諸行無常の響きあり
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなり夢から現実へ引き戻された。どうやら周りの生徒も眠っていたようで、起立の号令に間に合わず慌てて立ち上がる生徒もいた。
「ありがとうございました」
その号令がかかると日本史の先生は不貞腐れたように職員室に向かっていった。僕がもう一度席に座り、机に突っ伏していると、
「なぁーに、寝てんだよ、來羅」
と笑いながら優斗が机を揺らしてくる。
優斗は高校からの友達で気さくなやつだ。中学は違うが優斗が校区の端に住んでるため家が近く最寄り駅が同じなのでよく一緒に帰っている。
「なんだよ、眠いっつうの」
「んなつれねぇこと言うなよ...ほら、帰ろうぜ」
「いや、今日は用事がある」
「お、?もしかして?今日は大好きな里菜ちゃんに告白ですか??」
「、、っ!ばか!近くに本人いるんだぞ!聞こえたらどうすんだよ!」
「あ、もしかして図星、、?」
「、、、」
「悪かったって、でも里菜とお前もよく一緒に帰ってるしむしろ今更って感じじゃん?あぁ嫉妬しちゃうねー、俺の來羅が里菜にとられちゃう」
「お前なぁ、いっかい黙──」
「ま、頑張れよ!」
そう言って優斗は教室を出た。
須郷里菜は同じ中学校から一緒の高校に進学した子で、成績優秀、容姿端麗、優しく、おまけにダンスも上手い。そんな高スペックなため男子からも人気だ。
優斗め!失敗したらお前のせいにするぞ、そんなことを考えながら帰宅準備中の里菜に声をかける。
「里菜、今日一緒に帰らない?」
「いいよー!帰ろ!」
とりあえず胸を撫で下ろす。
「來羅が改まって誘ってくるなんて珍しいね。いつもはわざわざ誘わないじゃん?」
「優斗が先帰っちゃって帰る人がいなくてね、」
咄嗟のいい訳にしては上手くできたと思う。
「えー私は第二希望??」
「え、いや、そんなつもりじゃ──」
「ごめんごめん、冗談だよ!ほら帰ろ!」
里菜は笑いながらそう言った。
今世紀一番焦ったけどなんとか告白のステージは整った。頑張れ俺!!
学校を出て駅まで向かう。
駅から電車に乗って最寄り駅まで向かう。
最寄り駅から帰る途中少し寄り道する。
あっという間に気づいたら里菜の家と僕の家の分かれ道だ。
じゃあね。と手を振る里菜に勇気を振り絞って
「里菜!」
と引き止める。驚いた顔で僕を見る里菜に僕はさらに続けた。
「里菜さん!ずっと前からあなたのことが好きでした!僕と付き合ってください!」
そう言って手を伸ばす。下を向いていたため表情は見れなかったが、ゆっくりと僕の手を取ろうとする里菜の手が視界に入った。おそらく僕の心音は里菜の耳に届いていただろう。
「こちらこそよろし───」
急に口ごもり、手を引っ込めた里菜に僕はパニックになった。顔を上げると、パニックはより激しくなった。
里菜が黒い服の人物に口を押えられ、喉元にナイフのような刃物を当てている.....
僕は意味がわからなかった。咄嗟に里菜を助けようと足を踏み出す。すると何かに背中を引っ張られ、里菜と同じように口を押えられる。
──何!?何!?何!?どういうこと??誘拐??拉致??
なんで僕たちが??この日に??ってかなんか甘い匂い、、頭がぼーっと、、眠くな──
気がつくとボロ小屋のような場所で柱に手を縛られ、動けなくなっていた。里菜は!?そう思い顔を上げると、向かい側の柱に僕とあらかた同じような状況の里菜がいた。しかし、里菜はまだ目が覚めていない。辺りを見回しても暗くて何も見えない。
「里菜!里菜!」
呼びかけに応答したかのように里菜に意識が戻る。
「らい...ら?ここ…どこ??そうだ、私たち誘拐されて、それで…思い出せない」
「僕もここがどこか分からない…周りもくらいし──」
カツッ、カツッ、カツッ、カツッ、
革靴のような足音がした。こちらに向かってくる。
本能的に僕も里菜も黙った。さっきとは違う邪悪な緊張がこの場を包む。そろそろ目が慣れ、ある程度周りが見えるので、足音がした方向に目をやる。僕も里菜も息を飲んだ。5人、銃を持った黒服がいた。その中にさっきの2人の黒服がいたかは分からないが、恐怖でそれどころではなかった。するとフードを被った黒服が1人、里菜の前に座り込んだ。僕は叫んでこっちに気を向けさせようとしたが、他の黒服にうるせえと顔を蹴られ動けなかった。
「お嬢ちゃん、須郷里菜、であってる?」
震えながら里菜が頷く。
「そうか、じゃあ俺の質問に答えろ。答えによっては殺す」
そう言って黒服の男は里菜に銃を構えた。
「やめろおおお!!」
僕は叫んだ
「チッうるせぇなぁあ。...おいルーク、そいつの口塞げ」
黒服の1人が僕の口に細い鉄パイプのようなものを噛ませた。
「質問だ須郷、俺を知ってるか?」
そう言って男はフードを取った。僕には男は背中を向けていたので顔は確認できなかった。が里菜は少し間を開けてから
「……知り…ません。」
と震える声で言った。一瞬里菜の表情がさらに引きつったように見えた。
すると男は立ち上がり
「そうか」
そう言って再び里菜に銃を構えた。
「ん゛ーーーーーー!!!」
僕は必死に叫んだ。
「やだ…やだやだやだやだ!誰か助け──」
パァァァァン
訴えも虚しく、鉛玉は里菜の頭に深く突き刺さった。
僕の頭は真っ白になった。
それとは対照的に、里菜の頭は赤く染まっていく。
「さてさてさて、お次は」
そう言って男は再びフードをかぶり僕の前にしゃがみこみ、口枷を外した。
「お前は無条件な。何か言い残すことは?」
僕はどうでもよかった。
「、、、」
「そうかそうか」
男の指が引き金にかかる。
キユイイイイン
目の前が明るくなった。
「、っなんだこれ!?」
男が退いた。自分が座り込んでいるところを見ると、魔法陣のようなものが白く強く光っていた。
「クソ!この魔法陣まさか!」
男は僕に向かって撃ったが、弾は直前で弾けた。男は銃を捨て殴りかかってきた。だがその直後、目の前の景色が変わった。