倉持は出張する 木曜日(後編)
白銀「よし、終わった」
倉持「それは良かった」
倉持は手をほどく。
白銀「すまんが… もう少し、向こうを向いていてもらってもいいか」
倉持「もちろん」
白銀「まあ、ほぼ見せ合った仲ではあるが… 洗っているところは、少し恥ずかしいものだ」
倉持(基準は不明だけど… 羞恥心はあるんだなぁ… けど…そういうふうに言われると…かえって)
お湯のかさが僅かに上昇し、浴槽からこぼれた。
白銀は、ボディソープを手に取る。
ボディタオルがないため手で直に身体に泡を塗っていく。
首筋、肩、鎖骨に胸、手にお腹、背中の後に足、足先まで泡をまとう。
倉持に少し最中をそむけると、デリケートなところを、片手で開き、側から内へと優しくなぞる。
そのまま、臀部の方へ手を伸ばし、腰を少し前に動かし、奥のしわの周りに泡をつける。
少し泡をなじませてから、シャワーのノズルに手を伸ばす。
だが、ここで白銀は泡のあわあわしさに気が付く。
まるで羊の毛のようにふわふわとしている。
そこで、いたずら心から、大事な部分に泡を集中させてみた。
白銀「クラさん。 クラさん。 ちょいと、ちょいと」
倉持「なんですか?」
白銀「ちょっと、見て見て」
見てしまう倉持なのである。
白銀は立ち上がって、どや顔で泡ビキニ姿を披露した。
倉持「おおー、ビキニみたいですね」
白銀「でしょ。 泡がかなりすごいんだよ」
倉持「…」
白銀「…」
白銀(スベッた…)
白銀「えーーと、これで洗ってあげようか?」
白銀は両手で胸をサンドして、強調する。
倉持「…大丈夫です」
白銀「ohhh」
白銀(あれえええ… 何かおかしいぞ… なんか色々とから回ってる気がする…)
白銀「…流そ」
白銀は手で泡を洗い流していく。
髪を束ねて頭の上の方でくくる。
そして、そのまま湯船に右足から浸かる。
股を閉じ、なるべく見えないようにするりと入っていく。
お湯があふれる。
倉持「おお…」
白銀「ふううう。 いいお湯ね」
倉持と白銀は対面に座す。
倉持は顔を背けている。
白銀も最初、倉持を直視できず、お湯の表面の波を見ていた。
ふと、視線を降ろすと、何やら揺らめくものが見える。
白銀「…」
倉持「…」
白銀は足の裏で、その何かを挟む。
白銀「えいっ」
倉持「うおっっ」
白銀「わ… わ… かたい… お…おっきいね…」
倉持「そ…そういうのは…なしに…して欲しかった…」
白銀「すまん。 すごく気になって」
さしもの倉持でも足コキされることは滅多にない。
なぜなら、足コキは女性側の意志がなければ成立しないからだ。
足コキ状態になることはこれまであるにはあったが、こかれることはなかった。
ややMっ気のある倉持にとって、足コキはかなり効果抜群であった。
倉持「…白銀さん… ちょ、ちょっと…これ以上は…」
白銀「待ってくれ… これなかなか面白いぞ」
補足しておくと、白銀はこれまで経験はない。
しかし、ムッツリスケベであり、知識はある。
さらにもともと探求心が強い性格故に、この状況を純粋に楽しんでいた。
足の裏や親指を使いあの足この足で、棒をいじる。
白銀(これ…面白いな… こうすると完全にめくれるのか… このスジも面白い感触だ… 根元の方から上下させるのも、楽しいな…)
白銀「ふむ…」
倉持「ふむじゃなくて」
白銀「よし、堪能した」
倉持(ヤバい… 少し…)
白銀「…すまん…やりすぎた…」
倉持「いや…私も…まあ…うん… 別に…」
白銀「ははは…」
倉持「そ…そういえば… 何でそんなに怖いんだ? そんな印象全然なかったよ」
白銀「いやー… それがな… 恥ずかしながら、小学生の頃さ… ほら…私幼馴染がいたって話しただろ?」
倉持「…ああ」
白銀「まあ、小学生の頃もよくお見舞いに行っててさ… ある日、夜の病院に忍び込んだんだ」
倉持「なぜ」
白銀「そいつにサプライズしたくてな。 だって、ずっと病院だもん… 退屈だろうと思って」
倉持「あー」
白銀「けどさ… 夜の病院て不気味でさ… で…薄暗い雰囲気も相まって、怖くなっちゃったんだよ… でさ…その… うろうろしてたら… 緊急かな、人が運ばれたんだ…
それまで静かだった病院が一気に騒がしくなってさ… 運ばれるときに、見ちゃったんだ…
今にも死にそうな人間の顔を… それ以来、目を瞑るとその顔を思い出しちゃって…
それから、目を瞑ると怖くなっちゃって、さらに心霊系もダメになっちゃったんだ」
倉持「それは…なかなか衝撃的な」
白銀「でも…その時…一番怖かったのは…幼馴染も、いつかこうなっちゃうのかなってことだった」
倉持「…」
白銀「…ゴメンね。 湿っぽい話になっちゃって…」
倉持はお湯を手ですくい上げてバシャバシャと顔を洗う。
白銀も同じようにバシャバシャと顔を洗う。
白銀「へくちっ」
倉持「そろそろ…あがろうか? 風邪ひくよ」
白銀「そうね…」
倉持「ああ…」
白銀「…どうぞどうぞ… お先に…」
倉持「…あ…ああ… いや白銀さん…先にどうぞ。 顔は背けておくから」
白銀「先にでなよ」
倉持「いや、いいから…」
白銀「じゃあ…一緒に出よ。 引っ付けば見えないから」
倉持「なるほど… 天才か」
二人は20センチほど感覚を開けて向き合う。
そのまま、身体を拭いて、水分を取り除いてから部屋に戻り、衣服をごそごそと準備して身に着けていく。
白銀(クラさん… 背中を露骨に隠して… やっぱり見せたくないんだね… というか見せてくれないんだね)
白銀はドライヤーを部屋に持ち運び、髪を乾かす。
もちろん近くに倉持を侍らす。
髪を乾かしてから、化粧水や乳液を塗る。
倉持(というか… 女性はすっぴん見られたくないって、聞いたことがあるけど…なんか…みんな、化粧あまりしてないんだなぁ)
白銀が倉持の視線に気が付く。
白銀「何だ? そんなに見つめて… 何かおかしいか?」
倉持「いや… 綺麗だなって…」
白銀「き…綺麗…そ、そうか… ありがと…」
倉持「…あ…えーっと…そろそろ寝ましょうか… 私は地面で寝ますので、ベッド使ってください」
白銀「え!」
倉持「え?」
白銀「背中が、がら空きになるから…守ってほしいのに…」
倉持「戦なのか」
白銀「背中は預けた! というか…ホントにお願いします… 壁につけても、壁からにょきってくることもあるし…」
倉持(本気の怖がり方だ…)
白銀「お願い… 添い寝して」
倉持「分かりました… 頑張ります」
白銀「頑張る?」
倉持「いいや…こっちの話です」
倉持は白銀の最中を見つめながら一夜を過ごした。
うなじから香る石鹸の匂いは自分と同じものと思えないほど、よい香りがした。




