ブラックホール
第4次元宇宙。かつて地球のあった宇宙。そこでは、恒星が次々と寿命を迎え、星々は超新星爆発を起こしていた。
「これが今回の資料です」
ユウが今回、調査する惑星の資料を立体映像で映し出してきた。
「今回の惑星は岩石惑星です」
資料には、第4惑星となっていた。
「それに加え、この宇宙はもともと地球のあった第4次元宇宙です」
ユウは説明をした。
――地球……。
エリカは地球時代からの人工知能である。それにより、地球時代のことを少し思い出していた。
「エリカ。行こう」
「はい」
二人は対象惑星へ向かった。
惑星上空。二人は低空飛行のスペース・シャトルから飛び降りた。ストンッと地面へと無事着地する。すると、そこには、辺り一面、緑色の景色が広がっていた。淡い緑色の空、緑色の海洋、緑色の大地があった。
エリカは地面へと視線を落とす。一面、細かな苔のような植物が生えていた。
――きれい。
エリカは思わず、しゃがみ込む。色々なデザインの苔がひしめき合っていた。
「めくるなよ」
通はエリカの目の高さに合うように、しゃがみ込んだ。
「美しいね」
「そうだな」
通はエリカとは別に空を見上げた。
――雲は白いままなんだな。
緑色の空には何も遮るものはなかった。文明も、生命体も。
「エリカ、まずは海洋の中でも調べようか?」
「うん」
エリカは少し微笑んだ。
バシャバシャと浅瀬を走る。どうやら、遠浅のようだ。
「この惑星も海洋が浅いみたいだね」
「そのようだな」
――さて、どうするか。
通は水平線を見つめて、考えた。エリカも隣で辺りを観察していた。すると、足元の海水の中を何かが泳いできた。
「わぁ」
エリカは目を輝かせた。それは、この惑星の生命体だった。
彼らは、緑色の体に、大きな瞳が二つ、ついているだけだった。体は葉緑素で緑色をしており、呼吸は皮膚呼吸だけの小さな植物性の両生類だった。
エリカは少し、足を動かす。すると、その両生類はその足をよけて泳いで行った。二人はしばらく、その大群が通り過ぎるのを待っていた。
――すごい量。
エリカは少し圧倒されていた。すると、ピチャッとそれが跳ねた。そして、通の顔に激突した。
「いてっ!」
顔にぶつかったそれは、ゼリー状の体だったので、そのまま彼に張り付いた。
「須木君! 大丈夫!?」
エリカは慌てて、それを外す。
「なんとか、大丈夫だ」
エリカは胸を撫でおろした。すると、その生命体は暴れた。
「きゃっ」
エリカは少し片目を閉じて耐えた。
《放して!》
その生命体、ドーリ・リーがテレパシーで伝えて来た。
《急がないと、仲間たちからはぐれちゃう!》
「え!?」
エリカは少し、戸惑った。それにより、彼を腕から放せなかった。すると、彼は群れから遅れをとって、置いて行かれてしまった。
《ちょっと! 早く!》
「あ、ごめん」
エリカは放す。しかし、もう時に既に遅しだった。彼は群れからはぐれてしまった。
《どうしよう、このままだと》
ドーリ・リーは悲しそうに水平線を見ていた。
「ごめんなさい」
エリカの声など、彼にはどうでも良かった。しかし、彼は大声で泣き始めた。
「本当に、ごめんなさい」
《もう遅い!》
彼は落ち込んで、海水の中をぐるぐると回った。
「どうしよう……」
エリカは困った様子で、通に尋ねた。
「俺も分からない」
通は少し、戸惑っていた。
「戻って来るかな?」
「どうだろう? 彼らの生態はまったく知らないし」
通も困り始めた。
《ところで、君たちは誰なの?》
ドーリ・リーは二人を見上げた。
「宇宙環境省からまいりました、調査員のエリカ・ニチュードです」
「同じく、須木通」
《へぇー。何それ。調査して何するの?》
ドーリ・リーはきょとんと聞く。
「この惑星を保護するの」
《保護? どうして?》
「もうすぐ、この惑星系の恒星が赤色巨星になって、滅びてしまうから。その前に、この惑星の生命体を守りたいの」
《ふぅーん。全然、分かんないや》
ドーリ・リーは再び、ぴちゃっと跳ねる。
「そっか。ごめんね」
エリカは謝った。すると。
《もう、終わったことだし。仕方ないよ。でも……》
「でも?」
エリカが聞き返す。
《この惑星の外のこと、知りたいかも……》
ドーリ・リーは空を見た。
「本当に?」
《うん。知りたい。僕も連れてって?》
ドーリ・リーは二人の目をじっと見た。
《ダメ?》
「ダメではないけど……」
エリカと通は戸惑った。でも。
「いいよ。その代わり、宇宙環境省に所属しないといけなくなるかも」
エリカはそう言った。すると。
《うん、いいよ》
ドーリ・リーは承諾した。
「みんなにお別れの挨拶もしなくてもいいの?」
《いいの。僕はこれでも成人してるんだよ? 自分のことは自分で決める。それに、みんなにはどうせ、また会えるでしょ?》
ドーリ・リーは目を輝かせる。
「うん、会えるよ。いつでも。また、ここに戻っても来れるから、大丈夫」
エリカはそう返答した。
《なら、安心》
彼は笑顔を見せた。
入国ターミナル。二人は宇宙生命体の彼、ドーリ・リーを抱えて、宇宙ステーションへ入って来た。
「どうしたんですか!?」
担当人工知能のユウは、驚きを隠せないでいた。
「現場で出会ったの。この宇宙環境省への所属を希望しているの。ダメかな?」
「分かりました。上層部へは、私から報告しておきます」
「ありがとう、ユウ」
エリカは微笑んだ。
「エリカたちは待機室へ先に戻っていて下さい。私はこの方を応接室へ案内します」
「分かりました」
「では」
ユウは廊下をスライドして行った。
待機室。二人はしばらくユウを待っていた。すると。
「お待たせいたしました」
ユウが戻って来た。
「今回の宇宙、もともと地球のあった宇宙ですが、どうやら、ブラックホールが増大しすぎているようです」
「というと?」
エリカが聞き返す。
「恒星が次々と寿命を迎え、超新星爆発を起こしているそうです。それにより、ブラックホールが増えすぎているのです」
「なるほど」
通が頷く。
「それで、ブラックホールの数を減らしてほしいとのことです」
「分かりました」
二人は、現場へ向かった。
今回はブラックホールを少なくすることが任務。ブラックホールは常に蒸発している。ブラックホールの近くでは、真空のエネルギーが対生成をした際に、生成した反粒子のみを吸い込む現象が起こっている。それにより、ブラックホールは対消滅の原理で光を放っているのだ。そして、次第に小さくなり、消滅していくのだ。
待機室。二人は仕事を終え、帰って来た。すると、ユウが立体映像で姿を現した。
「今日の彼、宇宙環境省へ所属することになりました」
「本当に?」
エリカの表情が明るくなる。
「えぇ。明日から、空間管理課だそうです」
「そっか、良かった」
エリカは微笑んだ。