8.終焉の交わり
後輩に見せた際に、登場人物が一気に増えすぎて付いていけないと言われた問題の章。
名前付いてますが、モブだと思ってお楽しみ下さい。
知世は皆より遅く、集合場所にやってきていた。
「遅かったね」
声をかけてきたのは親友、奈美だった。知世の血まみれの格好を見て心配そうな顔をする。
「大丈夫、血は大分流したけど戦えるよ」
そう言って笑顔を作ると、渋々と言った感じで納得した。
そうしているうちに空から少女が降ってきた。
「お帰り、京子」
京子と呼ばれた少女は空に浮かんでいるヘリコプターを指差した。
「邪魔なカメラ壊してきたよ」
おそらくはカメラを壊せばあのヘリコプターは安全な場所まで避難するだろう。
口では邪魔なカメラを壊したと言いつつも、恐らくはこれから始まる戦いに巻き込まれないように計らったのだろう。
「知世も到着したんだ。これで全員集合だね」
京子は知世を確認するとその場の全員、16人の顔を見渡した。
それと同時に軍隊が動き出した。攻撃の合図が出されたのだろう。
軍隊を見渡すと、陸には戦車に加え魔族や聖神や魔法を使う人間の部隊。
空にも戦闘機や羽の生えた魔族や聖神の混成部隊が配置されていた。
4つの世界の混成部隊。
「もう、人が折角、話をしようと思っていたのに」
京子は攻撃を開始しようと動きだした軍隊の方を向かって、睨みつけた。
「黒色絶壁」
京子がそう叫ぶと、その手から巨大な壁が広がる。
巨大な壁は京子や知世たちを取り囲むように円形に広がり、天を貫かんばかりに伸びる。
一瞬で16人と軍隊を隔離した。
「京子、どれくらい持つの?」
「5分位かな。でも、これでゆっくりお話が出来るね」
改めて、全員の顔を見渡す。
「覚悟は出来てる?」
皆、一様に頷く。例え出来て無くても、もう後戻りは出来なかった。
ここにいないメンバー、隊長であるリーダを初め、4大魔術師の後継者、海魔の少女。
その仲間たちが作戦を実行してくれるまでの時間稼ぎ。それが、今ここにいるメンバーに課せられた目標だった。
「じゃあ、私の考えた作戦を言うね。相手はいろんな世界や国の混合軍って考えると、指揮系統を潰せば相手から勝手に崩れてくれると思うの。だから、未加は笛を吹いて、奈美は雷を起こして。魔力を込めた笛の音で、音波・魔力系統の通信を遮断。雷のノイズで電波系の通信の遮断を行うわ。戦いの最中に魔力を放出しっぱなしで大変だと思うけどいける?」
京子が聞くと名前を言われた2人は頷く。それを見て、京子が作戦を続ける。
「通信手段を断ち切ってしまえば、もはや烏合の集も同然。そこに奴夫、鈴、真奈美の3人の魔法で対空砲火。地上の軍隊に向けては豚太の爆弾術、里の魔法で攻撃。攻撃を潜り抜けてきた相手に対して、遠距離で私の弓と郷志の魔法、あと竜の銃で迎撃。それでも撃墜できなかった相手に対して光、ザク、知世の近接攻撃で撃破」
京子がそれぞれを指差しながら指示を出す。
リーダが仲間になるまでは、このメンバーのまとめ役をしていただけあって、京子は全員に適切な指示を出していく。
このメンバーの中で他のメンバーの能力を完全に把握している人間は他にはいないだろう。
その京子が一人の少女の方を向く。
「幸子、竜王モードは何分持つ?」
「1分。後先考えないなら3分はいけるよ」
京子に問われた幸子が時間を答える。
「3分あれば上出来。幸子は全力で敵軍隊に特攻。時間ぎりぎりまで暴れてきて。美代はその間待機。幸子は戻ってきた後、動けなくなるだろうから、流れ弾とかから守ってあげて。あと、百合実だけど、後で指示を出すからそれまで待機で」
もう一度、京子が全員を見渡す。
誰も、指示に対して否と応える者がいないことを確認すると幸子の方を向く。
「幸子、準備お願い。幸子の竜王発動に合わせて黒色絶壁を解除するから、皆準備してね」
指示を受け、幸子が目を瞑り呪文を唱え始める。能力の発動に必要な儀式的な物なのだろう。魔力が高まっていくのを肌で感じる。
「じゃあ、行くね」
京子の声と同時にメンバーを囲んでいた黒い壁が消える。
それに合わせるように空が裂け、そこからドラゴンが現れる。
敵の集団から動揺の色が伺える。
それと同時に味方のほとんども、予想外の出来事に硬直していた。
ドラゴンは味方メンバーがいる方に降りてくると、そのまま幸子の体の中に吸い込まれていく。
肌が焼ただれそうになる程の熱気と、凍て付く程の冷気を同時に幸子から感じる。
魔力で周辺を感知しているだけに、知世には余計にそう感じたのかも知れないが、感覚が狂う程の力を感じる。
幸子は絶対的な圧倒感を放っている。
次の瞬間、幸子の体が消える。
メンバーの中で一二を争う素早さを持つ知世にすら、感知出来ない速さで敵軍の中に移動しただけだった。
そして、敵軍の中央から爆炎があがる。
まるで隕石が落下してきたかの様なクレーターが出来上がり、そこにいた軍隊を蒸発させる。
圧倒的な破壊活動。
幸子が3分間暴れれば、それだけで敵軍が消滅するのではないかと思わせる程の破壊活動が次々と至る所で行われていった。
3分間経つか経たないかという程で幸子が帰ってくる。
それと同時に美代の腕の中に倒れこむ。
「美代、幸子息してる?」
京子が心配そうに尋ねる。美代は幸子の様子を確認する。
「息はしてるけど、大丈夫なの? ピクリともしないよ?」
「息してるなら安心ね。1分でも体動かせなくなる位疲労するのに、3分も頑張ったんだもん。多分、当分意識を取り戻さないと思うから、しっかりと守ってあげてね」
そう言うと京子は弓矢を取り出した。
「幸子が敵軍を相当乱してくれたし、私達も頑張らなきゃね」
その言葉と共に幸子の動きに見入っていたメンバーが作戦通りに攻撃を始める。
「森下さんを使うなんて、京子さんにしては珍しいですね」
素朴な疑問を尋ねてみる。
京子と森下幸子は親友であり、京子は幸子のことを過保護に扱う印象を受けていた。
だが今回は、最前線に起用した。しかも、動けなくなる位に酷使する。
今までの京子のイメージからは想像出来ない采配だった。
「知世は今回の作戦どう思う?」
突然聞き返されて考える。
「無謀な作戦だと思います。ですが、奈美と西空さんの通信手段を妨害する作戦は、多彩な混合軍である敵軍に対しては効果的だと思います。そして幸子さんの単騎突入は、敵軍を中心から掻き乱し、通信の妨害の効果をより高める結果となっています。更に、圧倒的な力、ドラゴンが舞い降りる演出は敵軍に恐怖心を与え、通信を取れないことはそれを増長させる結果となっています」
それを聞いて、京子は嬉しそうな顔をする。
「ようは、幸子が役に立ったってことだよね?」
「ええ。効果を考えると必要不可欠な役回りですね」
「本当言うと、幸子を使うつもりは全く無かったんだ。でも、昨日の幸子に釘を刺されてね。見てるだけは嫌だって」
「それで、これですか?」
「どうせ使うなら、より効果的な場面で使うべきでしょ? 結局の話し、後ろで見ているだけでも、これだけの大軍相手なら危険には変わりないんだし」
そう、今の私たちには安全な場所なんて無いのだ。
空の大群に向かって岩の塊と氷の刃と水の槍が放たれる。
大地は裂け、いたる所で爆発が起こる。
その中を潜り抜けて来た敵を弾丸と弓と炎の塊が撃ち落す。
知世たち近接組みまで殆んど敵はやって来なかった。
しかしながら、敵は無尽蔵に襲来し、途絶えることを知らない。
数10分は経っただろうか、メンバーに疲れの色が見え始めた。
それを見て京子が次の作戦を考える。
「百合実、覚悟は出来てる?」
後ろでずっと待機していた少年が頷く。
殺さずの風の通り名を持つ百合実は敵を殺さずに戦場を渡り歩いてきた。
一見女性にも見える外見の彼は非好戦的で、仲間内でも彼の戦っている姿を見た事のある者は少ない。
「この状況、不殺を貫くのは厳しいと思うけど、大丈夫?」
改めて聞きなおされ、百合実は少し暗い顔をした。
「この戦争自体、不本意な戦いだけど、やると決めたからには後には引かないよ。どうせ、気絶させた所で他の攻撃に巻き込まれるだけだろうし、それならば、僕の手で……」
「ふぅーん。覚悟してるんだ。感心感心」
「なんか、馬鹿にされてる気がするんだけど」
「そんなことないよ。それより、あなたには、第2陣をお願いしたいの」
「第2陣? つまりは森下さんと同じように突撃しろと?」
「そそ。幸子ほどの破壊力は期待してないけど、先程ので敵さんは心に恐怖を覚えてると思うの。突っ込むだけで効果はあると思う。でも、危険なポジションだからあなた程の実力がないと出来ないと思う」
了解と呟くと、百合実はゆっくりと敵陣の方を見渡した。
そして、地を蹴る。
まるで空を駆けるかのように滑らかに、そして素早く敵陣の中に消えていく。
百合実が通った後は、まるで道を造るかのように人が消滅していく。
幸子のような派手さは無くともそこにある命を確実に一瞬で摘み取っていく。
百合実が投入され敵足は弱まったものの、味方の体力消耗は激しく、近接組みも戦線に本格的に参戦を開始した。
戦争が始まって、何時間が経過しただろうか。
敵軍には死体の山が築き上げられていた。
しかしながら一行に敵の増援が納まる様子も無く、味方の体力消耗もピークに達していた。
ドドーン!!!
そんな中、轟音と共に大きな花火が天空に広がった。
味方の集合の合図。
周りの敵を渾身の力で切り払うと知世は京子の下へと足を向けて駆け出した。
京子の下へ順次、メンバーが集まり、最後に百合実が敵の群れの中から舞い戻り、全員が集合をした。
京子は再び、メンバーの周りに黒色絶壁を展開した。
「お疲れ皆、そろそろ時間だよ。始まるまでに体力を回復してね」
京子は皆にそう継げた。
◇◇◇◇
テレビでは何処の局でも臨時の報道番組を放映していた。
世界は知世たちを本気で殺そうとしているのが、報道の内容で充分理解が出来た。
学校での出来事は心の何処かでは悪い魔族が人間を襲いに来ただけ。
そう、心のどこかで期待していた。
テレビで告げるには、地球上の各国の軍隊、魔法世界の各国の軍隊、魔界の軍隊、そして聖神界の軍隊。知世たちを殺すためにそれぞれの軍が協力をし、混合軍として立ち向かっているのだ。
間違いなく知世は世界に敵として認識されたのだった。
そして、知世たちは徹底抗戦の態度を示している。
化物。シンが前に知世のことをそう呼んでいたのを思い出す。
ニュースだけを見ればそう思えるかもしれない。
知世たちを徹底的に悪者に仕立て上げる報道。
そして、たった16人という人数で、あれ程の軍隊と渡り合う力。
化物であると思わせるには充分な材料だった。
知世が魔法のこと、それに虎姫という名について話すときに寂しそうな顔をするのを思い出した。
世界に疎まれる力だからこそ人には、咲にさえ話したくは無かったのだろう。
きっと、知ってしまえば友達でいられなくなる。いや、嫌われても仕方ないとさえ思っていたのだろう。咲にはスケールが大きすぎて現実味すら感じられない。
テレビ画面の中では戦いの様子が映し出されている。
知世の仲間たちによって行われる、大量虐殺。刺激が強すぎるその映像は、世界が望んでいたのとは逆の映像なのだろう。
画面の中の形勢は、たった16人の戦士が有利に映っていた。
その、16人の戦士たちが一箇所に集まり、黒い壁に覆われていく。
「おぅ? あいつら、なんか始める気か?」
となりで一緒にテレビを見ていた彩羽が声を上げた。
そして、その直後に地面が揺れだす。
それは、部屋の物を次々に倒すほどの大きな地震だった。
「やべぇな、これ」
妙に落ち着いた声で彩羽が呟く。
彩羽は急に咲の体を抱きかかえると、家の外へと飛び出した。
咲は抵抗する暇も無く、なすがままにされる。
彩羽は外に出ると、地を蹴り屋根の上へと飛び上がった。
目に映る景色に言葉をなくす。
地面が割れ、建物や道を飲み込んでいく。
空が裂け、黒い空間が覗き込んでいる。
それは、まるでこの世界が崩壊しているとしか形容しがたい状況だった。
もしかしたら、本当にこの世界が崩壊しているのかも知れなかった。