倉持と三奈
いつもより早く駅を降りた倉持
三奈に誘われ向かう先は…
挿絵は本編と全く関係ない 部長の金剛
突き放しながらも、心にしこりがあったのは事実。
もう一度しっかり話し合わなければいけないと、倉持も思っていた。
だが、自分から突き放すような言葉を言った手前、話を持ち掛けられない倉持であった。
それゆえ、三奈の行動に確かに驚いたが、この機は大事にしなければいけないと倉持は考えた。
そこで、一日彼女と過ごそうと思った。
そのうえで今一度彼女に納得してもらえるように説得をしようと心に決めた。
駅のホームで三奈が立ち止まる。
三奈「まずは、着替えよっか? このままじゃあ、補導されそうだからね」
倉持「…確かに」
三奈はちゃっかり着替えを持参していた。
倉持は近くのお店で、調達した。
シャツやパンツは鞄につめこんだ。
倉持「さて… すまないが急なこと過ぎて、私は全くのノープランだ」
三奈「うん。 私についてきて」
倉持は三奈に案内されるまま歩く。
倉持(この辺り…懐かしいな… よくここ通って大学に行ったな… ん、これ喫茶店の近くに行くんじゃないか… 桜さんに見られたら… いや、大丈夫だろう… そんな偶然おこるわけがない)
三奈は倉持の母校に向かって進んでいく。
倉持の予想通り、三奈の目的地は倉持が通っていた大学であった。
三奈「とうちゃーく。 と、いうことで、今日はオープンキャンパスに付き合ってね」
倉持「え…」
三奈「と、いうかね… 学生は夏休みだから…」
倉持「あ…」
三奈「私はさぼりじゃないよ?」
倉持「そうか… 失念していた」
三奈「卒業生の方が良く知ってるでしょ? 案内してよ」
倉持「なるほどね… そういうことか… 分かった、しっかり案内するよ」
倉持は三奈を連れてキャンパスを回る。
一般教養練、食堂、図書館、様々な建築物。
さらにつてを使い三奈が志望する学部の准教授と話す機会も設けた。
三奈は真剣に話を聞く、メモをしきりに取り、分からないところはきちんと質問もできる。
帰り際、准教授がこっそり倉持だけに「是非来てほしい。 ああいうしっかりした子はさらに伸びる」と耳打ちした。
倉持は嬉しく思った。
三奈「さすがOB。 ありがと。 しっかり話もできて、めっちゃ良かった。 ほんとにありがと」
倉持「いやいや、これぐらい」
三奈「あ…あの奥の建物は何?」
三奈は建物の奥にひっそりとあるプレハブを指さす。
倉持の胸がざわつく。
倉持「ああ、あそこは…なんてことはないただの倉庫だよ」
ただの倉庫である。
しかし、倉持にとっては、それだけでは済まない場所である。
倉持は口の端をグッと噛む。
三奈「クラさん? …なんかお腹すいてきたね? どこで食べる? 外の喫茶店とか?」
倉持「…分かってて言ってるだろ?」
三奈「そりゃあね」
倉持「学食…行こうか?」
三奈「オススメ教えてください」
倉持「…すまん。 あまり利用してこなかったから… そこまで分からない」
三奈「なんじゃ、それ」
学食で軽く食事を済ませる。
その後、キャンパス内をゆっくり歩いて回る。
広大な敷地である。
それだけで、数時間かかる。
たわいのない話を交わす。
二人ともあえて、根幹にかかわるような話題は避けてきた。
先に切り込んだのは倉持であった。
倉持「先日は… すまなかった… ただ、決して三奈さんの気持ちを軽んじている気持ちはない…私は…私なりに真剣に回答したつもりです」
三奈「…座る?」
三奈はベンチを指さす。
並んで腰をかける。
三奈「…こっちこそ、ゴメン。 ホントはあんなこと言う気はなかったんだ… ゴメンね」
倉持「…」
三奈「でも…私は倉持さんの意見や考えじゃなくて…気持ちが聞きたかった」
倉持「…」
三奈「どんな気持ちなの? かな… 困った… 嫌だった… 迷惑だった…」
倉持「そんなことはない… あの… なんだ… 年甲斐もなくこんなこと言うのは…あれだけど…正直ドキドキしたよ… あまり気持ちを言葉にするのは好きじゃないけど… 嬉しかった」
三奈「そう…」
倉持「けど、それでも… 付き合うとかどうとか… すまないけど、そういうことは考えられない」
三奈「ん…」
三奈は真上を見る。
枝葉の隙間から空を仰ぐ。
三奈「ありがと… じゃあ、私は…意見を言うね。 私はやっぱ自分はまだ子どもだと思うし、子ども扱いされても仕方ないと思ってる。 けど、それでもやっぱり今まで出会った人の中でもクラさんは特別なの… この気持ちは多分変わらないし、薄れない」
三奈は顔を下ろし指先を合わせていじり始める。
三奈「だから… 私が自立した時にね。 それでもまだ私がクラさんのこと好きだったら… その時もう一度、気持ちを聞かせてほしいの」
倉持「…ああ、分かった。 その時が来たら… しっかり受け止めるよ」
倉持は精一杯の微笑を作り出して、三奈に応えた。
それは倉持自身の希望であり、願望でもあった。
三奈はふわりとベンチから飛ぶように立ち上がる。
舞い上がるスカートの隙間から、青のストライプが覗く。
三奈は倉持を振り返る。
三奈「言ったね? 約束だよ」
倉持「…ああ」
三奈は倉持に手を差し出す。
そのまま手を握り、大学を後にした。
門を出た瞬間。
桜と鉢合わせ、そのまま喫茶店で小一時間ほど尋問を受けることになった。
桜と店長から、交互に責め立てられる。
三奈はバイトに入っていた宇美からちゃっかり勉強を教わっていた。




