倉持は責任を取る(後編)
桜と藤壺は公園のベンチに腰掛ける。
藤壺はすぐに切り出した。
藤壺「どうだった? シェアハウスは?」
桜「どうも、停電があったみたい」
藤壺「ふーん… なるほどねぇ…」
桜「何か知っているような口ぶりね」
藤壺「いや、別に… そういう法則なんだなって…思っただけ…」
桜「…ここ最近、もしかしてずっと倉持さんの近くにいた?」
藤壺「そうね」
桜「何のために?」
藤壺「…さあ… しいて言うなら…嫌がらせ?」
桜「よくわからないことをするわね」
藤壺「だね。 普通の人には分からないだろうね」
桜「いつまでする気?」
藤壺「…せんぱ… 徹、次第かな? アイツが誰かとやってくれればやめるよ」
桜「それで、どうなるかは分かっているでしょ?」
藤壺「まあ、本人から聞いてるし、分かってるつもりだよ… けど、信じられる? 呪いがあるから女とやれないって… ワケが分からない… やりたくてもやれない人からすれば頭おかしいとしか思えないわ」
桜「葵…」
藤壺は時計に目を落とす。
藤壺「あれって不思議だよね。 誰にも見られていなければ、電車内でもラッキースケベが発生するっぽいのに、誰か他の男に見られる場合は発動しない… 都合が良いというか…」
桜「何が言いたいの?」
藤壺「いや、別に。 ただしばらく見てて思ったことを言っただけ… よく見れば見るほど… 分からないわ… アイツは一体どうなってんのかしら」
桜「…そういうものだから仕方ないじゃない」
藤壺「まあね… なるようにしかなれないのが人間だからね… 話を戻すけど… 私はね。 とりあえずアイツには誰かと一発ヤッテ一皮むけて欲しいわけ。 うだうだと童貞っぽい御託を並べるんじゃなくて、腹をくくってほしいのよ。 で…そのうえで桜と結ばれて欲しいと思うわけ」
桜「私と? どういうこと」
藤壺「お似合いだと思うからよ… まあ、職場にもイイ感じの人はいるよ? けど、私的には桜以上に倉持にあう人はいないって思うんだよね」
桜「買いかぶりすぎよ。 私じゃ見合わないわ」
藤壺「一番アイツを理解できてるのは、桜だと思うけど」
桜「それは、付き合いが長いからってだけよ…」
藤壺「ふーん… じゃあさ… 私がアイツと誰かをくっつけようとするのに桜が口を挟むのはいけないんじゃない?」
桜「え?」
藤壺「だって、そうだろ? 今の話だと、桜は一歩身を引くってことじゃないか? それなら他の人間がアイツにアプローチするのも自由、それを同僚のよしみで私が手助けするのも自由。 桜は口を出すべきじゃぁないよな」
桜「それは…」
藤壺「正直桜が思っている以上にアイツに惚れている人間は多いよ」
桜「…」
藤壺「…アイツの優しさは…危険だよ。 責任を取る気も、愛される覚悟もないのに…誰彼構わず優しくし過ぎなんだよ」
桜「…」
藤壺「思うよ。 女性だって…この人私の事好きなのかなって… あんなに無尽蔵に優しさを振りまいていて、無理な悩みも聞いていて、それでエッチな目にもあって… それで好きになるなって方が難しいでしょ? けど、アイツはそういう部分になると急に壁を作る… ショックだと思うよ…女性たちは… それまでは何でも聞いてくれていたのに、キスぐらい…S○Xぐらい…なんでしてくれないのって…なるよ。 残酷なことしてるんだよアイツは… 無責任なことしてるんだよアイツは…」
桜「葵… もしも、ドラマならあなたの頬を思い切り引っ叩いているところよ」
桜は藤壺の言葉をさえぎり、重々しい口調で言い放った。
感情をむき出しにした言葉に藤壺は一瞬戸惑った。
なぜならば、長い付き合いの中、桜がそのように感情をナイフのように突き出すことはなかったからだ。
藤壺「…なんで、かばうんだよ」
桜「彼は彼なりに責任と向き合ってるの。 それを知らないのに、彼のことを無責任なんていわせない」
藤壺「…かばうんだな… アイツのことを…」
桜「別にかばう気はないわ。 彼の優しさが危ういのは私も思うところだし、残酷なことをしてるのも分かる… けど… 彼のジレンマを考えると… 彼は十分誠実だし、責任を感じていると思うよ」
藤壺「…そう…か。 私が知らない事情もあるんだな」
桜「…」
藤壺「桜の言いたいことは分かった… けど、それで、はいそうですか…とは私もならない… そんな単純な話じゃないんだ。 だから、アンタの要求は聞けない… 私はアイツが誰かとヤるように仕向ける。 それはやめない」
桜「…」
藤壺「アイツの責任の取り方は私には納得できない。 私は私の思う責任の取り方をアイツに押し付ける。 私がアイツから納得のいく答えを聞くまでは」
桜「…分かった… じゃあ、止めない」
藤壺「やけにあっさり引くな」
桜「私の言葉でとまるアナタじゃないでしょ… それに、全面的な肯定はできないけど、アナタの考えの方が、普通に考えれば理があるもの」
藤壺「…」
桜「けど、度を超えそうなら、邪魔に入るわ」
藤壺「…分かった」
桜はベンチの上にある時計を見る。
藤壺「ああ、その時計。 見ても無駄だぞ。 遅れてんだよ。 結構前から」
桜「そうなの? 昔はちゃんとしてたのに」
藤壺「そうか? たまにくるってたぞ。 何度かそれをあてにしていた徹が終電逃しただろ」
桜「ああー、そういえばあったわね」
藤壺「それで、アイツ何度か桜の部屋に泊まっただろ?」
桜「そうね。そういう時に限って、タクシーが全台埋まってたり、道がふさがってたり、靴に穴が開いたり、雨が降ったり… いろいろあったわね」
藤壺「まったく、不条理だよね… ホント… まあ、私の根本は変わっていないよ。 最終的にはあんた達に結ばれて欲しい… これだけは本音だよ。 まあ、そこに至る過程は納得してもらえないだろうけど」
桜「…ごめんけど、結論にも納得できるかは分からないけどね」
藤壺(…そこは、結ばれてくれないと… 私がうかばれないよ)
藤壺が腰を上げると、続いて桜も立ち上がる。
それぞれ軽く挨拶を交わすと、別々の道へと歩き始めた。
一方倉持は、由紀と紅葉にマッサージをすることで、何とか気を鎮めていた。
由紀「ああん… いい… 気持ちいいっっ」
紅葉「テクニシャンね… すごいっっ… ほぐれるわぁ」
由紀「火照った責任… とってくれよな」
倉持「もとはと言えば、由紀さんのアイスのせいでしょ?」
由紀「いや、お前のせいだ… お前のせいで私は全裸になってしまってるんだ」
倉持「いやいや、それが由紀さんのデフォでしょ?」
倉持は二人の背中や腕、足の付け根、足先などを丁寧にほぐす。
ツボやリンパの集中する部分を的確に刺激していく。




