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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
日常編②
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倉持は即売会に参加する(後編)

「えっと、18才以上対象ですけど… 大丈夫ですか?」

倉持「私は大丈夫です… 呼んでもかまいませんか?」

「はい、それは大丈夫です」

倉持「それでは、失礼します」


倉持は女性向けコーナーにいた。

手に取ったのは、昔視聴していた有名な作品のBLものであった。


倉持(すごい画力だなぁ… 雰囲気が良く出ている… しかし、惜しむらくは展開… こういう展開もアリだとは思いますが…どうにも話しすぎな感が否めない… この二人はそこまで語らずとも通じ合う仲だからなぁ… うーーーん)


倉持「ありがとうございました。 すみません。 失礼します」


倉持は頭を下げて、そのブースを後にした。

倉持は原作を大事にする。

倉持は二次創作は作品の『行間』であるべきという考えがある。

作品には見せたいものがあり、その見せたいものを強調するために切り捨てている部分がある。

例えばスポーツ漫画やバトル漫画の日常である。

休日にそのキャラは何をしているだろうか… 裏側で何をしているのか… 積極的に表面に出ない部分でどのような感情を抱いているのだろうか…

そういった想像によってつくられるのが二次創作である、と倉持は考えている。

つまり、二次創作上で行われている行為は、あくまで作品そのものの延長や裏であるべき、と倉持は考える。


故に、あまりに作品とかけ離れた人物描写は倉持にとっては受け入れられないものである。

もちろん倉持はこの考えや趣向が一般的であるとは思っていない。

こういった考え方も人それぞれだと理解しているので、こういった考えを強要することも公表することもない。

ただ、自分が購入する際の判断材料に用いるのみである。



ふと、倉持があるブースの前で足を止める。

画力は先ほどのものと比べるとそこまで高くない。

倉持は挨拶をし、断りを入れたうえで、見本誌をパラパラとめくる。

一つ一つの言動が、まさにそのキャラクターのものであった。

ベッドインの流れも、自然であり、作者の原作理解の高さに感銘を受けた。


倉持「1部ください」

「ありがとうございます」


倉持はその本を大事そうに鞄に入れた。

続いて男性向けコーナーへと足を運ぶ。

倉持は主にイラスト系を中心に購入する。

なぜならば以前にもあったように、男女のからみは極力見たくないからだ。

特に原作に登場しない役を登場させるパターンは苦手であった。


今回のイベントではイラスト中心のものが多数存在した。

倉持は内心喜びながら、それらを手に取った。

しかし、最近ラッキースケベが起きていないとはいえ、金欠気味であることに変わりはない。

加えてシェアハウスということで収納スペースにも限りがある。

それ故、即購入とはなかなかいかないのである。

吟味に吟味を重ねて、琴線に触れたものを購入していく。

選択が迫られる。

その本を購入するかしないか?

この出会いをものにするかどうか?

人生は選択の連続である。

その積み重ねが人生を作っていくのである。

だが、経験したことがある人なら分かるだろう…どんなに吟味をしているつもりでも、想定以上に購入してしまうものだ。


倉持(恋心の表現に、アイテムを使うのはよくある手法だけど、この本は非常にうまいなぁ… そういう解釈もあるんだな…  このキャラは原作ではあまり絡みはないけど… 確かに要所要所ですごく理解し合っている描写があったな… それをこういう形で表現するなんて…  このイラスト… 肌の質感が繊細だな… サイン貰えないかなぁ…)


倉持は結局鞄がパンパンになるぐらい購入し、ブースに戻った。

倉持の表情は明るくなっていた。


倉持「いや、いい買い物ができました。 ありがとうございます」


白銀(うわーい… 良い笑顔―)

緑谷(なんか… 白銀さん達が少不憫…)

筑紫(頑張って… 白銀さん)


倉持「えーと、そういえば白銀さんは? 回りましたか?」

白銀「私はいい…」

倉持「そうですか。 楽しいですよ」

白銀「じゃあ、案内してくれるか?」

倉持「…いいですよ。 えーと、緑谷さん、筑紫さん… 大丈夫ですか?」

緑谷「ええ、私たちはOKです」

筑紫「行ってらっしゃい」



倉持は先ほどの記憶を頼りに白銀を案内する。

一通り回る。

白銀は興味は示すものの、これはという作品は見つからない。

ふと、男性向けコーナーで白銀が足を止める。


倉持「どうしました? 気になりますか」

白銀「ちょっと、待っててくれ」


白銀はそのブースの前に行き、挨拶を交わし、見本誌を見せてもらう。

そのブースにはただ一種類の本だけが置かれていた。

厚手の本である。

その本は、ある少女の悲恋が書かれていた。

元はハーレムもの作品の二次創作である。

原作において、早々に身を引いた少女に焦点が当てられていた。

その本では原作で詳しく触れられなかった身を引いた理由が考察されていた。


白銀は10分ほど、その場に立ち尽くした。

目の端が潤うのを感じた。

白銀は1,000円を差し出す。

「ありがとうございます…つたない身ですが、そこまでじっくり読んでいただけて嬉しかったです」

白銀「こちらこそ、ありがとうございます。 素晴らしい作品だと思います」


倉持はそっとハンカチを差し出す。


白銀「…ありがと」


倉持もその本は購入していた。

しかし、それを言うような野暮なことはしない。

損や徳ではなく… 大事なのは出会うことだと、倉持は重々承知していたからだ。


即売会の片づけを終え、軽く打ち上げをしてから、その日は解散した。

昼の祭りの醍醐味は、夕日を見ながら感慨にふけることができること、そしてまだまだ夜が長い事、である。


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