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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
日常編②
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倉持は義理堅い

『義』…正しい道、人道に従うこと、公共のために尽くす気持ち、かり、意味、すじみち

『律義』…きわめて義理堅い事、



倉持の義理堅さは、筋金入りである。

人として正しくあり続けることが倉持にとって大事な根幹である。

義を律することは倉持の生きざまそのものと言っても良い。


故に、例えばお酒の席においても自分を崩すことはしない。

適量を把握し、場の雰囲気を壊さないように飲む。

だから、ここまで酔ったのは初めての事である。


草木も眠る丑三つ時

倉持と白銀はベッドにつまみを広げ、近くのテーブルにお酒を置いていた。

缶はすでに何本も空いている。


白銀「クラさんさぁ… やっぱ飲めるねぇ」

倉持「まあ… 多少は」

白銀「顔赤―いねー」

倉持「白銀さんこそ、真っ赤だよ」

白銀「これはねぇ… 酔いもあるけど、クラさんと一緒だからだよー」

倉持「それは光栄だね」

白銀「そういえばさぁ。 私たちって実は遠縁の親戚なんだってね」

倉持「そうそう、ちょっと聞いたことがあるけど… だいぶ離れてなかったっけ?」

白銀「…我は生まれは違えども―」


白銀は倉持の空になったワンカップに缶からお酒を注ぐ。


倉持「?」

白銀「死する時は一緒なりー」

倉持「…遠縁とうえんの誓い?」

白銀「そう!」

倉持「それは…悪いよ」

白銀「…はぁーーー。 分かってないわねぇ… 分かっちゃいないよぉ… いいかね? 

童貞の倉持君。 君は人の気持ちは分かっても、乙女心を理解出来ちゃいない」

倉持「はぁ」

白銀「残されるんはつらいんよ? そりゃあ、残す方もつらいかもだけど… ホントにね… あの…いっそ一緒に行きたいって思うよ。 というか… そう思ってた」

倉持「…」

白銀「あの時ね… クラさんとたまたま…偶然出会わなかったら… 多分私はここにいなかった」

倉持「…」

白銀「…だから…って言ってもクラさんは首を縦に振らないと思うけど… だからね… 結ばれて、その結果不幸になったとしても、それはちょっとだけ幸せな不幸だと思う… 私にとってはね… あ、でも、もちろんあれだよ… その、クラさんが私の事…イイなと思ってくれているとしたらの話だよ。 クラさんは選べるだろうし」

倉持「…そんなことないよ… もちろん…私は白銀さんの事…正直いいなって思ってる。 魅力的だと思ってる。 けど…私の問題なんだ…それでも、やっぱりできない」

白銀「…クラさんって大抵のことは器用にできるのにさぁ…何で棒を穴に突っ込むだけのことができないんだろうね? チ○コにも脳があるの?」

倉持「はは…かもね」

白銀「…はぁ」

倉持「…」

白銀「…」

倉持「白銀さんは…酔って記憶をなくす人?」

白銀「うーん。 覚えてない」

倉持「…」

白銀「…聞くよ? ううん。 聞かせて… お酒のせいにしちゃえばいいよ」


倉持は目の前にあるお酒をグイっと一気に飲み干す。


倉持「…実は…私は…むっつりすけべなんだ」

白銀「察してる」

倉持「まあ、結構ギリギリで闘ってるんだよ… いつも… 白銀さんの綺麗な身体にも耐えてる。青野のたわわな胸にも耐えてる。赤井さんの煽情的な下着にも耐えてる。あのー…喫茶店にいた桜さんとは大学時代からの付き合いで…もう、かなり耐えてる。 あと、面識あるかな…ジョディさんのムチムチにも耐えてる。他にも義姉や義妹、高校時代の知り合いにも耐えてる。 いや…ホント、結構耐えてるんだよ… 正直ね… 結構… 限界でさ… もう…理性無くして…全員と出来たらよいのになぁ…って考えることあるんですよ… けど…理性が邪魔する… 呪いの事もあるし、倫理的なこともあるし、社会のルール的なものもあるし… とにかくたくさんのもの・ことが妨げになるんだ」

白銀「…」

倉持「…ああー。 私だってしたいんだよー…」

白銀「クラさん… お酒追加は?」

倉持「いる」


倉持は白銀から缶を受け取ると、グイグイと飲み干す。


倉持「けど、しない。 するわけにはいかないんだ… 私で終わらせないといけないんだ…」

白銀「…呪いってやつ?」

倉持「そう。 呪いは… 若くして亡くなる呪いと、最初にした人が不幸になる呪いがかかってる…だから、このまま誰ともせずに私が一人でいなくなれば…それで、いいんだ」

白銀「…」


白銀はどのように反応すべきか迷う。

倉持を肯定することも否定することもできない。

否定は倉持の生き様や決心を台無しにすることに他ならない。

肯定の言葉も、倉持の懊悩を考えれば、どの言葉も陳腐になる。

故に、ただ、倉持に近寄り、抱きしめることにした。

白銀は倉持の頭に手を回す。

倉持は頭をそっと、白銀の胸に乗せる。


白銀「…全部お酒のせいにしたらいいよ。 今日のことは忘れよ?」

倉持「…うん」

白銀(…義を演じるのも…大変だな… ここまで縛られるなんて… 生きて欲しいな… 何でなんだろ… なんでこんなにいい人が、普通に生きられないんだろう…)

倉持「…あ…」

白銀「ん?」

倉持「…今…結構…幸せかもしれない」


ベッドの上を軽く片付けて、そのまま二人は眠りについた。

朝起きると、二人は互いの体温を感じる。

まるで、初体験を済ませた後の初心なカップルのように、はにかみながら顔を見合わす。

身支度を整えると、街に繰り出し遅めの朝食を取る。

駅弁を購入して、帰りの新幹線で食べる。

土曜日の夕方には家に着いた。

別れ際倉持は1万円を渡す。


倉持はトランクケースを片付けてから、ばたんと布団に倒れ込んだ。


倉持「義に背き…恩を忘るれば戮すべし…」 


倉持はそうつぶやくと、ゆっくり眠りについた。

「念劉備 關羽 張飛 雖然異姓 既結為兄弟 則同心協力 救困扶危 上報國家 下安黎庶 不求同年同月同日生 只願同年同月同日死 皇天后土 實鑒此心 背義忘恩 天人共戮」 『桃園の誓い』より

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