表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
藤壺編
70/371

倉持と母(後編)

花「あー。 楽しかったぁ 徹ちゃん。 面白いとこいっぱい知ってるね」

倉持「まあ… それなりに付き合ってくれる人もいますんで」

花「ふふー… 霞ちゃんが泣くぞー??」

倉持「…いや、霞とはそんなんじゃあ…」

花「はぁ… アンタの父さんは、そこまでじゃあなかったけど…」

倉持「父と私は違います」

花「…毎年お墓参りにはいくのに… 許してはいないのね」

倉持「…許さないためです… 父のせいで、母は憂き目にあったんです」

花「…」

倉持「…」


花は倉持の顔を見る。

その目は不自然に潤っている。


倉持「すみません。 肉親の事を悪く言うつもりじゃないんです… けど、母が壊れてしまったのは…父のせいだと… 私は思っています。 たとえそれが二人納得の上の結果だとしても…私には…はいそうですかと…すんなり受け入れられるものじゃありません」

花「…そうだよね」

倉持「…でも…」

花「?」

倉持「同時に… 羨ましくもあります… 私は… 一緒に死んでくれと言うことはできません… そこまでの覚悟が私にはないんです」


倉持は気恥ずかし気に鼻の頭をかく。


倉持「好きになる覚悟も、好かれる覚悟も…」


花は笑みを浮かべる。


花「…ありがたいね。 なんかそこまで話してもらえるなんて… こんなこと言うのは…ちょっと変かもだけど… とりあえず、嬉しいね… まあ、力になれるようなアドバイスはできないんだけど」

倉持「いえ、いいんです。 私もちょうど…誰かに話したかったんです…」

花「その誰かになれるだけでもうれしいもんよ。 男の子は恋愛観とか話さないじゃない」

倉持「ですね」

花「忘れないわよ… 10年後にでも…昔こんなこと言ってたって… 笑い話にしてやるんだから」

倉持「ええ」

花「…」

倉持「…」


展望台から、沈む夕日を眺めながら…

夕日が放射状に光を放つ。

その輝きは、落ちる瞬間一層強まる。

消える瞬間をより印象付けるかのようである。


花の頬を涙が伝う。

その道を次から次へと涙が追う。

倉持は、ハンカチを差し出す。

花は受け取り、目じりを抑える。


花「…なによ… 呪いって… そんなの…」

倉持「…ね? 変な話ですよね」

花「…他人事みたいに…」

倉持「…でも、呪いと分かってよかったです… まだ、抗えます」

花「ほんとに?」

倉持「それが何であれ…正体そのものが分からなければ…どうしようもありませんが、呪いということであれば、どうにかしようがあります」

花「なんか… 徹ちゃんなら、何とかしてしまいそうな気もするわ」

倉持「…笑いましょう… 10年後一緒に… 私は赤いちゃんちゃんこを織っておきます」

花「うるさい。 還暦ネタは禁止」

倉持「はは… さて、帰りましょうか? ご飯の用意してくださってるようですよ」

花「…うん」


倉持と花はシェアハウスに戻り、食卓を囲んだ。



夜が更けるころ、花はひっそりと大浴場に浸かる。


花「はあー。 いいお湯ねー。 こんなイイお風呂あるなら、頻繁に来ようかしら」


お湯を手ですくい顔につける。



そのころ、倉持はシャワーでゆったりと身体を流していた。

キュッと、ノズルを捻った瞬間。

ドアを突き破り由紀が突入してきた。


由紀「だれだあああ。 シャワー室の前になんか滑るやつ置いたのわああああ」

倉持「ちょっ… 由紀さん… 何を引き起こしてるんですか」


その衝撃で、倉持と由紀はシャワー室にある大浴場行きの隠し通路に突っ込む。


倉持「このギミック、いつ無くなるんですか?」

由紀「知らんわ」


倉持と由紀は抱き合うような形で大浴場に突入する。

大浴場のど真ん中に大きな水しぶきが上がる。

倉持は背中から着水し、そのままお風呂のそこに背中から浸かる。

由紀は倉持の腹部に、局部が当たる形で落ちる。


花はその様子を達観した様子で眺めていた。


花(さすがお兄ちゃんの息子ね… なんかもう、法則とかないわね)


由紀の目の前にぼごぼごと水泡がはじける。


由紀「あ、ども… 突然すみません」

花「大丈夫。 慣れてるわ」

由紀「…さすがっすね」


その時、大浴場の扉が開き、紅葉が入ってくる。


紅葉「花さん 湯加減いかがですか? お背中お流ししますよ」

花「あらあら」

紅葉「あーー。 倉持さんいます?」

由紀「私の下に」

紅葉「どけたら? 死んじゃうわよ?」


由紀は、前方に手をついて、腰を上げる。

そのまま、前に身体をスライドさせる。

途中倉持の吐いた泡が、デリケートな部分に当たる。


倉持は身体を下方にスライドし、ゆっくり状態を湯から上げる。


倉持「はあはあああ。 と、突然すみません。 この家…少し独特でして…」

花「まあ、実家でもよくあったし、気にしてないわよ。 私は」

倉持「少しは気にしましょうよ」

花「いまさら… 昔は普通に一緒に入ってたし」

由紀「へー、何歳までですか?」


紅葉は気にせず身体を洗い、浴槽に入る準備を着々と進めている。


花「小学5年生ね」

由紀「あらー… そこそこ、入ってたのね」

花「まあ、ハプニングも含めると、中3まで一緒に入っていたけどね」

由紀「そうなんですね。 まあ、私もよく一緒してます」


倉持は大浴場から出ようとする。


花「あら? 徹ちゃん出ちゃうの? 久しぶりだし、もっと一緒に入ろうよ」

由紀「そうそう。 いまさら恥ずかしがる仲でもないだろ?」

紅葉「そうよ。 たまにはお姉さんたちの相手もしてくれないと… すねちゃうわよ?」


倉持は出口へ向かう。


花「実家… アレ… 忘れ物」


倉持はすぐさま戻る。


倉持「…その話は… しない約束じゃないですか?」

花「え? 何のこと? じ…」

倉持「ちょーーーっと。 待ってください。 それはプライバシーですよ」

由紀「え? お前にプライバシーってあったの?」

倉持「人権ぐらいください」

紅葉「…」

由紀「…」


紅葉と由紀は顔を見合わせる。


倉持「泣きますよ」


しばし、湯船に浸かりながら、世間話が続く。

花は紅葉や由紀とすっかり意気投合していた。


翌朝、花は荷物を早々にまとめて、帰っていった。

倉持は新幹線のホームまで見送りに行く。

「いつでも帰っておいでよ」花は倉持にそう告げて、乗車した。

窓越しに手を振る。

倉持も小刻みに手を振り返す。



ちなみに、倉持が高校の寮に入る際、実家に忘れていた自作のポエムと自作のいやらしい絵のことは、きっちり紅葉と由紀に伝えられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ