倉持がいない夜
春野桜 27歳 163 54
大学生からの付き合い
ロングヘア― すべてにおいて平均的
夏野宇美 20歳 155 53
しっかりものの大学生 経済学を専攻
ややショート
寝るときは下着を付けない
貧乳
秋野紅葉 34歳 162 57
シェアハウスの管理人
ロングヘアー 貧乳
冬野由紀 30歳 165 58
だらしない
髪は長くぼさぼさ 無造作に縛っている
巨乳
倉持真冬 28歳 168 56
モデル体型 次女
ややショート スレンダー
倉持が眠れぬ夜を過ごしているころシェアハウスでは女子会が繰り広げられていた。
由紀が大量のお酒を買い込んでいる。
珍しく他の住人もそれに付き合う。
紅葉と桜はせっせと卵焼き等つまみを用意する。
そこに倉持の姉である真冬が訪れる。
手にしたマイバッグにはワンカップや焼酎がパンパンに詰まっている。
真冬「よっす」
由紀「はぁい、真冬。 ようこそー」
真冬「どもども、お邪魔しますねー。 皆、ウチの愚弟がいつもご迷惑をかけてすみませんね」
桜「いえいえ、迷惑だなんて…」
真冬「あ、紅葉さん。 これどうぞ、いつもの化粧品です」
紅葉「あら、ありがとう。 これとてもいいのよねー。 若返る気分」
真冬「はは、今回は試供品も入れてるんで、良かったら感想聞かせてください。 もちろん皆さんも」
真冬「ありがと」
桜「ありがとうございます」
宇美「私もいいんですか?」
真冬「もちろん。 若い娘の意見も聞きたいわ」
紅葉「へーーー」
真冬「…」
真冬の頬を汗が伝う。
紅葉「ふーーーん」
由紀「ま…まあまあ」
紅葉「…冗談よ」
真冬(冗談と思えない)
桜「あ、お酒、用意しましょう。 ね?」
紅葉「そうねー」
テーブルには卵焼き、ウィンナー、たこわさ、からあげ等の居酒屋メニューやお菓子が並べられる。
女子会の始まりである。
ところで、『葉隠れ』という書物にはお酒との付き合い方についての記述がある。
簡単に言えば、無礼講という場では、崩しながらも最低限のマナーを守る事が大事という話である。
今風に言えば、「ハメ外しすぎんな」ということである。
女子会という場もまた戦場である。
お酒の席で、崩しながらも最低限の女子力をキープすることで、自身の本質的な女子力の高さを誇示することができるのだ。
もっとも、この戦いは意識的に行われるものばかりではない。
今回に至っては無意識のうちに行われるものであり、潜在的な女子力の発露によるものである。
(女子という言葉を多用しており、女性読者の中には気分を害する方もいるかもしれないが、何卒ご容赦いただきたい。 また、女子とはかくあるべきという時代錯誤なことを言うつもりもないことを先に宣言しておきたい)
全員がテーブルに着いたところで、桜は紅葉に飲み物を訪ねる。
桜「紅葉さん。 何から飲みますか? チューハイ?」
紅葉「そうね。 最初は軽いものから行きましょうか」
桜「じゃあ、注ぎますねー」
桜は慣れた手つきでお酒を注ぐ。
接客業のたまものである。
それを見た宇美がほぼ同時に真冬にお酒を注ぐ。
桜は紅葉の後に由紀に注ぎ、海は桜に注ぐ。
最後に桜が宇美に注ぐ。
揃ったところで、由紀が場を回す。
由紀「それじゃあ、飲み食いしましょー。 カンパーイ」
由紀と真冬はグイっとグラスを一気に傾ける。
桜は目で他の人のお酒の減りを確かめながら、くぴくぴと3口程度お酒を飲む。
紅葉は半分程度飲んでいて、宇美は1口程度すすった。
桜と宇美は、由紀と真冬に追加で注ぐ。
桜には、すでに全員分のお酒ペースがインプットされている。
飲むスピード、飲む量、限界量等のデータが桜にはある。
この能力は仕事でも生かされている。
桜は絶妙なタイミングでお冷のおかわりや追加注文のオーダー取りをしている。
状況判断、状況分析力は倉持や白銀ほどではないにせよ、十分高いものを持っている。
シチュエーションによっては、テンパりによるデバフが少ない分、桜の方が上回ることもある。
桜は他の人が飲んでいる合間を狙って、パクパクゴクゴクするのである。
そんな桜をじっと観察しているのは宇美である。
宇美はアルバイトの先輩でもある桜のことを慕っていた。
学習面では倉持を頼ることが多いが、対人スキルについては桜を、より参考にしていた。
だが、宇美は自分のことにまで気が回っていなかった。
紅葉「あら、宇美ちゃん。 たんと食べなさい。 お酒飲めない分、食べないと損よー」
紅葉が宇美のお皿に、ひょいひょいと、からあげやウィンナーを盛り付ける。
宇美のお皿にポンポンとからあげ2個とウィンナー1本が乗る。
最年長者は最年少者と絡む傾向にある。
こういったとりわけ行為は鳥の餌付けにも似ている。
そのため、一定以上の年齢の人にするのは、バカにしているみたいでかえってよろしくないのだ。
例外も多々ある。
例えばサラダが来た時の最初のとりわけである。
この時は率先して取り分けることで女子力の高さをアピールできるのである。
あるいはオードブル系の時も効果的である。
こういった時に、○○好きだよねと、それをオススメすることで女子力の高さが際立つのである。
桜「宇美ちゃん。 卵焼きもどうぞ」
宇美「ありがとうございます」
桜「これ、ネギ入りなんだよ」
宇美「いいですね。 ネギの風味が美味しいですー」
だが、みんながみんな、こうでは盛り上がらないのもお酒の席。
特にこの場では桜と宇美がお酒に弱い。
紅葉も潰れるほどは飲まない。
それではイマイチ盛り上がりにも欠ける。
それゆえ、あえて空気を読まない存在も、必要なのだ。
由紀「いやー。 たこわさいいわー。 歯ごたえがたまらんね」
真冬「だねー。 やっぱコリコリ感がサイコーだわ」
由紀と真冬はあっという間に缶を3本ほど空にして、ワンカップに手を出していた。
由紀「ポッキーゲームするぅ?」
真冬「ウィンナーでするぅ?」
2秒で唇同士が触れ合う。
由紀「ははははは」
真冬「ムリムリー」
桜「あ、焼酎どう飲みます? ロックでいきます?」
由紀「もろ」
真冬「ちん」
桜は聞き流して、台所で焼酎の準備をした。
桜「レモン添えますか?」
由紀「ちん」
真冬「ちん」
桜「あ、はーい」
桜はグラスのふちにカットしたレモンを添えた。
真冬「はあーぁ、ヤバ、桜ちゃん。 女子力高いわー。 ウチの嫁に欲しいわー」
桜「え…お嫁さんだなんて… えーと…それって……えー」
真冬「冗談よ。 冗談…半分ね」
真冬は薄目で桜を見据える。
桜はうつむいている。
由紀と宇美は視線を食べ物のほうにうつす。
紅葉は焼酎のパッケージを見ている。
真冬はゆっくりと口を開く。
真冬「…ごめんねぇ…」
桜「いえ…」
真冬「普通なら…良かったのに…」
桜「…普通だと…思います」
桜「普通に…魅力的だと思いますよ」
真冬「…ありがとうね… 桜ちゃんが良い娘で…良かった… 桜ちゃんには…悪いけど」
桜「そんなことありません。 楽しいですよ。 とても」
真冬「そう…」
由紀「…」
宇美「…」
紅葉「…」
桜「…」
真冬「…」
真冬はグラスに口をつける。
由紀はウィンナーをほおばる。
桜は席に着く。
桜「…」
宇美「…」
由紀はウィンナーを縦に口に含んだ状態で、桜を見つめる。
顎を上下左右に動かしてウインナーをフリフリする。
なおも桜をじっと見つめる。
紅葉も便乗する。
口にウィンナーを二本差しして、それを弄びながら桜を見つめる。
宇美の肩が小刻みに揺れる。
真冬「食べ物で遊ぶな」
真冬は由紀の頭をぺしっと叩く。
最初に耐えられなくなったのは宇美である。
宇美「ぷはははは、いい年して何してるんですかぁ… ハッ」
宇美は殺気を感じた。
紅葉の口からはウィンナーが牙のように突き出している。
口角は上がっているが目は笑っていない。
宇美「…言葉のあやです…」
紅葉「いいのよ… いい年して、若い娘でもないのに…恥かしいことをしていたのは私なんだから…ね?」
桜「フフフ…フフ…フフフフフ」
桜「アッハハ、ハハ… ハハ… ハァー… もう…皆笑わさないでよー」
桜「…もう」
桜はグラスを目線の高さまで持ち上げて、スナップを利かせて、くるくるお酒を回す。
桜「…楽しいですよ。 これは本当です。 だから、できるだけ長く…許される限り…こうしていたいです」
桜「私は…彼の逃げ場として必要とされれば…それで充分ですから」
桜はグラスの中のアルコールを一気に体内に押し込み、そのままテーブルに突っ伏した。
日が昇るまで悪ノリを続けた由紀と真冬に5,6回胸を揉まれたことにも気が付かないほど、深い眠りに落ちていた。