倉持と黒田
-きらびやかなイルミネーション、響き渡る鈴の音、行きかう人々は皆笑顔を浮かべている。
そんな中、倉持はべろんべろんに酔っぱらった黒田に肩を貸しながら、街を歩いていた。
倉持「黒田先輩… 大丈夫ですか?」
黒田「だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ。 ってか、ほんとゴメンね。せっかくのイブなのに」
倉持「大丈夫ですよ。 予定は有りませんでしたから」
黒田「うっそだー。 そんな容姿でモテないわけないでしょー。 同期の赤井とか、どうなん?」
倉持「赤井さんには、彼氏いますよ?」
黒田「え? そうなの? 意外にやるねぇ。 じゃあ、他にいないの?
倉持「いないですねぇ。 というか、私モテませんし」
黒田「ウソつけ―」
倉持「ホントですって… というか、黒田さん私の体質知っているでしょ? その体質があるから、黒田先輩と赤井さんぐらいしか声かけてくれないですよ」
黒田「あー。 あれ? なんかエッチなハプニングに巻き込まれるヤツだよね」
倉持「ええ、まあ、そういうヤツです」
黒田「まあ、私は気にしないからねー」
倉持「いや、ちょっとは気にしてくださいよ」
黒田「初心って訳じゃないし、そんなねー。 裸見られたぐらいじゃ、気にしないわよ」
倉持「気にしてください」
黒田「はあー …ゴメン。 はしゃいだら、気持ち悪くなってきちゃった…」
倉持「ええ? 大丈夫ですか、どこかベンチででも」
黒田「できれば横になりたいな…」
倉持「横に…って」
倉持が周囲を見渡すと、路地の奥にホテルが見えた。
倉持「ホテル、ホテルがありますよ?」
黒田「そうそう、そこのホテルで休みたいなー」
倉持「分かりました!」
倉持は黒田を連れて、そのホテルに入った。
偶然、1室だけ空いていた。
倉持はきょろきょろと見回し、情報を集める。
倉持「え? このホテル、休憩があるんですか? 少し安いですし、これで良いですか?」
黒田「…ん」
倉持は3h休憩することにした。
部屋に入ると、倉持は黒田をベッドに横たわらせた。
倉持「しばらく時間がありますので、ゆっくり休んでくださいね。 あ、何か飲み物要りますか? ルームサービス頼みます?」
黒田「倉持はさぁ…」
倉持「はい」
黒田「こういうとこ、初めて?」
倉持「うーん。 そうですね。 大体寝泊りは漫画喫茶ですね。 ホテルは、こないだの出張の時ぐらいですね」
黒田(なーんか… ずれてるんだけどなぁ… まあ、いいか)
倉持「というか、先輩こそ… まあ、そもそも一緒にお酒を飲んでいて、こんなこと言うの何ですが、結婚を考えている交際相手がいるっておっしゃってませんでした?」
黒田「…別れた」
倉持「ええ! そうだったんですか…」
黒田「というか、別れずに、会社の後輩と、イブの夜に、飲みに出かけてたら、ヤバいでしょ」
倉持「確かに… 言われてみれば」
黒田「浮気されてたー んだよねー」
倉持「浮気ですか… 黒田さんと付き合っておきながら… そんな」
黒田「ふふ、嬉しい事いってくれるねー。 優しいねー 倉持は」
倉持「そうですか?」
黒田「ところでさ… 倉持は本当に、ここがどういう場所か知らないの?」
倉持「休憩できるホテルですよね」
黒田「…ラブホテルって知ってる?」
倉持「それぐらい知ってますよ。 あれですよね。 あのー はい。 そういう目的で行くホテルですよね」
黒田は第一ボタンを開けて、身体を起こし、倉持にずいっと近寄る。
倉持は数センチのけぞる。
黒田「そういう…って、どういう目的…なのかな?」
倉持「え…」
倉持は赤面した。
その時、さすがの倉持も気が付いた。
話の流れから、この場所はラブホテルであること、に。
倉持「…あの、分かりました。 ごめんなさい。 知りませんでした」
黒田「なかなか珍しいわね」
倉持「いや、看板にラブホテルって書いてなかったので…」
黒田「気付こーよ。 というか、そもそもラブホテルじゃなくても、男性と女性でホテルに入るってことは、そういうことだよ」
倉持「ええ! それは、いけない。 私と先輩はそういう仲じゃないのに…」
黒田「…私は、そういう仲になってもいいけどね」
黒田はさらにボタンを外して下着を見せる。
倉持は目を覆う。
倉持「黒田先輩。 止めてください。 やけになってはいけません」
黒田「やけに…なってはいないけど…」
倉持「…」
倉持は立ち上がり、黒田の両肩に手を置いて、距離を確保する。
倉持「黒田先輩。 入社以来、本当にお世話になっています。 私がこの会社で孤立せずにいられるのは金剛部長や黒田先輩、それから赤井さんのおかげです。 ですので、とても感謝しています。 ですが… いやだからこそ、私は黒田先輩とそういう関係にはなれません」
黒田「…やっぱり、私って魅力が…」
倉持「そんなことありません」
倉持はチャックを下げて、ボロンと出す。
充血している。
黒田「…お、おっきい…」
倉持「黒田先輩は魅力的です。 これがその証拠です。 ですが、私は故あって、女性とそういった関係になれないんです。 だからごめんなさい。 その、できません」
黒田「ふふふ… ははははは。 いやいやいやいや。 倉持って、変というか、変態というか…ド変態だよね」
倉持「そうでしょうか」
黒田「だって… だってさ… いや、えー… いやあー。 ふふ… 私そんなテンションで露出する人初めて見たわ。 というか、モノの位置的には断るってよりも、むしろ行為を進める感じだよね」
黒田はベッドの上に座りなおし、衣服を整えた。
黒田「ゴメンね。 なんか変な感じになっちゃって… お詫びにご馳走するからさ… 好きなもの頼みなよ」
倉持「は、はい」
黒田は倉持にメニューを差し出す。
倉持はメニューを端から端まで見つめる。
倉持「ごめんなさい。 私こういうの決めるの遅いんですよね。 ですから、一緒に選びませんか?」
倉持はベッドの上にメニューを広げる。
倉持「…黒田先輩って、お菓子とかご飯好きですよね」
黒田「何? 太ってるとでも?」
倉持「いえ… そのー これまでも… さっきの居酒屋でもそうでしたけど… 楽しそうに、美味しそうに食べる人だなと思ってました」
黒田「…」
倉持「私、美味しそうに食べる人、好きなんですよね」
黒田「うん」
倉持「ですから、ご飯一緒に食べに行きませんか? その黒田先輩に良い相手が見つかるまで」
黒田「倉持が、その良い相手になってくれてもいいんだけど」
倉持「すみません。 そういうわけには…」
黒田「…訳あり…なんだね」
倉持「すみません」
きっちり3h休憩後、ラブホテルを後にして、倉持は黒田をアパートまで送った。
ー現在
黒田「ってことが、あったねー。 お互い若かったわね」
倉持「ですね。 いやー、我ながら、本当に無知でした。 お恥ずかしい」
黒田(もっと恥ずかしい事してんだけど… それは気にしてないんだね)
黒田は定食のロングウィンナーをほおばる。
倉持「はは、で、相談の件は…」
黒田「つい、思い出しちゃって… 忘れてたわ」
倉持「ですよねー」
黒田「まあ、倉持ならさ… 多分だけど、結局うまくまとめると思うよ… 色々とこんがらがったものをさ。 だから…自由にしなよ」
倉持は一足先に食事を終え、割り箸を袋に入れて、袋の端を折った。
倉持「ありがとうございます。 やってみます」
黒田「…ガンバ」
黒田(あの日以降、結局一線引くようになっちゃったんだよねー。 何度か食事には行ったけど、そのうち、彼氏できたって嘘ついて… 気付いたら… この年かぁ… はは… あーあ… けど、良い先輩ってポジション…捨てがたいのよねぇ)
黒田も食事を終え、割り箸を袋に入れた。
最後に水を身体に流し込んだ。




