倉持と倉持
いつも通りの午前中を過ごした倉持
青野からのお弁当を食べ終えてデスクに戻った倉持に金剛からの声がかかる。
部長室に招かれた倉持は金剛から宣告された。
金剛「倉持… 大株主様からの呼び出しだ…」
倉持「…とうとうきましたか」
金剛「済まない…」
倉持「いえ… むしろ、ベストタイミングです」
金剛「…何かあればすぐに言うんだぞ」
倉持「ええ… その時は、助けてください」
金剛「変わったな…」
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午後から有給休暇を取った倉持が向かう先は因縁の大叔父の元であった。
タクシーに運ばれてついた屋敷。
出迎えに連れられて屋敷の奥へ進む倉持。
不遜にも案内された部屋の中心に、倉持は座した。
数分後、そこに老人が現れた。
この屋敷の主にして、倉持の大叔父…
翁「似ているな… あの忌々しい男に… そっくりだ」
倉持「初対面の相手にご挨拶ですね… いくら大株主様といっても… 少々横暴では?」
翁「くはははは… なかなか… 生意気な男が」
翁は倉持を見降ろしてから、腰を下ろした。
翁「ふむ… お前、子はいるか?」
倉持「…いいえ。 お見合い相手でも紹介してくださるのですか? あいにく相手なら間に合っていますよ」
翁「今いくつだ?」
倉持「最近28歳になりました」
翁「?」
倉持「どうかしましたか?」
翁「…いや。 なんでもない… そうか… まあよい… だいたい呼ばれた察しはついておるだろう? なあ、倉持」
倉持「何の事でしょうか倉持様… 何か失礼がありましたか?」
翁「強いて言えば… お前の存在そのものだ」
倉持「それはなかなかひどいお言葉で… 私がいったい何をしたと?」
翁「…正確にはお前の祖父と父だな…」
倉持「はて? 話が見えませんね… どういうことでしょうか?」
翁「しらばっくれるな… もうこちらは調べ上げているのだ… お前の素性も出自も、お前の母親の居場所も」
倉持の眼と眉が動く。
翁「…やっと反応したな。 ああ、忌々しい。 お前たちは、自分の事には無頓着でいるくせに、女が絡むと、すぐに取り乱す… そんなに女が大事か?」
倉持「ふふふふふ… ははははは」
翁「…」
倉持「倉持様… 見たところ、お年は召していらっしゃるご様子ですが…」
翁「愚弄する気か…」
倉持「先ほどの発言… 失礼ですが… あなたの小物っぷりが露呈していますよ?」
翁「小物だと…」
倉持「どうやら… おモテになったことがない? 女が大事…当然ですよ? 大事な女性がいるならば守るに決まっているじゃないですか? そのような当然のことを… ふふふ… そんな鬼の首を取ったかのように高らかと指摘する…」
翁「…」
倉持「恥ずかしいものです… で、それで… まどろっこしいのは止めにしましょう… 何を望むのですか? あなたは?」
翁「お前の力… ラッキースケベの力を倉持家に返せ」
倉持「…ほう」
翁「その力は、有効活用すれば国をもとれる力だ… 現に、ワシの祖父と父はその力を使って、若くして巨万の富を得た… 倉持家の繁栄のためには、その力が必要なのだ」
倉持「なるほど… 色々と合点がいきました… それで、アナタは… 母をあのような目に合わせたと…」
翁「さよう… 本当は花を手中に収めたかったが、あやつのバックには少々厄介な奴がいるからな… だから、光に目をつけた」
倉持「産まれるわけがないと知っていて…」
翁「半分はあてつけだ」
翁は下卑た笑みを浮かべる。
倉持は拳を握りしめる。
翁「お前の祖父にはラッキースケベ… ワシには莫大な財産が渡った… だが、この繁栄はラッキースケベの力あってのもの… お前の父親は最後の最後でワシを裏切った。 子息を残して、それを我が家に入れるという契約を… 違えたのだ… 子息は死んだ…と嘘をついてな…」
倉持「それが… 私、と?」
翁「倉持徹よ… もしもお前が余生を平穏無事に暮らしたければ… ワシの元にこい… 悪い生活はさせぬ… 女も…金も… 全て与えよう… お前はただ残りの人生で、ひたすら子を作ればそれでよい… よりどりみどりだ… 望む女をくれてやる。 条件は一つ… 子を私によこすこと… それだけでよいぞ… ああ、もちろんその条件さえ飲むのであれば… お前が欲しい女を連れてきても良いぞ? どうだ、男にとって夢のようなは…」
倉持は翁を睨み付けた。
翁はその迫力に気圧される。
倉持「…検討しましょう。 後ろ向きに…。 それよりも倉持様、締め直した方が良いのでは? 下着の紐が… ほどけていますよ?」
翁が立ち上がると、足元にぱさりとふんどしが落ちる。
倉持はゆっくりと立ち上がり、襖を開ける。
倉持「忠告です… 私の大事な人たちに触れたら… 潰します…」
翁「…」
倉持「…それでは、失礼します」
倉持は部屋を出て襖を閉めた。
翁はその場に立ち尽くす。
額から汗が噴き出る。
翁「…」
奥の襖が開く。
髪を振りながら、現れたのは、白銀であった。
白銀「なめてかかるからですよ?」
翁「…あそこまでの化け物とは… 聞いておらんぞ」
白銀「凡人が測れる人間ではありませんよ? もう少し練るべきです… 下手に動けば逆効果です… 段取りが大事。 そのために私が来たんですよ?」
翁「…任せる」
白銀「ええ… 私は… 彼をむざむざ死なせはしません。 そのために、協力しましょう…倉持様?」
白銀は笑みを浮かべる。