倉持とヘッドハンティング
挿絵は仕事中の桜
-金曜日の夜
倉持はバーに足を運ぶ。
やや奥まったところにある隠れ家的な場所である。
バーに入ると、マスターに軽く会釈して、カウンターに向かう。
倉持「やあ、ジョディ…」
ジョディ「こんばんはトオル」
ジョディは既にカクテルを半分ほど飲んでいる。
倉持はジョディの隣に座り、お任せで一杯注文する。
倉持「それで… 話しって何だい? 改まって…」
ジョディ「…ねえ? うちの会社にこない?」
倉持「…期限付きになるけど」
ジョディ「うちに来てくれれば、時間の融通はいくらでもきくわ。 給与もいいし… 残された時間なら、尚の事、楽しんでほしいって… 思うの」
倉持「…難しいかな… 今の仕事気に入ってるし… それに君の会社でまじめに働いている人に悪い」
ジョディ「そんなこと気にしないでいいよ。 というか、仕事は仕事できちんと依頼したいこと山ほどある。 けど色々と好きなことできる時間もつくれるってこと」
倉持「そうか…確かに魅力的だな」
ジョディ「…けど、ことわる?」
倉持「…いや…ちょっと考えさせてくれ」
ジョディ「ほんと?」
倉持「ああ、というか…まあ、このバーの時点でその話かなとはうっすら思ってたよ」
ジョディ「でも来てくれた…ってことは?」
倉持「まあ、ちょっと前向きに考えるよ。 ただ、来た理由は…純粋に飲みたいからだけどね」
ジョディ「そうなんだ。 めずらしいね? なんかあった?」
倉持「ああ… 色々とね」
ジョディ「ふーん。 まあ、話してたら聞くけど… 無理には聞かないわ」
倉持「助かる」
倉持は指し出されたカクテルをクイッと飲む。
倉持「美味しいですね」
ジョディ「だね」
倉持「それと、偽装婚約者の話だけど… 来月1回でOK?」
ジョディ「うん。 そうだね。 別に偽装じゃなくてもいいけど?」
倉持「それはいけない」
ジョディ「つれないわね」
その後、倉持とジョディは数杯カクテルを飲み込む。
急にジョディがぱたりと寝込む。
倉持がカウンターをトントンと叩いて起こそうとするが、起きる気配がない。
倉持はカクテルを追加し、起きるのを待つ。
やや時間が経ち、ジョディはうっすら目を開ける。
囁くように話す。
ジョディ「…ゴメン、トオル。 横になりたい」
倉持「分かった。 少し立つことはできる?」
ジョディ「うん。 何とか… 肩をかしてほしい」
倉持は会計を済ませる。
ジョディは震える手で、自分が飲んだ分の代金を差し出す。
倉持は店員に謝罪し、店を出る。
ジョディは倉持の肩に体重を乗せる。
ジョディ「ゴメンね… なんかさ… 飲みすぎちゃった」
倉持「いいよ」
ジョディ「近くのホテルで休むわ」
倉持「大丈夫か? 家の人を呼んだ方がいいんじゃないか?」
ジョディ「…トオルがいれば大丈夫」
倉持の右腕にジョディのおっぱいが当たる。
倉持神経は自然と右腕重視になっていた。
倉持(いかんいかん… 平常心。 それにしてもジョディがこんなになるなんて… 何かあったのか? さっき話しきれなかった何か…)
倉持「…酔いがさめるまでの間でしたら…話し聞きましょうか? 何かイヤな事でもありました?」
ジョディ「アリガト… じゃあ、聞いてくれるかな?」
倉持「ええ」
倉持はジョディとともに、ビジネスホテルに入る。
ダブルベッドの部屋をとる。
鍵を受け取ると、ジョディを気遣いながら部屋に向かう。
部屋に入り、ジョディをベッドに横たわらせる。
ジョディ「ゴメン…ありがと」
倉持「しばらくは居るから…」
外から、トラックの走る音が聞こえる。
ジョディは腕を使い、両目を押さえる。
ジョディ「イヤな事… あったよ」
倉持「…」
そのころ、桜と霞はビデオ通話をしていた。
霞「普通ならね… 聞きたくないことや話したくないことってあるじゃない? 特に自分に責があることって、つらいよね」
桜「ええ…ですね」
霞「徹は…話題がそうと分かりながら…聞くのよね」
桜「…そうですね」
霞「マゾいわよね」
桜「普通なら、逃げますよね」
霞「…好意ははぐらかすクセに、ある意味敵意…そうね。 敵意に近いわよね」
桜「悪意はないですけどね。 でも、心にくるでしょうね」
霞「…純粋な感情は、ある意味敵意に近いわよね」
桜「それを… それは… 真正面から受けちゃうんですよね… 倉持さんは」
霞「普通は… そっちを避けたり、はぐらかしたりするもんだけどね」
桜「受け入れられないくせに、受けてしまう… つらいと思いますよ…」
霞「そうね… ところで、あなたの言ってたあの人は…大丈夫そうなの?」
桜「一応牽制はしておきましたけど… 分かりませんね」
霞「へたにかき回されると、取り返しがつかないことになりかねない」
桜「ですね。 まあ、真冬さんや職場の人もいますから… というか、たぶん結局、倉持さんがなんとかするんでしょうけどね」
霞「だな…」
ーホテルの一室
ジョディ「…けど、言わないや」
倉持「いいんですか?」
ジョディ「気持ちを伝えるって… 気が相手にいくよね。 自分で持ってなきゃいけない気を、人に渡すんだよね。 それって、伝えた方は楽になるけど、伝えられた人は、人の気を持たないといけないってことだよね… それ…大変だよね… だからさ… うん… 寝る」
倉持「…いいの?」
ジョディは身体をガバッと起こす。
その瞬間酔いがさらにまわりバランスを崩してしまう。
地面に向かって落ちそうになる
ジョディ「あ…」
倉持はジョディを支える。
倉持は下敷きになる。
ジョディのおっぱいが倉持の顔面を押しつぶす。
ジョディの下半身は薄い布越しに倉持の腹部に密着している。
倉持「大丈夫?」
ジョディ「ありがとう…」
ジョディは身体を起こせないでいる。
ジョディはごそごそと、身体の位置を下げる。
倉持の胸に顔を置く。
頬をピトリと倉持の胸に着け、心音を聞く。
倉持の心臓はドクンドクンと勢いよく血を全身に送る。
特に下半身に…
そのまま時が過ぎる。
倉持はジョディを落ち着けてベッドに寝かしつける。
ジョディはうわごとのように、ゲームの話などをする。
倉持は寝付くまでうんうんと頷く。
そして、倉持はドアの前で力尽きた。
結局翌朝一緒にホテルを出て、その際に500円手渡した。




