酸素
酸素の青い雪の降る惑星。それが彼の原点だ。
調査員としての……。
青い空。しかし、その惑星では、青い雪が降る。
地球から遥か遠方の星だ。
空から青い雪が降ってくる。彼はそれを掴もうと手を伸ばす。しかし、それは手をすり抜けて、地面へと舞う。宇宙コロニーの資料室。立体映像で、その資料を開いていた通がいた。すると、そこへエリカが現れた。今は、午前1時。休憩時間だ。
「どうしたの?」
「いいや、何でもない」
エリカの問いに通は首を振る。
「珍しいね。資料室へ来るなんて」
「あぁ、ちょっとな」
彼は黒装束のまま、ここへ来ていた。今日は友引。
地球時代。彼はそれから生きていた。科学の発展による不老不死だ。なのに、彼は今宵、死を選んだ。治療を拒んだ尊厳死。
――まだ、悩んでいるのか? 宇宙を制御することに。
――なぜ、躊躇う? 誰も傷つかない方法に。
彼の言葉が胸に突き刺さった。彼は、科学の発展がこの世界を救うと、そう思っていた。
これは、あの青い雪の降る惑星から始まる。
あの世界から……。
「おはよう」
通はユーキ・キシに挨拶をする。
「おはよう。元気そうだな」
「あぁ」
通はそっけない。ユーキ・キシは自分のデスクで資料の整理を始めた。
「そうそう、今日の惑星は酸素の青い雪が降るそうだ」
「酸素の?」
通は聞き返す。
「あぁ。酸素の青い雪だ」
「へぇ。珍しい」
通は席に着く。
「何だ、分かるのか。雪」
「資料室で見た」
資料を手に取る。
「地球のか?」
ユーキ・キシは通の方を見る。
「あぁ。地球の雪は白かったな」
通は淡々と答える。
「水だからな。元々は」
「それもそうだな」
通は少し口角を上げると、資料の整理を始めた。
1時間後。二人は現地へ到着していた。空からは相変わらず、青い雪が降り注いでいた。
「さ、行こう。火口へ行けば、水があるだろう」
「そうだな」
二人は火口へと向かった。彼は、その火口の水を検査機にかける。すると、生命体の反応は出なかった。
「どうやら、生命体はいないみたいだな」
「そうみたいですね」
通は辺りを見渡しながら答えた。
「お前は、どう思う?」
ユーキ・キシが急に尋ねて来た。
「保護になるかどうかは、五分五分ですかね」
「違うよ。このシステムだよ。この惑星保護プロジェクト、正しいと思っているか?」
「え」
通は聞き返す。
「いや、いいんだ。賛成でも」
ユーキ・キシは苦笑する。
「ユーキは、どっちなんだ?」
通は尋ねる。
「賛成だよ。あのルールがなければ」
「ルール?」
通は眉根をよせる。
「惑星を保護するかどうか、投票させることだよ」
「あ」
「不平等だろ? 俺は全生命体を保護したい」
「でも、それは予算的に無理があるんじゃ……」
「そうだよな、分かってるよ。ただ、全生命体を保護できれば、何かが変わるんじゃないかなと思って」
「何か?」
「価値観かな」
「……」
通は返事が思いつかなかった。
「帰ろうか」
一通り、調査を終えると、二人は宇宙ステーションへと帰って行った。
「おはようございます」
ユウが立体映像で姿を現す。いつも通りの景色だ。しかし、通は暗い。
「今回の宇宙は、第4中枢宇宙のすぐ近くの宇宙です」
「何かあったの?」
エリカが尋ねる。
「真空崩壊しております」
「!」
エリカは驚いた。
「大丈夫なの!?」
「なので、至急、この資料にサインを」
「え?」
「保護課のサインがいるのです」
「あ、分かった」
エリカは慌ててサインをする。
「では」
彼はそう言うと、光の速さで次の部署へと飛んで行った。
「大丈夫?」
エリカは通を気にかけた。
「あぁ、大丈夫だ」
彼は苦笑した。