倉持は出張する 金曜日(後編)
二人はホテルに入った。
白銀は周囲を見渡す。
絵やスロットマシンの裏、ありとあらゆる場所をサーチする。
白銀「よし…大丈夫だな… じゃあ、私はお風呂に入るから、その間に二次元美少女と戯れるがよい」
倉持「いや、しないよ」
白銀「何言ってるんだ。 千載一遇のチャンスだぞ」
倉持「…」
白銀「この機会に、機械と戯れたらいいじゃない」
倉持「…」
白銀「さ、私は精一杯気を使って、お風呂に入るから…愉しめ」
倉持(いやー… 抜けと言われても… タイミングってあるしなぁ… それに今したら、確実に白銀さんを意識してしまうし… けど… うーん… 抜いておくか…)
倉持はお風呂場がすりガラスでないことを確認した。
お風呂場から、シャワーの音が聞こえたタイミングで、ベッドに腰掛け、ズボンと下着を降ろし、イヤホンをつけて、お気に入りフォルダを開放した。
倉持「…ん…」
と、その時、倉持がふと顔を上げると、お風呂場から、白銀が横チンアナゴのように顔を覗かせていた。
倉持「あ…」
倉持はイヤホンを外す。
白銀は顔を赤くして目を背ける。
白銀「…ごめん… イヤホンつけてたのね… あの… 下着… 忘れてて、取ってほしかった…んだけど… あの… ごめん」
倉持「…いや…もう…うん… 大丈夫」
倉持は白銀に指示されるまま、下着を取り、白銀に渡す。
白銀「ありがと…えーーと… やっぱ、結構おっきいね…」
白銀はさっと引っ込んだ。
倉持はベッドに戻り、手で顔を覆う。
一方白銀は白銀で困惑していた。
倉持の裸は何度も見ている。
あそこだって、先日見たばかりである。
しかし、性的な表情の倉持を見るのは喫茶店ぶりである。
いや、それ以上に性的であった。
白銀(クラさんは… する時には、あんな表情になるんだな… ヤバい…表情が…エロすぎる)
白銀は身体を洗ってから、湯船に浸かる。
白銀「…スマホじゃなくて… 私を見てくれてたらなぁ… ちょっとは嬉しいのに…」
白銀は自分のスジをなぞる。
白銀「…うーん… でも、ここに…アレを… うーん… やっぱコワいかも…」
白銀(それに… エロいけど… ちょっと表情もコワいのよね… いや…コワいというより…なんかいつもと違い過ぎて… いやいや、そもそも別にやるわけじゃないし…)
白銀は長めに湯船に浸かり、大きな声で倉持に話しかけてから浴場を後にした。
入れ替わるように、倉持がお風呂に入る。
白銀はベッドに腰掛けてドライヤーで髪を乾かす。
白銀(えーと、コンセント、コンセント。 ん? 何このスイッチ)
白銀がスイッチを押すと、パッと、お風呂場との壁が透過され、入浴中の倉持が見えた。
白銀(なにこれぇぇぇ。 え? 丸見え… もしかして、さっきも… 私も? いや、クラさんがそんなことするわけないか…)
倉持は背を向けている。
白銀(…スゴイ傷だなぁ… 何回かチラッと見たことはあるんだけど… 正面からはっきり見ると…クラさんは…つらくないのかな… 長生きできない可能性があって… 愛することができなくって… そういえば…あの人も…そうだったな…ずっと病院で、闘って…一人で… なんで、男の人って一人で闘おうとするんだろ… どうして、頼ってくれないんだろ…)
倉持が湯船に浸かる。
顔にバシャバシャとお湯をかけている。
その形のまま、動かない。
肩が小刻みに震える。
白銀はハッとして、スイッチを切る。
白銀は衣服を今一度脱ぎ去り、浴場にダッシュする。
ガラガラと扉を開けて、湯船に飛び込む。
白銀「…あった」
倉持「え、ここも?」
白銀は幽霊を言い訳に、二日連続の添い湯を敢行した。
白銀「ごめんね」
倉持「…いや、いいよ。 仕方ないよ。 怖いものは怖いんだし」
白銀「…クラさんは…怖いものはない?」
倉持「……あるよ」
白銀「何?」
倉持「おまんじゅう… と、一杯のお茶」
白銀「おっぱいとおしっこの比喩?」
倉持「じゃあ、それでいいや」
白銀は無言で、倉持の頭を掴み、胸に押し付けた。
白銀「じゃあ、これが怖いってことね。 なら、怖がりなさいよ… 助けを求めなさいよ……」
倉持「もごもごもご」
白銀はさらに強く押し付ける。
白銀「泣きなさいよ… おっぱいは… 泣く人のためにあるんだから…」
倉持「…聞こえてた?」
白銀「漏れてたわよ…」
倉持「…スマン… 気にしないでくれ…」
白銀「ダメ… 溜まってるんでしょ? ここで出しなよ。 見えないし、聞かないから」
倉持「…ありがとう… でも、本当に大丈夫…」
白銀「…」
倉持「けど…もう少し、こうして、いてもいいかな?」
白銀「…いつまででも」
倉持(怖いもの…か… ありすぎるくらいだ)
その後、お風呂からあがってから、お酒やおつまみを開けて、他愛のないおしゃべりに興じた。




