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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
日常編②
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倉持は身を引く

-金曜日

早朝、倉持はいつものように電車に乗り込む。

三奈と挨拶を交わす。


倉持「おはよう」

三奈「おはよ。 今日だね」

倉持「ああ、ちょうど今夕方からイベントもしているから、楽しいと思うよ」

三奈「水族館とか楽しみー」

倉持「それは良かった。 魚好きなんだね」


三奈(うん…その言葉想定内)


三奈「ところで… 今日は、他に人来るの?」

倉持「いや、特に声かけてはいないけど? 呼びましょうか?」

三奈「いや、いい。 むしろ止めて」

倉持「分かった」


電車を降りる。

ふと倉持は乗客を見回す。


倉持(…気のせいか?)


倉持はオフィスへ向かう。

デスクにつき、仕事に取り掛かる。


藤壺「あら? 嬉しそうな表情?」

倉持「あ、藤壺さん。 おはようございます」


PC立ち上げ中に総務課の藤壺が話しかけてきた。


藤壺「何かいいことでもあったんですか?」

倉持「今日水族館へ行くんですよ」

藤壺「水族館? まさか一人でじゃないでしょ」

倉持「ええ、三奈さんと」

藤壺「三奈さん? 勉強教えてた娘ね。 まだつながってたの?」

倉持「まあ、毎日同じ電車だし」

藤壺「へぇええぇぇえ。 倉持先輩… ロリコンだったんすね」

倉持「ロリ… いやそんなことは断じてない。 …そもそも仕事中に何の用だ」

藤壺「ああ、こないだの出張のね。 経理に出す資料を作ってるんですけど、一応これで良いか確認しといてくださいね」

倉持「ああ、分かった」


藤壺は資料を倉持のデスクに置いて立ち去る。

すぐにスマホで水族館を調べる。


藤壺(倉持先輩のこと…多分、ここの水族館の年間パスを使う気ね…)


一方そのころ

シェアハウスの同居人である桜は喫茶店での仕事の合間に、霞に電話をしていた。


桜「どうも、先日はお世話になりました」

霞「早速連絡ありがとうね… 何か、あったのかしら?」

桜「ええ…ここ数日… ないんですよ」

霞「生理?」

桜「ラッキースケベです」

霞「…へぇ」

桜「以前にもこのようなことはありませんでしたか?」

霞「…桜さんは徹のラッキースケベ発動条件はご存じ?」

桜「…よくは分かりませんが、男性がいるところでは起きないですよね」

霞「そうね。 その心当たりはあるかしら?」

桜「…なくはないです」

霞「なら、それが原因だと思うわ… あ」

桜「どうしました?」

霞「いえ、何でもないわ。 まあ、心当たりがあるなら、それを取り除けばラッキースケベは復活すると思うわ… まあ、それを望むかどうかは別として」


霞(…もう一つ可能性はあるけど… それは、まだ早いはず)


桜「分かった。ありがとう」

霞「ええ、どういたしまして」


バックヤードで電話を終えた桜に店長が声をかける。


店長「桜―。 スマン応援頼む」

桜「あ、はーい」




-昼過ぎ

休憩を終えた倉持のところに、赤井が顔を出す。


赤井「ちょっと、倉持さん… 話があるんだけど、今日ヒマ?」

倉持「すまない。 今日は水族館に行くんだ」


赤井(うわー。 デジャブ―)


赤井「もう、誰と? なんて野暮なことは聞かないわ」

倉持「三奈さんと行く予定だけど、来ますか? あと2名までは割引で行けますよ?」


赤井(なーんか、あの子が不憫になってきたなぁ… うーーん。まあ、報われない恋を追い続けられるのも、若いうちよね… うらやましい…)


赤井「んー、やめとくよ。 また来週にでも飲みに行こ」

倉持「ああ、分かった。 すまない」



-夕刻 

倉持は三奈を家まで迎えに行き、水族館へ向かう。


三奈「楽しみです」

倉持「ですね。 私も水族館は結構久しぶりですので、楽しみです。 今夜水族館イベントもしているみたいですので、それも楽しみですね」


水族館では、様々な光で彩られた魚たちが悠々と泳いでいる。

日中みせない活発な泳ぎや捕食活動を見ることができる。

BGMが非日常的な雰囲気を醸し出す。

水中を飛ぶペンギン。

巨大な魚をかたどるように群れ成す小魚。

ゆったりと、移動する巨大なサメ。


倉持と三奈は目を輝かせながら、ゆっくりと水族館を回る。

倉持は説明文を隅から隅まで読むので、三奈もつられて黙読した。


巨大なメイン水槽の前で、三奈は倉持に呼びかけた。


三奈「クラさん… 写真撮らない?」

倉持「うーん。 スマホだとぼやけて…うまく撮れるかな?」

三奈「うまいへたはいいって、撮ろ? 一緒に」

倉持「分かった」


倉持は近くのスタッフに撮影を頼んだ。

倉持はぎこちな笑みを浮かべながら、三奈の隣に立った。


三奈「ありがと、クラさん」

倉持「いやー、ごめん。 写真は苦手で」

三奈「別にいいよ。 気にしない」

倉持「…あとは、あっちと…お土産コーナーかな?」

三奈「うん…そうだね」

倉持「ぬいぐるみとかいる?」

三奈「いらない。 子ども扱いしないでよ」

倉持「はは、ゴメンゴメン」


水族館を出てから、同じ施設内の飲食店に向かう。

倉持は洋風のレストランに三奈を連れていき、パスタのセットを注文する。


倉持「いやー、水族館良かったですね」

三奈「だね。 久しぶりに来たけど、やっぱきれーだね」

倉持「そういえば、テストはどう?」

三奈「ん? もちろんバッチリだよ。 学校のテスト何て簡単なものよ…」

倉持「そうなんだ。 それはよかった。 これから夏期講習とかで忙しくなるけど、無理はしないようにね」

三奈「う、うん…あ、あのね… 食べてから…ちょっと、相談してもいいかな?」

倉持「別にいいですよ? 私で良ければ」


食事を済ませてから、三奈は倉持を近くの人気のない公園に誘う。

ベンチに腰掛ける。

まだ、辛うじて日は落ちていない。


倉持「相談って何かな? 進路? 友人関係? 恋愛がらみ以外なら大丈夫だと思うよ」

三奈「…れ、恋愛なんだけど…」

倉持「え…ゴメン。 無理かも」

三奈「…私…好きな人がいるんだ…」

倉持「は、はい…」

三奈「6年間…」

倉持「6年? 随分と…長いね」

三奈「その好きな人はね… とても優しくて、いい人で、頭が良くて、見た目も結構かっこよくて…でもちょっとエッチで、自分よりも人を大事にして、私の事を子ども扱いして… 無茶で…それで、いつか消えてしまいそうな人…」

倉持「…」

三奈「…あなた…なの。 倉持さん…」

倉持「…」

三奈「言わないようにって思ってた… けど、忘れられないの… あの時のクラさんの… 

体の…冷たさが… 消えてしまいそうで… だから… 気持ちは伝えたくて… ゴメン…」

倉持「…三奈さん… 私は君が思うような人間じゃないですよ。 普通の弱い人間です。 三奈さんには三奈さんにふさわしい人がきっと見つかります。 大人は長く生きているぶん経験を積んでるんです。 だから、ちょっとだけ、良く見えるかもしれませんが… 本質的にすごい人というのはごくわずかです。 ゲームで言うなら、レベル99の遊び人が、レベル10の勇者よりも強く見えるだけの事です。 勇者がレベル99になれば、遊び人は手も足も出ません… ですから、三奈さんも私ではなく。 ずっと、長く一緒にいられる人を選んでください。 憧れと恋愛的な好意は分けた方がよいですよ」

三奈「…」


三奈は倉持の頬を思い切りはたいた。

音が公園中に響き渡る。


三奈「…バカにしないで… 私は… 私は… まだ18才だけど… それなりに人とも会ってる…そのだれよりもクラさんが良いって思うから、好きになったんだ… 断られるだけならまだしも… 好きになった気持ちを否定するな… いくらクラさんでも私の気持ちは否定させない。 私は私の意志でちゃんとクラさんのことを好きになったんだ」

倉持「…」

三奈「なんで、頭いいのに… そんなバカなの…」


三奈はそのまま振り向くことなく、帰っていった。


倉持は頬をさすると、そっと胸をなでおろした。

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