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REMOTE MODE  作者: 津辻真咲
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歴史

「おはようございます」

ユウは立体映像で姿を現した。

「今回の資料です」

ユウは資料を映し出した。

「かつて、太陽系のあった宇宙です。確か、お二人はこの第4次元宇宙の出身ですよね?」

「えぇ」

「そこの岩石惑星です。どうやら、酸素の青い雪が降るそうです」

「え!? そうなの?」

エリカは少し声を大きくした。その惑星はかつて、二人が調査をしたことのある惑星だった。

「生命体がいるかどうか、調べてほしいそうです」

「分かりました」

二人は頷いた。



1時間後。スペース・シャトルは現場へと到着した。階下には青い雪の積もった大地が続いていた。

ヒュ……と二人はスペース・シャトルから飛び降り、地面へと着地した。足は、少し雪に埋もれた。そんな中、エリカは空を見上げた。空には青い雲が空を覆っていた。

エリカは雪に手を伸ばした。

「行こう」

通はエリカの様子は気にせず、歩き出した。

これから、火口へ向かうのだ。この惑星は、地球でいう水が酸素、マントルが水なのだ。それにより、大地は氷で出来ている。火山の噴火も間欠泉のようだ。


二人は火口へたどり着く。そして、通は火口から水を採取する。

――生命体の反応ありか。

 検知機には生命体の反応があった。

――まぁ、生命体がいなくても、この惑星は保護されるだろう。

通は検知機を片付ける。

この惑星が保護対象になるのはこれで3回目だった。

――青い酸素の雪が相当、珍しいのだろう。

通は火口の水に手をかざす。

――冷たい。

火口の水は冷めていた。



入国ターミナル。二人は調査を終え、待機室へと向かっていた。すると、ユウが姿を現した。

「おかえりなさい。あなた方の古巣で何かあったみたいですよ」

「古巣?」

「えぇ、太陽系の存在していた宇宙です」

ユウは今日の記者会見の様子を立体映像で映し出した。そこには、宇宙環境省のジェッ・ト長官の姿があった。

ジェッ・ト長官は、セラン・ヘキレキ地域連合長と共に新・言語改革を成功させた人物である。二人は動画の続きを見た。


どうやら、一世代前の宇宙空間を再現し、その人工的に作り出された宇宙空間の保護されなかった絶景や生命体を保護しようとしているらしい。

一世代前の宇宙空間の物理法則の観測は可能で、重力波と初期の密度むらによって、観測結果が変わってくるらしいのだ。

太陽系の存在していた宇宙空間はサイクリック宇宙論でいうと45回Big BangとBig Crunchを繰り返した宇宙である。その全ての宇宙の歴史を観測するのは無理だが、一世代前の宇宙空間を観測することは出来るのだ。


動画はそこで終わった。

――とうとう、過去を保護しにかかったか。

通は眉根を寄せた。

「それで、あなたたちに調査を依頼して来ました」

「調査?」

 エリカはきょとんと聞き返す。

「えぇ。ジェッ・ト長官の直々の要請らしいです」

「直々に?」

 エリカは首を傾げる。そして。

「あなたたちは、元太陽系のご出身だそうで。それをかっているとのことです」

「あのジェッ・ト長官が……」

「俺たちをかっているとは意外だったな」

 通は腕組みをする。

「うん。そうだね」

「何かあったのですか?」

 ユウが尋ねる。

「中枢宇宙へ来る前の話だけどね」

エリカは苦笑した。

「こちらが資料です。新しく生み出した宇宙に生命体がいるかどうかを調査してほしいそうです」

「分かりました」

二人は出国ターミナルへと向かった。



リモート・モード後、スペース・シャトルで現場へ向かう。今回の惑星は桜色の雪が降る。液体にフェノールフタレインに似たものが含まれているらしい。

ヒュ、ストン。と、二人が不時着する。辺り一面、桜色だった。空にも桜色の雲が広がっていた。

エリカは空を見て、感嘆を漏らした。通はそんなエリカの様子に気が付いていた。

――桜が散っているみたいだ。

通も雪に手を伸ばした。


二人はしばらく桜色の雪の中を歩いていった。しかし、何もなかった。でも、遠くに桜色の海洋を見つけた。

二人はそれに近づいて行く。そして、海洋の中を調査しようとしていた。

――何か、いるかな?

二人はしばらく、その桜色の海中を進む。少し、赤みがかっているせいか、海底にまでなかなか日光が届かない。浅瀬なのに深海にいるみたいだった。

バシャッと二人は、水面に顔を出す。

――浅瀬には何もない。

「エリカ、もう少し、奥へ行ってみよう」

二人は、再び、海中へと潜っていった。ぶくぶくと泡が出る。それは海中からもだった。

――硫黄噴出孔!

二人は、生命体の気配を感じた。近寄ってみる。すると、案の定、生命体がいた。

まだ、発達はしていないが、確実に生命体だった。採取は無理だったので、映像に残した。

すると、二人は再び、海面に顔を出す。

「映像には残した。一旦、宇宙ステーションへ戻ろう」

「はい」

二人は、戻って行った。



入国ターミナル。二人を出迎えたのは、ユウだった。

「おかえりなさい。どうでしたか?」

「ばっちり、映像に残してきたよ」

エリカが笑顔でそう言った。

「待機室のパソコンにデータを入れるから、あとで上に報告しといてくれるか?」

「えぇ、分かりました」

ユウは通の頼みに笑顔で答えた。

「では」

ユウは立体映像を閉じていった。


「今日は、早く終わったな?」

「そうだね」

「久しぶりに、外食でもする?」

「うん」

エリカは笑顔で答えた。



二人はいつもの店へと向かう。青葉が揺れる桜並木の道を行く。目的地は高台の展望台。そこの隣に店がある。有名ではないが、二人にとってはとても居心地がよい。

二人の頭上には星が輝く。本物ではないが、とてもきれいに天の川が映し出されていた。

頭上のドーム型のスクリーンには、星の他にも雲など、気象状況が映し出される。まるで地球のように。

このドーム型都市は地球仕様だ。なので、ここの都市には人類が多い。サラ・ブラウン、李四夫妻もここに住んでいるのだ。

――着いた。

二人は、店にたどり着く。

二人を淡い電灯が迎える。遥か昔をにおわせるノスタルジックな店だった。まるで、西暦がまだ使われていた頃のように。

「いらっしゃいませ」

店員が彼らを迎えた。

「こちらへどうぞ」

店員が二人を席へと案内する。

二人はメニューを見る。久しぶりの外食、エリカはとても嬉しかった。もうすぐ、何かと来る記念日。

「決まった?」

「あぁ、決まった」

二人は注文を伝えた。



次の日。二人は共に通勤する。二人は一緒に暮らしている。しかし、エリカは機械。眠ることはない。

そんな時、彼女は展望台の図書室で本を読む。インターネットをしながら。それが日課になってしまっていることもある。


「おはようございます」

ユウが二人に挨拶をしてきた。

「今回の資料です。昨日と同じ太陽系のあった宇宙の一世代前の宇宙です」

二人は出国ターミナルへと向かった。



1時間後。二人は現場へと着いた。

今回の惑星は、赤い海洋がある惑星だった。海水にタンニンが含まれているらしい。

二人は飛び降りる。低空飛行のスペース・シャトルから。そして、地面へと不時着する。空は桜色だった。二酸化炭素が多いせいだろう。

――あ。

すると、エリカが気付いた。この惑星には衛星が3つあるということに。

綺麗な銀色をしていた。

通もエリカの視線の方向へと目線をやる。

「きれいだな」

通が言葉を発した。

「うん」

エリカも話す。

二人は、歩き出す。そして、赤い海洋へとたどり着いた。そこは汽水域だった。ちょうど河口だったのだ。二人は、川をさかのぼることにした。タンニンが含まれているなら、植物もあるはずだ。

二人は歩く。すると、緑色の一帯を見つけた。

「あれって、植物?」

「そうみたいだな。記録に残そう」

二人は近づいて行く。どうやら、植物だったようだ。この植物が作ったタンニンが川から海へと流れ出ていたようだ。

「他の大地でもこの植物が生えているのだろう。あんなに海洋が赤いのはそのせいだ」

「うん。そうかも」

 エリカは頷く。

「今度は、海洋へ行こう。中も調べないと」

「そうだね」

二人は海洋へと向かった。しかし、この惑星も遠浅だった。一番深い所でも、膝ぐらいまでの浅さだった。

通は検知機に海水を入れた。すると、電子音が鳴り、生命体の反応があった。

「海洋にもいるようだな」

二人はそれを確認すると、スペース・シャトルへ戻ることにした。



入国ターミナル。再び、ユウが出迎えてくれていた。

「ただいま」

エリカは笑顔で挨拶をした。

「今回の資料についてなのですが、どうやら、ジェッ・ト長官が直々に受け取りたいそうです」

「え? 私たちから?」

「はい。そうです」

エリカは通の方へ視線をやった。

「いいんじゃないか?」

「うん」

エリカは少し不安そうだった。



二人は太陽系のあった宇宙へ来ていた。エリダヌス本部。この宇宙ではここが中枢。あらゆる機構の本部がここにある。

二人は、エリダヌス本部の中枢が集まる二重惑星、WAVIとSAVIに来ていた。

惑星WAVIには広報課。SAVIには研究開発課が入っている。入国ターミナル、それは惑星WAVIにしかない。SAVIは研究開発の中枢。防犯の為、ターミナルは惑星WAVIにしかない。

「失礼します」

二人は、ジェッ・ト長官の自室へと入っていった。

「よく来てくれた」

ジェッ・ト長官は口角を上げた。

「これまでに調査した惑星の資料をお持ちしました」

エリカはデータの入ったメモリーを渡す。

「ありがとう。ご苦労だった」

「では、失礼しま……」

「どう思う?」

 ジェッ・ト長官は彼女の言葉を遮り、尋ねて来た。

「生命体のこの計画」

 ジェッ・ト長官は口角を上げる。

「……」

 しかし、エリカたちは黙った。

「過去も未来も平等になる。すべてのものが保護される」

 ジェッ・ト長官は堂々と話す。

「とても、素晴らしいことです」

エリカは目を伏せて答えた。

「そうか、君たちがそう言ってくれると自信がつくよ」

 ジェッ・ト長官は机に手をつく。

「しかし、全ての生命体をコントロール出来るのでしょうか? 再現できるのは物理法則だけです」

 通は淡々と答えた。

「大丈夫だよ」

「そうですか」

エリカは目を伏せたままだ。

「全ては平等にならないといけない。生命体も宇宙環境に支配されていてはいけない」

 ジェッ・ト長官はこちら二人をじっと見る。

「支配されていてもいいのでは?」

 通は意見する。

「なぜ、そう思う? 須木調査員」

 今度は通を見る。

「バランスがとれていれば、いいのかと。宇宙環境は生命体を支配し、生命体は科学技術を支配し、そして、科学技術は宇宙環境を支配する。それで、いいのでは?」

 通はジェッ・ト長官と目を合わせたままだ。

「いい意見だ。覚えておこう」

 ジェッ・ト長官は腕組みをした。

「では、失礼します」

通はそう言うと、エリカと共に部屋を出て行った。



 入国ターミナル。二人はそこへ帰還する。

――通。大丈夫かな?

 エリカは隣にいる通の様子を気にしていた。通は黙って、下を向いていた。

――科学は生命体を自然と平等にするためにあるのか?

「通?」

 彼は振り向く。

「何考えてたの?」

 エリカは心配そうに彼に聞く。

「昔のことを思い出してた。君と組む前に相棒だった調査員のことを」

 通は苦笑した。

「……」

 エリカは黙って、聞いていた。

「彼に言われた。科学は生命体のためにあると」

 通は悲しい顔をする。相棒を失った時のことを思い出した。彼は自然死だったのだが、通にとっては失ったことには変わりなかった。

「でも、なぜ彼が延命治療を断ったのかが分からないんだ」

 通は涙を拭く。

「……」

 エリカも涙を溜めていた。

――どうして、科学に頼らなかったのかが、分からなかった。

――救えなかったのは、現代科学か、それとも、俺なのか?

「私、その方に会いたいです」

 エリカはそう言う。涙をぬぐって。

「……いいのか?」

 通は彼女を見る。

「はい」

 エリカは笑顔を見せる。

「それじゃ、今度の週末でいいか?」

 通は恐る恐る聞く。エリカは本当にそれでいいのか。

「うん!」

 エリカの笑顔に救われたのかもしれないと通は思った。

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