倉持とグランピング
青野「グランピング行きましょー」
お昼休み、青野は倉持のデスクに来てこう言った。
倉持「グランピング…」
青野「それと、出張お疲れ様でした」
倉持「あ、ああどうも」
倉持(グランピング、手軽なキャンプ… 確かにそれも楽しいが、私的には不便さや制限の中で最大限楽しむということもキャンプの醍醐味… それがほぼないのはどうなのか…しかし、後輩からの誘いを無下にするわけにも…)
青野「なんか、めんどくさそーなことで悩んでます?」
倉持「いや、何でもない。 行こう。 いいじゃないかグランピング」
青野「じゃあ、今日」
倉持「今日!?」
青野「はい、今日です」
倉持「人は集まるのか?」
青野「実は先週末、倉持先輩がいないときに、話が出まして… で、今日」
倉持「私の都合は?」
青野「あるんですか?」
倉持「ない」
青野「じゃあ、行きましょう。 今回は男の人もたくさん来るので、是非交流してください」
倉持「分かった。 準備するものは?」
青野「何もありません」
倉持「そうか…気軽だな…」
青野「ええ、詳細はメール送っときますので、見といてください」
倉持(まったく、急な話だな… まあ、後輩たちと親睦を深めるのも大事なことだ)
-夕刻
倉持は青野と一足先に会場に向かった。
青野「皆遅いですねー」
倉持「あと、4人ぐらい来るんだろ?」
青野「そうなんですよねー」
送れて緑谷がやってくる。
緑谷「ごめんなさい。 遅くなりましたぁ」
青野「もー、遅いですよー」
緑谷「あれ? 他の人は?」
青野「まだなんですよー」
青野と緑谷に立て続けに着信が入る。
青野(電話)「はい…え…はい? ええ! 大丈夫ですか? はい… はい… 分かりました… ええ」
倉持「どうした?」
青野「えーと、2人来れなくなりました… 腹痛だそうです」
緑谷「こっちにも、彼女と修羅場っててこれないという連絡が入りました。 もう一人は風邪気味だそうです」
青野「4人分… 食材が… あまります…」
緑谷「黒田さん! 黒田さんを呼びますか?」
青野「私はぁ…」
青野(職場であと、呼べそうな人は… 金剛部長、赤井さん、白銀さん、筑紫さん… 呼ぶ? 呼んじゃうのか? うーーーん)
倉持「えーと、キャンセルはできないんだよね?」
青野「はい… 規約的にダメでした」
倉持「じゃあ、4人呼ぼうか? 赤井さんと白銀さんは行けそうかな? 後は筑紫さんとか?」
青野「え、ええ。 そうですね」
赤井と筑紫は予定が合い参加が決定した。
白銀へは倉持が連絡することになった。
倉持「白銀さんは仕事かぁ… じゃあ、あとみんなが知っている人と言えば… 青野さんは藤壺さんとは?」
青野「あ、面識ありますよ。 面白い人ですよね」
倉持「ん…ま、まあ、面白いと言えば面白いかな?」
青野「まあ、いいんじゃないですか? いまさら」
倉持が藤壺に連絡すると藤壺は即参加に応じた。
30分ほどで、グランピングの会場には
倉持、青野、緑谷、赤井、筑紫、黒田、藤壺が揃った。
青野(結局ぅ… こうなるのね)
倉持はてきぱきと、準備を進める。
あまりの手際の良さに、他のメンバーは手が出せない。
藤壺「どもっす。 串挿していきますねー」
倉持「ああ、頼む」
藤壺「この間はどうでしたー? どこまでいきました?」
倉持「ん? ああ、そういえば部屋の取り方。 私と白銀さんだから良かったものの、気を付けてくれよ」
藤壺(はぁ… この調子だと、まだ童貞かぁ… このヘタレは…)
赤井「お皿並べとくよー」
青野「飲み物注ぎ始めますねー」
倉持「ああ」
倉持は火の調整をすると、串を並べていく。
ビルの上から夕陽を眺めながらバーベキューを行う。
倉持(これはこれで、中々いいかもな。 特に女性が参加しやすいのはメリットだよなぁ)
夕飯を食べ終わると、テントに入って夜景を眺め、明日に備えて解散した。
などと、穏便にすむワケがなかった。
BBQをしながら、ワイワイとおしゃべりが進む。
そんな中、藤壺が口を開いた。
藤壺「そういえば、倉持先輩。 先日はすみませんでした… まさか、白銀さんと同じ部屋を予約してしまうなんて」
一瞬場が凍り付く。
赤井と黒田、緑谷はじとりと倉持をにらむ。
青野は少し遅れて、倉持を見る。
倉持「…まったくだ。 しかも、あの部屋お札がびっしり貼ってあったぞ」
藤壺(それは知らなんだ)
倉持「まあ、私と白銀さんだから間違いがなくて済んだけど、気を付けてくれよ」
倉持はお札という言葉により、強引に皆の意識をそらした。
藤壺「そうなんですか… 私が男なら、白銀さんと同室で何もないなんて考えられないなぁ」
倉持「確かに、魅力的ですが、交際もしていないのに、結婚前の女性を傷物にすることはできませんよ」
黒田(いつの時代の貞操観念だよ)
青野「倉持先輩、大正の人みたいですね」
倉持「そうかな? 普通じゃないか?」
全員ツッコミは我慢した。
藤壺「ふーん… まあ先輩は昔から堅物ですからねー あ、じゃあ、ちょっと話は変わるんですがぁ 交際するなら、この中で誰が良いですか?」
倉持「む?」
赤井(何聞いてんの藤壺さん… けど、気にはなる」
緑谷(…私になるわけはないけど… こわいけど、知りたいかも…)
筑紫(私が男なら、白銀さんも倉持さんもほっとかないのになぁ)
黒田(この娘、ぶっこむねぇ)
青野「…」
倉持「そうだなぁ… 藤壺さんかな」
何のことはない、倉持は何度もこのような質問をされてきている。
ただ、シンプルに話を持ち掛けてきた人の名前を言う。
それだけのことである。
当然、藤壺にもそのことは分かっている。
藤壺「ふーん。 そうなんですねぇ。 じゃあ、付き合いますぅ?」
倉持「冗談はよせ。 お前何度もこの質問してきているだろ」
藤壺の目的は倉持ではなく、女性陣の反応を見るためであった。
藤壺(2,3人ガチっぽいわね… まだ手はありそうね)
藤壺「先輩。 玉ねぎあげます」
倉持「ああ、そういえば苦手だったな」
藤壺は串についたまま玉ねぎを差し出す。
倉持は特に意識せずに、そのまま口に押し込む。
倉持「もしも… みなさん予定が合えば、山へキャンプにでも行きたいですね」
青野「ですね。 今度行きましょーよ」
赤井「だね。 楽しそう」
緑谷「花火とかもいいですね」
日が沈んでいく。
見渡せば、たくさんの光。
倉持はこれはこれで良いと思いながら、焦げ焦げのシイタケを頬張った。




