9.終焉と新生
それは昨晩の話。
夕食の後、メンバーは京子にリビングに集められていた。
そこに集まったのは同居している16人だけではなかった。
このメンバーのリーダーであるリーダ、四大魔術師の後継者、光の裕輔、心の明里、時の疾風、闇の純、それに海魔の少女のリナとレナ。
仲間と呼べるメンバーが一同に揃うのは珍しいことであった。
「いちのからの情報があるんだけど」
メンバーが集まったのを確認して京子が皆に告げる。
いちのは魔法世界のΛ国の王女。訳あって京子とは親友の間柄である。
Λ国の王女からの情報。
それは、ここにいるメンバーの抹殺が世界的に決定事項となったという内容だった。
本格的な始動は明日の夕方。
世界が本格的にここにいるメンバーを殺す為に動き出すという内容。
いちのの収めるΛ国も只の小さな一国に過ぎない。
国の上に立つものとしては表立ってここのメンバーを助けることは出来ないだろう。
「世界に要らないと言われても、それでも私は只、殺されるのを待つのは嫌なの」
京子が静かに告げる。
世界の脅威となるだけの力を有しているから殺される。
それは、確かに納得のいく内容ではなかった。
「徹底抗戦。それが私の意見よ」
「だが相手が世界って、スケールがでかすぎるだろ」
誰かが呟く。確かにどう足掻いたところで勝ち目のない戦いだった。
「戦争に勝つ方法って知ってる?」
京子が挙げた、戦争に勝つ方法とは相手の国を滅ぼすこと。
つまりは今回の戦争の相手、世界を滅ぼすことにほかならなかった。
そして、具体的な方法として、4つの世界を崩壊させる。
その為に四大魔術士の後継者たる4人がそれぞれの世界の核たる部分を壊す。
京子は単純そうに述べた。
「この方法は、沢山の人が死ぬと思う。皆にも家族とかあるし、反対意見があれば素直に言って欲しい」
◇◇◇◇
時間と空間を操る疾風の魔法で作った異空間に仲間たちは集まっていた。
当初の目論見通り、4つの世界は見事に崩壊を始めた。
このままほっておけば、世界中の人間が生きる空間を失い、死に絶えるだろう。
そして、この仲間たちも同じように死ぬ運命が待っている。
勝ち目が無いと判断して、相手を道連れにする。
そんな作戦であれば、とても賛同は出来なかっただろう。
「さぁ、始めようかしら」
京子の声に合わせて、一同が魔力の開放を始める。
◇◇◇◇
大地も次々裂け目に飲み込まれ、殆んど足場も無い状態になっていた。
空の裂け目も広がり、同時に人々の心に絶望を広げていった。
咲は彩羽に体を預けながらも、周りを見渡す。
同時に視界も歪み平衡感覚さえ失われる感覚に囚われる。
咲を優しく抱きかかえる彩羽の腕の感触だけが、咲に残された正常な感覚だった。
◇◇◇◇
気が付けば、剥き出しの土が敷き詰められた大地の上に倒れていた。
横には彩羽が立っていた。
「気が付いたか?」
彩羽が優しい口調で尋ねてきた。
「ここは?」
咲の質問に彩羽は首を横に振った。
「不思議な空間だ。お前達の世界の匂いや、俺の世界の匂い、後、魔族や聖神の匂いまでしやがる」
◇◇◇◇
知世は大地の感触を踏みしめながら一息ついた。
仲間たちも皆、安堵の表情を示している。
壊れた4つの世界の欠片を集めて、新しい1つの世界を作り上げる。
それは、前代未聞の試みだった。
「世界を壊したなら、今度は私たちが生きていくための世界を作らないとね」
そう発言したときの京子の口調はとても簡単なことを言っているようであった。
世界の崩壊に巻き込まれて大勢が犠牲になっただろうが、それでも多くの人々は生き延びてこの世界の地上に投げ出されたはずだ。
そんな人々にとって、知世たちの力が脅威には違いないだろう。
しかしながら世界が一度崩壊した以上、人々が生活を取り戻すまでの間は、知世たちの命が狙われることはもう無いだろう。
むしろ今回のことで、歯向かえないほどの恐怖を与えたかも知れない。
それならそれで、知世たちの生活に口を挟まれなくて済むだろう。
家族は無事だろうかと考えもしたが、世界を崩壊させた本人が会いに行ったところで迷惑にしかならないだろう。
「いちのは無事かしら?」
唐突に京子が声を上げる。
「もし、無事なら協力をお願いしたいんだけど」
Λ国の王女いちのは、伝達に特化した能力をもっていた。
彼女の能力なら世界中の人間に向けて現状を伝えることも可能だろう。
無関係な人も大量に巻き込んだのだから、現状説明ぐらいするのがせめてもの義務だろう。




