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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
藤壺編
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倉持とおくりもの

黒田と倉持は食事を終え会計に向かう。

倉持がお金を出そうとする。

黒田はそれを制して、会計を済ませる。


黒田「いいから、たまには先輩らしいことさせて」

倉持「…ごちそうさまです」


2人はお店を出た。


黒田「さて、本当にありがとうね。 おかげで準備が捗ったわ」

倉持「どういたしまして… あ、でも食材は?」

黒田「食材は当日現地調達するわよ。 まあ、野菜とかいくらか買っていくけど」

倉持「お手伝いしましょうか?」

黒田「……大丈夫よ。 一人で間に合うし、前日にスーパーに寄るだけだから」

倉持「そうですか… まあ、人手が要りそうならいつでも呼んでください」

黒田「…分かったわ。 よろしくね」


倉持は黒田の車まで荷運びを手伝った。

別れ際に500円を渡す。

黒田を見送ると、駅まで歩き、シャアハウスの反対側の駅に向かった。

駅に着くと、ロッカーに荷物を入れる。


倉持(さて…制限時間は1時間… 行くか)


この駅の周辺にはいわゆるサブカル… オタク的なお店が多数存在する。

ここで、倉持は最後の目的物を探す。

その前に他のものも見ていく。


倉持(予算はそこまで多くない… 吟味しないと)


倉持はまず、模型を取り扱う店舗を3件まわる。

特に購入することはないが、造形を見る。

『フィギュアやドールに手を出したら、戻れなくなる』という格言を信じ、倉持はそれらに手は出さないようにしていた。

そもそも凝り性であるため、一度手を出せば嵌ってしまうことを、倉持自身も理解していた。

そのため、見るだけに留めていた。


倉持(ほんと… 女の子が武器を持っているフィギュアが年々増えてきてるよなぁ… 映えると思うけど… なんかな…)


倉持はドールを取り扱っている店舗に向かった。

衣装の造形の細かさに感心しながら見ていると、後ろから声がかかる。


緑谷「こ、こんにちは…」

倉持「あ、どうも、こんにちは」

緑谷「こんにちは」

倉持「ええ」

緑谷「…倉持さん。 ドールにも興味があるんですか?」

倉持「ええ、そうなんですよ。 すごいですよねクオリティ…」

緑谷「ですね…」

倉持「それじゃあ」

緑谷「は、はい。 それでは、また」


倉持は緑谷と別れ、別の建物へ向かう。

次のお店では、再来週のイベントに参加するためのチケット付き冊子を購入した。

マイバッグを取り出し、そこに冊子を入れる。


その後、緑谷や知り合いがいないことを確認しながら、『射精管理機』を取り扱っているお店に入った。


倉持(前回のは、少しサイズがイマイチだったから、もうちょっと、大きめで、ソフトなものにしよう… まあ、効果があることが分かったし、今後も使うことを考えて2個は備えておこう)


倉持がお店に入り、目的物が陳列されている棚に向かう。


倉持(これかな…ちょうど、よさそうだ)


倉持が手を伸ばす。

その手に重なるように、別の手が触れる。


倉持「あ」

青野「あ」


重なる手の先から視線を下げると、そこには見知った顔があった。


倉持「…こんにちは」

青野「こんにちは」

倉持「はは…は… えーと…」


倉持はそのまま、カニ歩きで出口へ進み、階段を駆け上がり、お店から脱出した。

青野が追いつく。


青野「ちょっと、倉持先輩。 ひどいじゃないですか? 後輩と会ったのに、逃げ出すなんて」

倉持「すまん… いや、青野さんだから逃げたわけじゃ… いや青野さんだから逃げたんだけど…

別に悪気があったわけじゃなくて… ね… その、なんだ… 場所が場所だし… というかこんな場所で会うなんて…」

青野「確かに… 奇遇ですね」


青野(半分ホントで、半分ウソ… 先日壊しててしまったお詫びに、あれから、あれがどういうものか調べたところ、けっこうエッチなものだって分かりました。 倉持先輩はきっと、それをキャンプに向けてこの場所に買いに来るだろうと予想して、駅で待ち伏せしていたんですよ。 そしたら、案の定先輩は来た。 緑谷さんに会った時は、ひやっとしましたけど、同行せずに、いかがわしいお店に来てくれたおかげで、こうして偶然を装って出会うことができた… ってすんぽうです… 

さすが私)


倉持「ははは…」

青野「あの、この間壊してしまったお詫びに、新しいものを買ってお渡ししようと…」


『射精管理機』のプレゼント…

自分で買うのと、渡されるのとでは意味合いが異なってくる。

それを渡すということは独占欲の表れであり、捉えようによっては「私のために温存しておいてね♡」という意味でもある。

しかし青野はその意味には気付いていなかった。

倉持は当然この意味合いを知っていた。


倉持「いや… それは、さすがにいいですよ。 自分で買いますから」

青野「そんなわけにはいきません。 壊してしまったのは私なんですから、弁償しますよ」

倉持「大丈夫ですから、そんなに気を使わないでください」

青野「いいです、いいんです。 渡しますから… というか渡させてください」


青野は先ほどの理由は知らないものの、倉持に贈り物をしたかった。

しかし、時期的に口実がない。

そこで、青野は何でも良いので、とにかく倉持に物を渡したかったのだ。

ついでにいうなら、それが身に着けるものであればなおよいという乙女心もあった。


青野「じゃ、じゃあ、私は私で買います。 それで、先輩にプレゼントします。 それなら別にいいですよね」

倉持「いや… あの、物が物だから… ちょっと、受け取ってしまうのは…」

青野「どうしてですか、そんなアレなものなんですか、アレって」

倉持「いやー…」

青野「私だって、先輩の『射精』のお手伝いしたいんです」


倉持の標高は先ほどから、5㎝程度下がっている。


倉持「青野さん… それは、意味が違ってきます」

青野「どういうことですか? あれって、そういう物ですよね。 うっかり出ちゃわないようにするためのものですよね」

倉持「…ええ。 まあ」

青野「いいと思いますよ。 精神的に抑えきれないリビドーを、物理的に抑える。 素晴らしい発想だと思います。 私はその意志を尊敬します。 だから、お手伝いさせてください。 お願いします」


倉持は熱意に弱かった。


倉持「分かりました。 ちょうど、2個買おうと思っていましたので… 買っていただけますか? その代わりと言っては何ですが… 私からも何か贈らせてください」

青野「承知です。 それでは、いきましょー」


倉持と青野はお店に戻り、『射精管理機』をそれぞれ購入した。

青野はそれを倉持に渡した。


青野「はい。 どーぞ」

倉持「え、ええ。 ありがとうございます」


青野(これは、思わぬ僥倖です。 プレゼントを渡して、私も何かもらえる…)


倉持「さて、何か… 欲しいものは有りますか?」

青野「彼氏が欲しいです」


倉持はあたりを見渡す。

青野は倉持の首を両手で挟み、自分の方へ向ける。

しばし見つめ合う二人。

夏の暑さのせいか、2人の額に汗がにじむ。


青野「なんちゃって」


ぱっと手を離す。


倉持「はは… えーと、それ以外で」

青野「じゃ、じゃあ… ぬ…ぬいぐるみ?」

倉持「ぬいぐるみですね」

青野「子どもっぽいですか?」

倉持「ちょっと」

青野「がーん」

倉持「でも、可愛らしいと思いますよ」

青野「むー…」

倉持「じゃあ、行きましょう。 取り扱っているお店知ってますから」


倉持は青野を連れてぬいぐるみを取り扱っているお店に入る。

青野は目を輝かせながら、飾られているぬいぐるみを見る。


青野「わー。 いっぱいありますね。 スゴイです」

倉持「まあ、あまり高いのは遠慮してくださいよ」

青野「はーい」


アニマル系、魚系、キャラクター系、様々なぬいぐるみを見る。

青野はサメのぬいぐるみの前で足を止めた。

サメはぬいぐるみの中でも人気の高いモチーフの一つである。

しかし、量産されているがゆえに、人気があまりないモデルも存在する。


青野はメインの棚に陳列された可愛らしいサメではなく、お店の片隅のセールコーナーの籠に無造作に突っ込まれた、緑と赤の色付けがされた、紫色のリボンを付けた、妙に大きなサイズのサメのぬいぐるみに惹かれていた。

もともと1万円するそのぬいぐるみは2,000円まで安くなっていた。


青野「こ、これ… これが欲しいです」

倉持「分かりました… 可愛らしいですね」


青野は丁寧にラッピングされた、そのぬいぐるみを大事そうに抱えながら、店を出る。


青野「ありがとうございます… 何か逆にすみません」

倉持「いいですよ。 私も…楽しかったです」

青野「…」

倉持「…」


駅に近づいていく。


青野「あの… この間はすみませんでした…」

倉持「大丈夫ですよ。 私を助けてくれたわけですし」

青野「いえ、それではなくて… その前… 私、つい強引なことしちゃって… あの…私…前言ったように、人付き合いそんななくて… 男性と付き合ったこともなくて… だからその…よく分からなくて…距離感とか、加減とか… だから、迷惑… でしたよね。 ごめんなさい」

倉持「そのことですか、まあ、ちょっと驚きましたけど、状況が状況ですし、仕方ないですよ」

青野「…ほんと、ごめんなさい」

倉持「そんなに気にしないでください。 正直、困惑はしますけど… その、下品な話ですが…あの…気持ち…いいってのがあって… 私も正直抗えなくなるとまずいので…あまりなアレは、勘弁してほしいですけど」

青野「分かりました。 自重します」

倉持「助かります」

青野「あの…なのでって言うとおかしいですが… 気を付けますので… もしも…お時間があればで構いませんので、一緒にお出かけとか、してくれませんか? 人間関係とか…勉強したいんで…」

倉持「それぐらいなら、お安い御用ですよ」


倉持と青野は改札を抜けて、別のホームへ向かう。

電車の座席に座り、各々のプレゼントを見つめながら、カタカタと揺られる。


挿絵(By みてみん)

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