倉持と宣戦布告
由紀「最近、尻がでかくなった」
倉持「じゃあ、晩酌止めましょうよ」
由紀「それはない! 基本引きこもりの私にとって、この晩酌の時間は貴重な息抜きなんだよ」
倉持「そうですか」
由紀「というかさぁ。 お前この間、露骨に私とほとんど絡まなかっただろ、プールの時」
倉持「…気のせいです」
金曜日の夜
倉持は由紀に強引に晩酌に誘われていた。
翌日はキャンプがあるからと一度は断ったが、強引に拉致された。
由紀「そんなわけない。 私と、ほとんど遊んでくれなかった」
倉持「いやー…」
由紀「あれか? やっぱ、若い方がいいんか?」
倉持「そんなことありません」
由紀「あるね。 あの、ほら、最初におっぱいバーストした娘。 お前ぶっちゃけ、ああいう娘がタイプだろ?」
倉持「…そんなこと…ありませんよ」
由紀「はい、ダウトー。 お前、おっぱい好きだもんな」
倉持「なぜそれを… というか、酔い過ぎですよ」
倉持はテーブルの下に視線を落とす。
由紀「はー… 酔わなきゃな… 言えないこともあるじゃんよ」
倉持「…」
由紀は珍しく真面目な表情で倉持を見据えた。
由紀「倉持。 お前は重々承知していると思うけどな… 期待を持たせるだけ持たせて、近づいたところで一線を引くのは… 残酷な事だぞ」
倉持「…ですね」
由紀「まあ、私はお前の事情はよく知らない。 ぶっちゃけ詮索する気もない。 お前の性事情には興味あるけどな」
倉持「できれば、そっちも気にしないでほしいです」
由紀「それはムリだね。 まあ、あれだ… 詳しい事情は知らないけどな… それでも、私と紅葉さんはお前と桜をずっと見てきたつもりだ。 特に桜との付き合いは長い。 私は桜の姉を自称する勢いだ」
倉持「ええ」
由紀「だからな。 特に桜だ… 桜が悲しむのは見たくねぇ。 特にお前が桜を悲しませるのは見たくない。 まあ、どっちも大人だ。 人が口を出すのもお門違いだとおもうが… ただな… やっぱ、心配だよ。 お前も桜も。 うまく言えないけど、あれだ… 攻めてるわけじゃなくてさ… 一度はっきり言った方がいいんじゃないか? とか、思うんだよな… 私としては」
倉持「…そうですね」
由紀「…約束してやってくれないか… せめて… ○○したら、こうしようとか… そんな感じでもいいからさ…」
倉持「それ…死亡フラグじゃないですか」
由紀「へし折れよ。今まで散々女の子のフラグを折ってきてんだろ?死亡フラグも折ってしまえよ」
倉持「そうですね… 私もそろそろ、徐々に決着をつけないといけないと思ってます」
由紀「そうか」
倉持「ええ、年内には…」
由紀「…分かった」
由紀は半分ほど残った缶チューハイを一気に飲み干す。
由紀「無理は…すんなよ」
倉持「そのつもりです… ありがとうございます」
由紀「…気を付けろよ。 みんながみんな善人とは限らないからよ」
倉持「…存じてるつもりです」
倉持はテーブルの上を片付けて、外に向かう。
由紀「どこ行くんだ?」
倉持「ちょっと、酔いを醒ましてきます」
由紀「そうか、気を付けろよ」
由紀は、丸出しの胸をテーブルに押し付け、そのまま突っ伏した。
テーブルの上には100円玉が乗っていた。
由紀は人差し指でちょんちょんと、100円玉をつつく。
由紀「ああーーー。 イイ子が多すぎんだよ… 全く…」
ー倉持は月明かりに照らされながら、公園を歩く。
公園の中央の湖の周りにベンチが据えられている。
倉持がベンチに腰掛ける。
倉持の目線の先に、人影が見える。
月明かりに照らされ、その人物の像が露わになる。
その人物は徐々に倉持に近づき、倉持の目の前に立つ。
藤壺「先輩。 夜分呼び出しすみません」
倉持「大丈夫だ。 そっちこそ、こんな夜中に出歩いて大丈夫か?」
藤壺「心配してくれるんだー。 やっさしいねー」
倉持「茶化すな」
藤壺は倉持の隣に腰掛ける。
藤壺「…今日は宣戦布告に来ました」
倉持「そうか」
藤壺「私は、ちょっとは、アナタの事情を知っているつもりです」
倉持「ええ、付き合いも長いですし…」
藤壺「アナタのことは嫌いじゃないし、同情する気持ちもある。 けど、私は私で引けない事情がある。 だから…キャンプの時、私は勝負をかける」
倉持「…」
藤壺「選ぶことも、捨てることもできないなら、強引に選ばせる。 私は…それなりの覚悟で挑む」
倉持「…私は誰も選びませんし、選べません。 私は選べる立場じゃないですから… けど、覚悟はあります。 捨てる覚悟なら。 だから、藤壺。 私は全力で貴方を迎えます」
藤壺「…私、ホントの本気ですから」
倉持「…私もです」
藤壺はベンチから立ち上がり、歩き出す。
倉持はその斜め後ろを歩く。
てくてくてくてく
藤壺「…あの… こういうときって、普通反対方向に歩きませんか?」
倉持「夜道は危ないです。 送りますよ」
藤壺「…はあ」
倉持「勝負は明日でしょう」
藤壺「…屁理屈」
倉持「ええ、そうです」
藤壺「そんなことじゃほだされないわよ」
倉持「存じてます」
藤壺「拒絶しても、ついてくるんでしょうね。 アンタ強引だから」
倉持「ですね」
倉持は藤壺を家まで送った。
倉持は満月一歩手前の月を見ながら、ゆっくりと藤壺の家からシェアハウスに向かう。
酔いを醒ましながら。




