Big Crunch
「今回の調査宇宙です」
ユウは立体映像で姿を現した。そして。
「今回はもうすぐBig Crunchになる宇宙です」
資料を映し出した。
「惑星じゃなくて、宇宙全体?」
エリカは首を傾げる。
「はい。今回は連合加盟課の応援調査をしてほしいそうです」
「応援調査?」
「えぇ。その宇宙には生命体がいるそうです」
その宇宙には、高度な文明を持った生命体がいた。その宇宙生命体は、科学を駆使して、そのもうすぐBig Crunchになるブラックホールだけの世界で生きていた。
「それで、まず、彼らが宇宙連合へ加盟する前に、どのような思想・科学技術を持っているかを調べてきてほしいそうです」
「直接、宇宙コロニーへ?」
エリカが尋ねる。
「はい」
ユウは二つ返事をした。
「分かりました」
二人は出国ターミナルへと向かった。
まずは、リモート・モードで目的の宇宙へと向かう。目的の宇宙にはもう既に宇宙環境省の手配した宇宙ステーションが設置されていた。それにより、リモート・モードでそこへ向かえたのだ。
そして、宇宙ステーションからはスペース・シャトルで進む。相手の宇宙コロニーには気付かれないように視覚的にもレーダー的にもステルス状態にしていくのだ。
「見えて来た。あの宇宙コロニーだね」
目視できる位置まで近づいた。あとは簡易ワープでスペース・シャトルから相手の宇宙コロニーへ移動するだけだ。
《ワープまで、3.2.1.0…》
人工知能のカウントダウンのあと、二人は彼らの宇宙コロニーへと移動した。
ヒュッ、トン。二人は無事、宇宙コロニー内へと着地できた。二人は辺りを見渡す。すると、一面真っ白な壁に囲まれた通路だった。
二人は歩き出した。
――何もない。
無機質な通路は甲を描き、続いていた。そんな通路を二人は進む。すると、左側の壁が透明なガラスになっている所に来た。
二人はガラス越しに中を見る。すると、そこには、色とりどりの植物らしき生命体が部屋一面に育っていた。
――ここはPLANTかな?
「ここで、育てているんだな」
「えぇ」
通は映像に収めた。
「次へ行こう」
通たちは再び歩き始めた。
しばらくすると、開けた場所に出た。
――ここは。
修理室だった。様々な機械たちが修理されていく。隣の巨大なホールは、印刷所だった。紙がものすごい速さで流れて行く。
――次は、一体。
次は巨大なドーム都市に出た。
――わぁ。
ドームの内側には高層ビル群がいくつもあった。空をかたどったドーム型スクリーンには青色が映し出されていた。
二人は佇んだ。しかし、誰も二人に気付かない。あまりにも色々な生命体が混ざり合っていて、誰がどこの惑星出身かなど気にしていないようだった。
――調査しやすいかも。
二人は高層ビル群が立ち並ぶ、間の道路を進む。機械での移動は全て宙を行く。それにより、道路はまるでスクランブル交差点のように人が行き交っていた。
二人は、周りを気にしながら、進んで行く。道路の両端には店がいくつも連なっていた。食事処に手芸屋、そして甘味屋だ。
――レストランはどの生命体も一緒ね。
エリカは少し微笑んだ。
二人は、高層ビル群を抜けて再び白い通路へと進んだ。
「もうそろそろ帰ろう。生命体の情報は手に入れた」
「うん」
二人はスペース・シャトルへ帰るために再び簡易ワープをした。
入国ターミナル。二人は待機室へ向かう。すると、ユウが立体映像で姿を現した。
「情報は十分ですか?」
ユウが尋ねて来た。
「えぇ。大丈夫です」
エリカはそう答えた。
「では、連合加盟課へ向かって下さい」
「分かりました」
二人は連合加盟課の棟へと向かった。
「こんにちは」
エリカは挨拶をする。すると。
「初めまして。カーミ・カンデと申します」
「同僚のニュート・ノです。よろしくお願いします」
彼ら二人は握手を求めて来た。
「よろしくお願いします」
4人は握手をして、挨拶を交わした。
「事前調査の資料は受け取りました。調査お疲れ様です。お二人には、連合加盟課の作業に立ち会ってもらいたいのです」
「はい。分かりました」
「では、出国ターミナルへ行きましょう」
カーミ・カンデは二人を誘導した。
出国ターミナル。今回はスペース・シャトルに乗る。4人が搭乗すると、スペース・シャトルは出発のカウントダウンを始めた。
3.2.1.0…
カウントダウンが0になり、スペース・シャトルは目的の宇宙へと移動した。
その宇宙は漆黒に支配されていた。恒星はもうなく、辺りはブラックホールだけだった。
「あれだ」
レーダーに宇宙コロニーが複数、観測された。
「行こう」
カーミ・カンデはスペース・シャトルの人工知能に指示を出した。スペース・シャトルはその宇宙コロニーへと近づいていった。そして、電子音が鳴った。
「どうしましたか? ノウ」
カーミ・カンデが今回の担当人工知能ノウに話しかけた。
「向こうの宇宙コロニーから電波が送られてきました」
「内容は何だった?」
「今、解読します」
彼はそう言うと、解析を始めた。そして、数秒。
「解析完了いたしました」
彼はそう言うと、内容を立体映像で映し出した。
『私たちは、クシオと申します。この宇宙をさまよっている者です。あなたたちはどこの惑星のご出身ですか?』
「返信しましょう」
カーミ・カンデはそう言うと、文字を入力し始めた。
『私たちは、宇宙環境省連合加盟課の者です。別の宇宙から来ました。あなたたちを保護させて下さい』
カーミ・カンデはエンターキーを押す。その文章は光の速さで向こうへと伝わっていった。すると、返事が返って来た。
『分かりました。保護して下さい。私たちもこの宇宙がBig Crunchへと向かっていることは分かっています。別の宇宙へ脱出する技術が開発できずにいました。助けて下さい』
画面にはそう書かれてあった。
「近くへ行きましょう」
「はい」
ノウは応答すると、スペース・シャトルを彼らの宇宙コロニーへ近づけていった。再び、電子音が鳴った。
『ゲートを開きました。直接、話をしたいです』
画面にその文字が映っていた。
ノウはスペース・シャトルを彼らの指示に従って、宇宙コロニーへドッキングする。そして、こちら側のゲートを開けた。
すると、向こうのゲートはもう既に開いていた。
「こんにちは」
彼はヨウデ・イン。この宇宙コロニーに住むクシオたちの代表だった。
「私たちのことを見つけて下さってありがとうございます。私たちはこの宇宙から別の宇宙へ移動する科学技術をまだ開発出来ていないもので……」
彼はおずおずと話した。
「大丈夫です。私たちが保護します」
「ありがとうございます」
彼は再び、お礼を言った。
入国ターミナル。二人は仕事を終えて、帰って来た。すると、ユウが出迎えてくれた。
「今回の宇宙、ついさっき、Big Crunchを迎えたそうです」
ユウがそう報告する。すると、通が言う。
「ということは、もう巨大なブラックホールが1つ存在しているだけだったんだな。あの宇宙」
「そうなりますね」
ユウは立体映像の画像を変化させて答えた。