倉持と母(前編)
突如やってきた倉持の育ての親 倉持花
倉持の父親の妹。
実の母親 倉持光 の親友でもある。
挿絵は、倉持 花
人間だれしも、苦手な人がいる。
好きだが苦手という人もいる。
倉持にも苦手な人間がいる。
-土曜日の朝
倉持がジョディとのランニングを終え、シェアハウスに戻ると、何やら懐かしい香りが充満していた。
そう例えるなら、炭の匂い。
紅葉や桜がそのような失態をするわけがない。
宇美も仕様と思えば最低限の家事はできるし、由紀はなまぐさなだけで料理の腕はある。
倉持には嫌な予感が浮かんだ。
恐る恐る台所を見ると、そこには懐かしい人物がいた。
母親、花である。
倉持が幼少の時に引き取り育ててくれた母である。
花「おはよう徹ちゃん。 久しぶりね」
倉持「…お…おはようございます。 この間はろくに会えずすみません」
花「そんな改まらなくていいのよ。 というかこっちこそ出張で会えなくてごめんね」
倉持「いやいや… ところで、どうしてここへ?」
花「もう。 それ聞く? 久しぶりに息子の顔を見たくなったからに決まってるじゃない」
倉持「この観光ガイド、めちゃくちゃ付箋貼ってあるけど」
花「ばれたか! だって、千夏がめちゃくちゃ自慢するんだもん。 だからー 私も夏休みとってきた。 案内よろしくね」
倉持「…はは、分かりました」
そこに紅葉がやってくる。
紅葉「どうも、お世話になります。 管理人の紅葉です」
花「お世話になります。 本当にうちの子、ご迷惑かけてないですか?」
紅葉は倉持にアイコンタクトを取る。
倉持は目で訴える。
倉持テレパシー(すみません。 何とかごまかしてください)
紅葉テレパシー(OK)
紅葉「少しスケベなだけで、何も問題はありません」
倉持(ああああああ)
花「スケベ… 徹ちゃん… 何をしたの?」
紅葉「混浴ですね」
花「そう…血は争えないわね」
倉持「…」
花「この子の父親も、スケベだったのよね。 ホントすぐに女の子ともつれてたわ。 おかげで私もどスケベの妹って、言われて大変だったんだから」
倉持「面目ない」
花「まあ、別にいいのよ。 徹ちゃんの人生なんだし、好きにすれば。 責任は取るんでしょ? もちろん」
倉持「…そ、そのつもりです」
花「はい。 じゃあ、これ朝ごはん。 しっかり食べなさい」
倉持の目の前にお皿に乗った炭が置かれる。
倉持「い、いただきます」
花「そういえば…お部屋にちょっと、エッチな本があったけど… 裸の女の子の本」
倉持「…」
花「徹ちゃんは、どの娘がタイプなの? あの、ピンクの髪の女の子かな? 黒髪ロングの子かな?」
倉持「いえ… 別にタイプとか…そんなのは…特に」
花「へー。 でも折り目はピンクの髪の娘のページでついてたわよ」
倉持「ははは、このご飯美味しいですねー」
紅葉(何だろ… このつかめなさ…)
花「それ食べたら、出かけましょうね。 案内してくれる?」
倉持「ええ、もちろん」
倉持は炭をかきこむと、すぐに出かける準備を済ませて、花とともに街へ繰り出した。
倉持「あれ? 観光案内の本は?」
花「いらなーい。 徹ちゃんのオススメスポットへ連れて行って欲しいなー」
倉持「お、オススメ… うーん。 じゃあ、とりあえず…」
倉持は花を連れて、ショッピングモールへ行く。
まずは文具店、雑貨店をめぐる。
その後、美術品の展示場、アイスクリームショップと回っていく。
一応観光名所も回るが、簡単な説明にとどめ、すぐに百貨店へ向かう。
倉持は百貨店の屋上で二人分の飲み物を購入する。
ベンチに腰掛けて、休憩をする。
倉持「飲みながらなんだけど、昼食どうします?」
花「お任せするわ」
倉持「じゃあ、牛タンでも行きましょう。 美味しいですよ」
花は倉持を見つめる。
花「よかった… 楽しそうで…」
倉持「え?」
花「これだけ、知ってるってことは、それだけ人付き合いもできてるってことよね。 正直心配だったんだよ? 徹ちゃんって、スケベだから、ちゃんと友達出来るのかなって」
倉持「いい人たちが多いお陰です」
花「人が人を呼ぶのよ。 周りにいい人たちが多いのは、徹ちゃんが善く生きてるからよ」
倉持「…」
花「あのね… 光さんの居場所… 分かったよ」
倉持「え、そうですか?」
花「ええ、けど… 意識はまだ…」
倉持「そうですか… どこにいるんですか?」
花「…メモ」
倉持「ありがとうございます」
倉持は花から紙切れを受け取る。
花「当然だけど…向こうの人たちは良く思っていないわ。 うかつに会いに行くのはよした方がよいと思うよ」
倉持「ありがとうございます。 ひとまず、今は… 生きていたというだけでも朗報です」
花「徹ちゃんは、光さんに似てるね。 私よりも、やっぱり親子だなって思った」
倉持「…」
花「さて、報告は終わり… それじゃあ、引き続き観光を楽しみましょう」
倉持「そうですね。 行きましょう」




