1. 陰キャですが、何か?
新しい話を書かせていただきます。
よろしくお願いします。
浜田 薔薇。彼氏なし歴=年齢。今日も一人でRPGをします。
そもそも、私がこんなに陰キャとなったのは、この馬鹿げた名前のせいである。薔薇と書きローザと読むめちゃくちゃなこの名前のせいで、私は常に迷惑を被ってきた。
幼稚園時代。
ローザちゃんって可愛い名前だね、とみんなから言われた。私は自慢の名前だと思っていたが、先生やお母さんたちからは苦笑いをされていた。
小学生時代。
みんな字が読めるようになってくる。
もちろん薔薇なんて字は小学校では習わないが、みんなそろそろ気付き始める。あれ?浜田薔薇の字、おかしいぞ。と。
その結果、酷いいじめやからかいにあった。
もとから薔薇という名前に負けてしまうほど、私は活発でも美人でもなかった。だからなおさらだ。女子たちからは仲間はずれにされ、男子たちからは馬鹿にされた。
中学生時代。
いじめやからかいが、ますます酷くなる。
病院などで名前を呼ばれるのさえ苦痛だ。呼ばれると必ず注目の的となり、私が純日本人であることを理解するとともに、慌てて目を逸らされる。
高校生時代。
もう、無である。
人との付き合いは諦め、ゲームという孤独の道に突き進んだ。
こうやって私は現在も、陰キャ街道をまっしぐらだ。
もちろん生きていくうえで仕事をしているし、必要最低限の社会には出ている。だが、大人になった現在目立ったいじめはないものの、呪われたこの名前を笑われているのはよく分かる。
こんな名前でなかったら良かったのに。いや、そもそも、こんな世界に生まれなければ良かったのに……
そう思いながら、今日もゲームをする。
今やっているゲームは、王道の冒険RPGだ。
勇者を先頭に、次々出会う仲間とパーティーを組んで冒険し、最後は諸悪の根源を倒すのだ。
現在、グルニア帝国で生まれた主人公が、仲間とともに悪の国ロスノック帝国へと攻め入る場面だ。
国を挙げての大戦争となっており、次第にグルニア帝国軍は負け始める。このシーンのラスボスは、ロスノック帝国のレオン第二王子だ。
レオン第二王子までは辿り着くものの、王子が強すぎて勝てない……この王子は剣も魔法も使う強者で、すでに三回も負けている。
画面に映し出された憎き王子は、いかにも悪役といった不敵な笑みを浮かべ、言葉を吐き出す。
『貴様みたいなザコ共が、この私に勝てるとでも思うのか』
『笑っていられるのも今のうちだ!』
パーティー内の仲間がそう言い、戦闘が始まる。だが、笑っていられるのも今のうちだなんて、ただの戯言に他ならない。
レオン第二王子は凄まじい速さで斬りつけ、光属性の魔法を使ってくる。現在、主人公の職業が魔導士のため、魔法はなんとか防御出来る。だが、物理攻撃に対しては紙なのだ。
その他のメンバーも、この王子を前に防御しか出来ない。
だからとうとう、私は最後の攻撃に出た。主人公に、全魔力と引き換えに捨て身の魔法を使ってもらうのだ。
震える手でそのコマンドを選択し、主人公は呪文を唱え始める。そして、捨て身の魔法を繰り出した時……辺り一面が真っ白になった。あまりの眩しさに、私は目を閉じていた……ーーー
ーーーーーーーー……
ーーーーーー……
ざわざわと人の声がする。
冷たい風と熱い風が吹き荒び、私の髪を巻き上げた。何やら焦げ臭い匂いもする。
「伝説の魔導士様!?」
その言葉で、私は目を開けた。そして、心臓が止まりそうになった。
私の前には大平原が広がっている。そして、どんより低く垂れ込めている雲の下、茶色く乾燥したこの大平原にたくさんの人が倒れていた。
倒れているのは緑色の鎧の戦士、そして同じく緑色のローブを着た魔導士らしき人まで。
近くにいた、赤い鎧の男が私に聞く。
「あなたは、噂に聞く伝説の魔導士ですね!」
……は?伝説の魔導士?
訳が分からない私は、ぽかーんと男を見る。そして彼は、喜びでいっぱいの顔で私に駆け寄った。
「遠い昔からの伝承です。
グルニア帝国がピンチになった時に現れるという、黒髪と漆黒の瞳を持つ、伝説の最強魔導士様ですね!!」
ちょっと待って。何かの間違いに決まっている。しかも……グルニア帝国?
さすがのゲームオタクの私でも、おかしいことはよく分かる。グルニア帝国というのは、ゲーム上の土地であって、実在する土地ではない。
ゲームのしすぎで頭が狂ったのだろうか。いや、きっとこれは夢だ。夢に違いない。
混乱しながらも頬を引っ張るが、しっかりと痛みを感じる。
夢なら醒めて欲しい。だって、ロスノック帝国の第二王子レオンが現れて、殺されてしまうかもしれないから!
それなのに、この悪質な夢は醒める気配がない。私の周りに次第に赤い鎧の人たちが集まり、万歳三唱まで唱えられる。
「伝説の最強魔導士様!ぜひ、このままグルニア帝国へ来てください!」
そうは言われても、私は最強魔導士なんかではない。そもそも、魔法なんて使えない。一体、どうなってしまうのだろうか。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!