が真っ赤になってしまうから。
レオン様は農園へ移動し、瞬時に光の持続魔法を発動させた。レオン様の光は、それはそれは眩しいものだった。まるで太陽が落ちてきたかのような、神々しい光だった。澄んだ銀色の光が、煌々と農園を照らしている。
「日没には消えるように調整した。
ローザも今日はゆっくり休むといい」
きっと、私が酷く消耗していることだって、レオン様は分かっているのだろう。そして、レオン様の魔法を見ると、私は最強魔導士なのかと不安になる。現段階では、レオン様のほうが私よりもずっとずっと優れた魔法を使うことが出来る。おまけに、消耗だってしていないように見える。
ゲームの中ではレオン様は極悪非道だった。だが、魔力や戦闘力も極めて高かった。主人公たちパーティーが立ち向かっても勝てないほどに。
現実のレオン様も、人間離れした能力なのかもしれない。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




