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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
藤壺編
64/371

倉持は相談を受ける(青野編)

-火曜日の朝

倉持は出勤するなり、上司に急な休暇を詫びてから、デスクについた。

何人かの社員に心配されるが、ほどほどの相槌でいなした。

ただ、青野はなかなか食い下がらなかった。

倉持はお昼にでも説明すると説得し、やっとのことで追い返した。


ホッとしていると、赤井がやってくる。

赤井は神妙な面持ちで、倉持に話かける。

先週断った飲みの話である。

倉持はスケジュール帳を開き、週末に何も予定がないことを確認し、飲みに行く約束をした。



そんなよくある日常。



-お昼

倉持は律儀にも青野に声をかける。

青野はパタパタと資料を整理して、席を立つ準備をする。

青野は倉持の後をついていく。


倉持はオフィスの近くにあるお蕎麦屋に入る。

以前後輩数人と食事に来た時に、青野がここの蕎麦を気に入っていたからだ。

席に着くと、倉持は青野にメニューを差し出す。


青野「倉持先輩の方が選ぶの遅いんで、お先にどーぞ」

倉持「そ、そーか… すまん」

青野「おきになさらずー」


倉持は好意に甘え、先に選ぶことにした。

3分経過…

5分経過…

青野はおしぼりで、鶴を折り始めた・


倉持「よし、決まった。 すまない、待たせた。 どうぞ」

青野「あ、私決まってますんで」


青野はベルを鳴らして店員を呼んだ。


倉持「すまん」

青野「いいですよー。 真剣に悩んでる先輩も可愛かったんで」

倉持「からかうな」

青野「ギャップが面白いですよねー。 先輩って、自分の事となると、すごく優柔不断ですよね」

倉持「すまんな… そういう性分なんだ」

青野「でも…いいですよ。 そういう人は人にも優しくできるので… それに先輩は仕事やいざというときは決断力があるので、カッコいいと思いますよ」

倉持「どうした… なんか今日はやけに持ち上げるな」

青野「別に…なんか、久しぶりに二人きりなので、ちょっと、色々と話したい気分なんです」

倉持「そうか… えーと… 最近仕事はどうだ? というか休暇の理由…」

青野「話題がないなら、無理に話振らなくていいですよ。 それに休暇の理由もぶっちゃけ関心事じゃありません」

倉持「う…うん… うーん」

青野「私は話題があるので、お話しますね」

倉持「ああ」

青野「私、会社辞めないといけないかもしれないです」


青野は、あまりに自然に、まるで今日の天気を告げるかのような口調であった。


倉持「え…と… ホントに?」

青野「はい」

倉持「差し支えない範囲で、事情を聞いてもいいかな?」

青野「もちろんです。 事情を話すために、強引に誘ったんです」

倉持「そうか…でも、それなら夕方でも」

青野「ダメですよ。 先輩優柔不断ですから、夜だといつまででも話してしまいますよ? だからわざわざリミットがあるお昼にしたんですよ」

倉持「…なるほど」


二人の前に蕎麦が運ばれる。

箸を割り、手を合わせてから食べ始める。


青野「美味しいですね」

倉持「だな」

青野「で… 事情というのはですね。 家の都合なんです。 私…実は結構いいところのお嬢様なんです。 で、結構お坊ちゃんの幼馴染がいまして、まあ、園から一緒ってだけなんですけどね。

それと結婚しろって言われてるんです。 まあ、企業同士のアレコレもあるんですけど… 実はその幼馴染に一方的に惚れられてるんですよ… 私可愛いから…」

倉持(ツッコミ待ちなのか… いや、可愛いとは思うけど…)

青野「ツッコミ待ちなんですけど… 話し聞いています」

倉持「き、聞いてるよ」

青野「今度、ミスしたら、ワサビ増量しますよ?」

倉持「あ、ああ。 気を付ける」


青野は出汁にたっぷりと薬味を入れてかき混ぜる。


青野「それで…正直私は、全く好きじゃないんです。 なのに結婚しろって言われてて…それも嫌なんですけど… それ以上に、仕事を辞めろって言われてまして… けど…辞めないと職場に迷惑をかけかねなくて… それで…相談しました」

倉持「そうか…」

青野「あ、先に補足しておきますね。 ①別に私は一般論を聞きたいわけじゃないです②共感してほしいわけじゃなくて解決策を模索してほしいパターンです③この話はまだ、倉持先輩にしかしていません」

倉持「…先に蕎麦を食べていいか?」

青野「どうぞ、蕎麦湯を飲みながら、助言をください」


蕎麦湯が机上に置かれる。

先に食べ終えた倉持は、蕎麦湯を作る。

一口飲む。

倉持は先日の三奈との一件を思い出していた。

あれがなければ、おそらく倉持は、言葉に窮するか、一般論でお茶を濁していたことだろう。

だが、倉持は少しだけ、正直に話すことを覚えていた。


倉持「寂しいな。 短い期間だったけど、青野はまじめで吸収も早い。 これからさらに伸びると期待してる。 だから、辞めないでほしい…」

青野「もっともじゃもじゃと御託を並べると思ってたんですが… 意外とストレートにきましたね」

倉持「まあ、青野は仕事をすぐやめるのはーとか、再就職のときどうだかーとか十分承知だと思うし、他の人がどう思うかなんてのも大体予想の上だろ? だから私の思うを言わせてもらう。

何かしてほしいことがあれば、動くよ。 言ってくれ。 例えば、破談にするとか、ね。 青野が望むなら」

青野「へ…へぇ~… まさかそこまで言ってくれるとは… 具体的な方法も思いついてますか?」

倉持「結婚式場に飛び込もうか?」

青野「それ、一番ダメな奴」


倉持は蕎麦湯を飲み干す。


倉持「存じてる。 そうだな…準備期間も含めて、1週間かな? ちょっとリスクはあるけど」

青野「なんですかリスクって?」

倉持「青野が婚期を逃す」

青野「はは、そしたら、先輩に責任をなすりつけます。 アフターケアも込み込みでの相談です」

倉持「責任重大だな。 私、あまり友人多くないんだけど…」

青野「ふふふ… これはこれは、なかなか根気がいりそうですね」

倉持「?」

青野「じゃあ、よろしくお願いしますね。 先輩。 お礼はいくらでもしますから」

倉持「…すまん…今でもいいか?」

青野「え…」

倉持「…財布を…忘れた」

青野「何で、先輩って… そんな絶妙に残念なんですか」


青野も蕎麦を食べ終えると、一気に蕎麦湯を飲み干し、お店を後にした。

倉持は後程、きっちり2人分の食事代を渡した。


挿絵(By みてみん)

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