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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
藤壺編
63/371

倉持は許さない

倉持と藤壺の過去


挿絵は本編と全く関係ない

由紀

-大学時代

ぼっち飯をしていた倉持は桜に救われた。

桜と過ごし時間は倉持にとって非常に価値ある時間になっていた。

その時間に、入ってくる人物が現れた。

それが藤壺葵である。


藤壺は桜の友人であった。

最初は桜を案じて、倉持に敵意をむき出しにしていた。

しかし、しばらくすると倉持は安全であると分かったのか、藤壺も倉持に気を許すようになる。

次第に3人で行動する機会が増える。

桜も藤壺も人当たりが良かった。

藤壺は中性的なルックスで男女双方から人気があった。


そうすると、周りの女性も倉持に気を許すようになってくる。

喫茶店でのアルバイトも相乗効果があった。

倉持は次第に打ち解けていった。


しかし、ある日倉持と桜は藤壺の様子が気になるようになる。

藤壺はしばしば挙動不審、何かに怯えるような言動をしていた。

そういったことを見逃すことができる倉持たちではない。

藤壺から事情を聞き出す。

誰かにつけられている、しばしば私物が無くなると藤壺は訴える。

倉持と桜と行動を共にする時間を増やした。

一週間特に問題はなく藤壺は安心して過ごすことができていた。


だが、藤壺が油断していたある日の夕刻、藤壺は助教授から頼まれて、倉庫に資料を運んでいた。

倉庫に入り奥の棚に資料を置いた瞬間、扉が閉まる。

扉の前には助教授の姿があった。

教授はカギを閉める。

藤壺は身の危険を察し、とっさに桜に電話をかけた。


桜「はい、桜です」


藤壺「先生…何の用ですか?」

「ひどいよ葵くん。 僕というものがありながら、倉持君と交際をするなんて…」

藤壺「何を言ってるんですか先生。 そんなことないですよ」

「きっとあの男にたぶらかされてるんだ… 僕が助けてあげよう」

藤壺「そ、倉庫に閉じ込めて…何を…」


助教授はネクタイを緩めながら、藤壺に近づく。

助教授は藤壺に歩み寄る。

藤壺は壁に背中を合わせる。

助教授は藤壺の目の前に立つと、左手で藤壺の口を押え、右手で腹部を殴打する。


藤壺は痛みで目がくらみ、吐き気を催す。

助教授はなにやら叫びながら、藤壺を平手で何度も打つ。

藤壺は声を出そうにも出せない。

助教授は涙を浮かべる藤壺を見ながら、愉悦にひたる。



一方桜と行動を共にしていた倉持は、電話の一声を聞き、即座に動いた。

倉持「大変だ。 場所は」

桜「…そ、倉庫よ」

倉持「…桜さん。 パンツをください」


曇りなき眼。 桜はスカートの下から手を入れて、パンツを下ろし、倉持に手渡した。

倉持はパンツを窓から投げ捨てると、すぐにそれを追うように飛び降りた。


桜「倉持さんっっ。 ここ5階」

倉持「大丈夫です」


倉持はパンツに追いつき、それを握りしめながら落下する。

木によって衝撃をやわらげ、無傷で着地すると、倉庫に向かって走り出した。


桜「お願い… 倉持さん」



倉庫内では、助教授が藤壺の上着に手をかけていた。

助教授の吐息が藤壺の顔にかかる。

オスの匂いが、藤壺の鼻腔を刺激する。


-その時

倉庫のドアが飛ぶ。

ドアは倉庫の壁にぶつかる。

入り口から倉持が入る。


倉持「合意の上ですか?」


藤壺は… 口を震わせながら、辛うじて首を横に振る。


倉持は、体重を前にかけ、右足を前に出す。

また体重を前にかけ、左足を前に出す。


右左右左右左右左右左右。


右ひじを後ろに引き、それを前に突き出す。

その先には助教授の顔があった。

助教授は壁に頭を打ち付ける。

助教授はナイフを取り出して抵抗を試みる。

倉持は構うことなく助教授に腕を振り下ろす。

何度も繰り返す。


藤壺が止めに入る。

すでに助教授の意識はなかった。


その後、警察と救急が到着した。

助教授は鎖骨や腕などを骨折していた。

倉持は藤壺の証言とナイフなどの証拠から、正当防衛と見なされ罪には問われなかったが、学園内の暴力ということで、停学処分になった。


倉持は退学も覚悟していた。

また、停学があけてもこれまでのような生活は戻らないと思っていた。

しかし、倉持の思惑と外れ、周囲は温かく倉持を迎えた。

学校が助教授の全面的な非を公表し、全生徒へ説明責任を果たしたことで、倉持の行為が認められたのだ。

また、桜も藤壺も倉持が戻ってこれる場所を確保しようと必死に周囲に呼びかけた。

それらが功を奏した。



騒動が落ち着いたころ、藤壺は倉持を食事に誘った。


藤壺「…ちょっと、時間がかかったけど… ありがとう… 本当に助かったよ」

倉持「いや…結局暴力を振るっただけだ… あんなのは本当に解決したとは言えないよ」

藤壺「…ああでもしなきゃ… 止まらなかったと思う… でも、アイツが出てきたら…怖いな」

倉持「…」

藤壺「正直ね… 実はあの時の事、今でも夢に見るんだ… あの顔が… あの息が…」

倉持「…」

藤壺「こわい…」

倉持「…」

藤壺「私… そもそも男が苦手って話はしたことあるっけ?」

倉持「あるよ」

藤壺「っていうか、女性が好きってことも言ったっけ?」

倉持「ああ、酔った時に聞いた」

藤壺「だよねー。 言った覚えあるもん」

倉持「気持ちは男性? というのも聞いた」

藤壺「そうそう。 そうなんだよね。 だからさ… 男に迫られるのって、本当に無理なんだよね」

倉持「うん」

藤壺「だから…本当に助かったよ… ありがとう」

倉持「うん」

藤壺「でさ… エッチしてくれない?」

倉持「うん?」

藤壺「怖くてさ… けど、アナタなら多分大丈夫だと思う。 だから塗り替えてほしいんだ…」

倉持「…」

藤壺「いやーーー。 難しいのは分かるよ。 変な事言ってるのも分かる… けど…どうにかなりそうなんだよ… 迫られたのも怖いけど… ほら、私も半分はあれと同じだと思うとさ… 私も、いつかあんなことしてしまいそうで… おかしくなりそうなの… だから、ね。 お願い。 私を普通にしてほしい…」

倉持「…」


倉持は目の前のパスタをくるりと巻いて、口に運ぶ。


倉持「君は…普通だよ。怖いと思うのも、人を好きになるのも…普通のことです。  手を貸して」


藤壺は手を前に出す。

倉持はその手をぎゅっと握りしめる。


倉持「怖い?」

藤壺「…ううん」

倉持「私は童貞です」

藤壺「う…ん?」

倉持「信じられないかもしれないけど、私の先祖は皆呪われているんです」

藤壺「うん」

倉持「私が最初に愛した女性は、必ず不幸になるんです。 最悪死にます」

藤壺「…」

倉持「あ、あの荒唐無稽な話で君のことを茶化しているわけでも、はぐらかしているわけでもないですよ… いたって、真剣です」


曇りなき眼。

藤壺は笑いをこらえる。


倉持「だから君とはできません。 魅力的だと思うけど、できません。 けど、君の夢に何度もあいつが出てくるなら、私が何度でもかけつけます。 だからいつでも呼んでください」

藤壺「…ズルっ… そんな…ふふ… 分かった… なんか、もう…大丈夫だと思う ありがと」

倉持「遠慮はしなくていいから」


藤壺(あーあ… こんな人だから…いいんだよな…桜も好きになるわけだ…)


藤壺は女性的特徴の身体を有しながら、精神は男性的特徴を有していた。

それ故ずっと悩んでいた。

桜への恋心を有しながらも、それを言えないでいた。


だが、倉持の人間性を目の当たりにし、この人にならば桜を任せてもよいと思うまでになっていた。

同時に、普通でない自分に憤りを感じながらも、それでもやはり普通でなくて良かったと思うのであった。




挿絵(By みてみん)

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