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REMOTE MODE  作者: 津辻真咲
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宇宙のランドスケープ

日が沈む。宇宙コロニーに夜がやって来た。

エリカはいつもの場所、高台にある宇宙展望台の図書室で小説を読んでいた。一面窓の外には地上と上空に星屑が散らばっていた。

――きれい。

エリカは夜、この図書室で自由時間を潰していた。

「こんばんは」

「あ、ユウ? どうしたの?」

「僕も休憩」

彼は笑顔だった。

「エリカはどうしてここ?」

「お気に入りの場所なの」

「景色がいいもんね」

ユウは立体映像の画面で笑顔を作る。

「うん」

エリカも笑顔だ。

「それじゃ、僕はもうそろそろ戻るよ」

「そうなの?」

「資料の確認に来ただけだから」

「そっか、分かった」

「それじゃ、ね」

「うん」

エリカは笑顔で小さく手を振った。


日光に照らされて、影がだんだん濃くなってきた。夜明けだ。エリカの休憩時間もあと少し。エリカは小説を閉じた。それを本棚に返すと、図書室を出て、高台の階段を駆け下りて行く。

人工の光源、朝焼けのスクリーンがエリカを包んでいった。

「おはよう」

「おはよ」

エリカと通の二人は省内の廊下で出くわした。エリカは笑顔になる。それを見て、通は微笑み返した。



待機室へ入ると、ユウが立体映像として姿を現した。

「今回の宇宙は、第4中枢宇宙の隣にある宇宙です」

「隣に?」

 エリカは聞き返す。すると、ユウは答える。

「えぇ、まだ若い宇宙です」

――若い宇宙……。

 エリカは考え、頷く。

「それで、今回の惑星は?」

 通は尋ねた。それを受けて、ユウは返答する。

「はい。その宇宙の中にある岩石惑星です」

 立体映像が変化し、資料の写真が複数映る。

――岩石惑星かぁ。

エリカは資料に目を通し始めた。通も同じく。

――全体的に緑色。

 エリカは資料の写真に見入った。

――きれい。

「エリカ、出発しよう」

「はい」

 エリカはそう返事をすると、通と共に出国ターミナルへと向かった。

1時間後。二人は対象の惑星系に到着する。リモート・モードとスペース・シャトルによる移動だった。


スペース・シャトルは低空飛行で惑星の大気圏を進んで行く。そして、二人は低空飛行のそれから飛び降りた。

地面へ着地。すると、そこには一面緑色の草原が広がっていた。地平線までずっとだ。

――わぁ。

緑色のそれらは風に微かに揺れていた。

――不思議。ずっと草原。山や森林がぜんぜんない。

この惑星には山も森林もない。この惑星の地殻は安定していて、地殻変動がほとんどない。それにより、もともとあった山、高い部分は雨の水に削られ、海は流れてきた土砂に埋まった。よって、地表の高低差がほとんどないのだ。

――すごい。湿地みたい。


エリカと通は草原に少し水が湧き出ているところを歩いて行く。水は数センチメートルしか溜まっていない。それにより、植物が普通に育っていた。

――きれいな、水。少しも濁っていない。

エリカは歩きながら、そう思った。



数時間後。この惑星ではもう日没時刻。

――早い。もう薄暗い。

「エリカ、どうするか」

 通がエリカに話しかける。

「でも、まだ知的生命体に出会っていないし」

「そうだな。もうちょっと探すか。夜行性の生命体かもしれない」

「はい」


しばらくすると、辺りは真っ暗になった。衛星は一つあるが、まだ周りは暗い。そのせいか、夜空の星々はきれいに見えていた。すると、遠くから雷鳴が聞こえて来た。

――あれは……。

「スプライトだな」

通が呟いた。

「そっか」

遠くに見えるそれは、とてもきれいに上空へと光を放っていた。それは宇宙空間まで続く巨大な稲妻だ。数秒後には巨大な雷鳴が続いた。すると。

「あれ?」

地面に生えていた植物たちから何か丸いものが一斉に放たれた。

――わぁ。

それらは一斉に空へと昇っていく。

「胞子じゃないか? きっと」

「うん。そうかも」

どうやら、夜行性の植物の胞子のようだった。その植物は天候が荒れると、その風を求めて、胞子を産卵するようだ。二人は、それらをしばらく見上げていた。


翌朝、二人はスペース・シャトルへ乗り込み、宇宙ステーションへと帰って行った。



「おかえりなさい」

担当人工知能のユウが立体映像で姿を現した。ここは入国ターミナル。ユウはエリカたちを出迎えに来ていたのだった。ここから待機室までは近い。数分だ。しかし。

「問題が発生しました」

ユウは待ちきれずに報告した。

「何?」

エリカは尋ねた。

「この4次元空間から6次元空間が誕生し、浸食を始めたのです」

エリカは驚いた。すると、通は尋ねる。

「それで、どうすれば?」

「今、上層部で会議中です」

 ユウは立体映像をそのままに答えた。

「そうか」



自由意志は止められない。

この世界は、私たちが望んでできた世界だ。

これから先も。

だから、今回も 思い通りになる。絶対に。


自然にあらがう事だって出来るし、自然に振り回される事もない。

大自然(=宇宙環境)だからといって、殺されるのは、嫌だろう。



通は思い出していた。昔、相棒に言われたその言葉を。しばらくすると、待機室にユウが姿を現した。

「上層部の会議が終わりました。保護してほしいそうです。4次元空間の方を」

「6次元の方は?」

 エリカが尋ねる。すると。

「希少価値がないので、Big Crunchへ向かわせてほしいそうです」

 ユウは淡々と伝えた。

「分かりました」

エリカはそう返事をすると、通と共に現場へ向かった。



待機室。そこでユウは二人の到着を待っていた。

「お疲れ様です」

 ユウは一言目にそう言った。そして、続ける。

「どうやら、終焉を迎えたそうです。6次元空間」

 6次元空間は終わりを告げていた。それを伝えた。

「本当に? 良かった」

 エリカは胸をなでおろした。しかし。

「しかし、被害地域は壊滅状態のままなんだろ?」

 通がユウへ尋ねる。

「えぇ、残念なことにそうなります」


 6次元空間に侵食された元々の4次元空間は侵食された部分の惑星系や銀河系を崩壊させられていた。4次元空間の宇宙空間は、6次元空間の宇宙のBig Crunchによる消滅で被害拡大の阻止はできたが、一旦、6次元空間に侵食された空間の天体は復元できなかった。


――この世に完全なものなんてまだない。

――未完成のまま、未来へ進んで行く。この仕事も。

通は相棒の言葉を再び、思い出した。

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