ダークエネルギー
「おやすみ」
エリカは笑顔で電話を切った。たった今まで、通と携帯端末で話をしていたのだ。
これからは自由時間。別にスリープ・モードで休んでいてもいいのだけれど、彼女は高台にある宇宙展望台の図書室で本を読むのが好きなのだ。
――今日はどの小説にしようかな?
エリカは楽しそうに本を選んでいた。彼女は図書室中をゆっくりと移動していく。そして、一冊の小説を手にした。
――これにしよう。
そして、席に着いた。正面には大きな一面窓があった。エリカは一面窓の外の景色を見た。すると。
――わぁ。
そこには美しい景色が広がっていた。
次の日の朝。エリカは日の出の光に照らされて、高台からの階段を下りて行く。緑の葉が生い茂る桜並木をぬけて行った。
「おはよう」
エリカは待機室へ元気よく入って行った。すると。
「では、今回の惑星の資料です」
ユウはそう言うと、立体映像で資料を映し出した。そして、説明を開始する。
1時間後、二人は宇宙ステーションを出発した。
対象惑星。既に二人はそこにいた。低空飛行でスペース・シャトルが大気圏を行く。二人は、そこから飛び降りた。そして、上手く着地。
そこは、一面青い世界だった。空も海も植物も。
「植物が青い色をしているなんて、珍しい」
エリカはかがんで観察した。通は辺りを見回していた。
「青い」
――あの時代を思い出す……まだ太陽のあった宇宙にいた頃。
青い雪、青い雨、青い瞳。
記憶が遡っていく。
昔の相棒のそれとは、同じエリダヌス本部で、同じエリートだった。だけど……。
――やめよう、思い出すのは……。
通は青い空から視線を外した。そして、エリカの姿が視界へと入ってきた。
――二度目はこいつとだったな。
すると、エリカは空を見上げて感嘆していた。そこには、多数の高積雲が連なっていたからだ。
――なんて、美しいのだろう。
通は資料を思い出す。たしかそれは、夜になると見える銀河の腕の部分だった。地球で言うと、天の川だ。それが昼には白い高積雲に見えているのだった。
すると、その間を不思議な生命体が通り過ぎていった。羽も体表面も青い、不思議な生命体だった。彼らは二組の羽を持ち、美しい青い瞳をしていた。
すると、その中の一人がこちらへと飛んできた。そして、二人の前にふわりと着地した。
《何か、ご用ですか?》
彼らはテレパシーを使えるようだった。
「あの、調査に参りました」
《あの宇宙環境省ですか。前回の時、来ていましたね》
どうやら、前回、保護対象になっていたようだ。
《前回はありがとうございました。保護対象にしていただいて》
「いいえ」
エリカは笑顔を作った。
《私がこの惑星を案内しましょうか?》
「いいのですか?」
《はい》
二人はウイ・クボに連れられて、青い地面を歩いて行った。
《どうやら、私たちが最終捕食者らしいんです》
ウイ・クボは唐突に話し出した。
「そうなんですか?」
エリカが聞き返す。
《えぇ、前回の調査員に言われました》
彼、ウイ・クボは淡々と話す。
「え、調査員を知っているのですか?」
《いいえ。でも、そう言われていたと、先祖から聞きました》
「そうだったのですね」
エリカは苦笑した。どうやら、この惑星の生命体は文明を持ってはいないようだ。
調査が一通り終わったころには、この惑星は夜になっていた。二人は夜空を見上げた。すると。
「わぁ」
――きれい。
エリカは感嘆した。そこには、美しく銀河の腕が輝いていたからだ。
――地球の天の川もこのように輝いていたのだろうか。
通はそれを直視できなかった。
入国ターミナル。二人はそこへ到着していた。二人は歩き、待機室へと向かう。白い壁に一面窓からの星々の光が反射する。
すると、前方からユウが立体映像として移動して来た。
「少々、問題が発生しました」
「分かりました」
エリカは頼もしく頷いた。
「単刀直入に申しますと、〈ボイド〉と呼ばれている空間が一部、部分的にBig Ripを起こし始めました」
「!」
エリカは驚き、目を丸くする。
「どこの宇宙?」
「先ほど、惑星調査へ行った宇宙です」
――なんと、あの惑星の宇宙だったとは。
エリカは気を引き締めた。
この宇宙では、ダークエネルギーに斑があり、ボイドから銀河などを押し出している構図となっていた。なぜなら、重力のみの相互作用だけでは、グレートウォールの形成に時間が足りないのだ。それにより、ダークエネルギーの濃い部分がボイドとなり、部分的にBig Ripを引き起こし始めていたのだ。
「なるほど。Big Ripを止めないといけないのか」
「はい」
ユウは立体映像で頷く。
「それなら、そのダークエネルギーを薄くすれば……」
「確かに」
エリカも頷く。二人は現場へ向かった。
待機室へ戻ると、ユウが待っていた。
「結果がもう出ているようですよ」
「Big Ripが止まった?」
エリカは微笑む。
「えぇ、その通り」
「それはなにより」
エリカは笑顔で言った。
帰り道。二人は宇宙コロニーの居住エリアへと向かっていた。辺りは既に夜。ドームのスクリーンには星々が映し出されていた。
「ねぇ、今日は展望台に行かない?」
エリカが不意に通へ提案をした。
「え? いいけど」
エリカは通の返事を聞くや否や、彼の手を引き、走った。展望台への階段を駆け上がる。そして、図書室の一面窓へと案内した。
「これって……」
通は息をのんだ。そこには、美しい天の川が映し出されていた。
「誕生日、おめでとう」
エリカは微笑んだ。
「ありがとう」
通はエリカの頬に顔を寄せた。