相互作用
「おはようございます」
ユウが立体映像で姿を現した。今日の資料を持って。
「今日の調査惑星です」
ユウは資料を映し出す。
「この惑星……」
エリカが資料を見て、呟く。
「えぇ、ブラックホールが近くにあり、この惑星系の恒星のガスが吸い込まれているのです」
「ということは」
「はい。もうすぐ、滅亡します。この惑星系は」
1時間後。調査惑星上空。二人は低空飛行のスペース・シャトルの中にいた。調査惑星に到着していたのだ。
階下には、濃い霧が立ち込めていた。そして、上空にはブラックホールにガスを奪われている恒星の姿があった。まるで尾を引いているように見えた。
――この世は、美しい。
――すべては、物理法則によって支配されている。
地球時代、エリカが開発者の篠原から聞いた言葉だった。だから、物理法則からはみ出せない、人類も美しい。例え、地球環境からはみ出したとしても、物理法則からはみ出してはいない私たちは、その他のものと同じ、自然の一部だと。
彼はそう言っていた。
ヒュ。二人はスペース・シャトルから飛び降り、地面へと着地する。辺りは少し、薄暗かった。頭上にまでわたる霧がそうさせていた。二人はしばらく、霧の中を歩いた。
すると、エリカの背中に何かが張り付いた。
「わっ!? 何!?」
エリカは慌てるが、まったく取れない。
「大丈夫か?」
通はエリカの背中から、その何かを取ってあげた。
「何?」
「生命体かな?」
「え?」
通の手には、ムササビのような生命体がくっ付いていた。
《こんにちは》
ゼト・ウーはテレパシーで挨拶をしてきた。
「こんにちは」
エリカも挨拶をする。すると。
《あなたたちは誰?》
ゼト・ウーが尋ねてきた。
「宇宙環境省のものです」
エリカはそう答えた。
《ふーん》
ゼト・ウーはきょとんとしていた。
「この霧は、ずっとこのままなのか?」
通が尋ねた。
《晴れるよ? 夕刻になれば》
「本当に?」
《うん、そうだよ》
ゼト・ウーは微笑んだ。
夕刻。霧が次第に晴れて来ていた。
――だいぶ、周りが明るくなってきた。
上空には、美しい青空が広がっていた。すると、先ほどのムササビのような生命体たちが一斉に飛び上がる。
「え?」
エリカは周りを見渡す。周りには、上昇気流に乗って空へと昇って行く生命体たちがいた。
――わぁ。
エリカは目を輝かせた。
「上昇気流だけで上空まで上昇出来るほど、体重が軽いのだろう」
通が呟いた。
「そうだね」
エリカは相槌をうつ。
――すごい、きれい。
エリカと通はしばらく、その光景を見ていた。
入国ターミナル。二人は、宇宙ステーションへ戻って来ていた。そして、待機室の自席へと向かう。すると。
「問題が発生しました」
ユウが立体映像で姿を現した。
「今回は?」
エリカが尋ねる。
「今回は、第4中枢宇宙の隣の宇宙です」
――隣。
通は眉根を寄せた。ユウは続ける。
「それで、その宇宙でエネルギーの相転移が起こり、新たな相互作用が発生してしまったのです」
「!」
――相転移!?
エリカは驚いていた。
「それにより、ダークエネルギーが少なくなり、宇宙の膨張が停止し、宇宙の終焉、Big Crunchへと向かうこととなりました」
「……」
通は黙ってそれを聞いていた。
「その宇宙をBig Crunchへ向かわせないようにしてほしいそうです」
上層部からの命令だった。
「分かりました」
二人は現場へ向かった。
Big Crunchは阻止したい。それにより、二人はダークエネルギーを濃くする。しかし、Big Crunchは回避できたが、エネルギーの相転移によって、新たな物理法則が出来たこの宇宙の文明は壊滅状態となっていた。
「物理法則が変わったんだ。今までの物理法則で成り立っていた世界はもう既に崩壊している。それに、被害の修復も出来ないだろう」
エリカは胸を締め付けられながら、通の話を聞いていた。
二人はただただ歩いた。そして、エリカは振り返り、一面窓の外を見る。そこには、漆黒の宇宙が映し出されていた。