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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
決意編
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倉持は約束する

机(わたしは机… おそらく今、世界でもっとも幸せな机… 先ほどからわたしの両端にのしかかる心地よい重み… かたや弾力たっぷり… かたやほわほわぷよぷよ)


とある建物の上階にある喫茶店で青野とジョディはお茶を飲んでいた。

青野は反省していた。

ジョディはそれをうんうんと聞いていた。


青野「可愛いって… 罪ですね」

ジョディ「引っぱたいてもいいかしら?」

青野「ううう… ううううううー」

ジョディ「あなた… 自分で考えておいて…」

青野「気持ちと心は違うんですぅ… 私としては… ただちょっと、倉持さんの気を引いて… ご自身の力をわからせたかっただけなんですよ… そのためにちょっと、挑発的な態度をとっただけなんです… なのに… なのにぃ…」

ジョディ「どちらも本気になっちゃった…と」


青野がタオルをしいてから、机に頬をつける。 


青野「…」

ジョディ「予想できなかったの?」

青野「できるわけないですよ… だって、私は腹黒くて、あざといですし… どう考えても好かれるわけないじゃないですか… それに私自身私が好きじゃなかったんです… 好かれるなんて、思わないですよ… だからちょっと気になる人ぐらいを目指してたんですから… そうです… 私なんか… 愛されるわけない…」

ジョディ「女に好かれる人と男に好かれる人は違うからね。確かにもこもこパジャマはあざといわね」


青野「それは、普通じゃないですか?」

ジョディ(この娘の場合は天然もあるから、余計にややこしいのよね…)

ジョディ「でも、私が意外だったのは… あなたがそこまで彼を好きになったことよ? そっちの方が驚き」

青野「…私もです。 誰かが… あの人から離れることで… 刺激を与えることで… あの人により一層周りの結束を意識させる… あの人が助けを求めるようになること… それがあの人の呪いを解く鍵なんですよ… じゃあ、誰がするってなった時… 適任は私じゃないですか… 一番思い出も少ないですし… 因縁もないです… 運命がどうとかもない… ドラマもない…」

ジョディ「そうね」

青野「…かませ犬にもってこいじゃないですか…」

ジョディ「…」

青野「…」

ジョディ「じゃあ、やめておく? これ以上は? 私が変わるわよ?」

青野「それはできません。 もう引き返せません… ここまできた以上… むしろここまで来たからこそ… 私が適任なんです…」

ジョディ「…」

青野(まあ…もう一つ目的はあるんですけど…)



机(おいおい… 何の話だ? こんなお嬢さんを泣かすなんて、とんだ男がいたもんだ… わたしに手があったら殴ってやりたい。 ああ… 泣き止みなさいよお嬢さん… 可愛いお顔が台無しだ… こういう時… わたしに手があれば… あいにくわたしには脚しかない… あなたの涙を拭くことはできない…)


青野「だから、予定通り… 私はいつか消えますから… ジョディさん。 後は頼みましたよ?」

ジョディ「本当に大丈夫?」

青野「ジョディさん… それは酷ですよ? 決意が鈍ってしまいます…」

ジョディ「ゴメンね…」

青野「いいんです… 私の意志ですから… でも…」

ジョディ「?」

青野「ちょっと、妬けちゃうなぁ… あの人の心の中の私は… どんな娘なんだろう… 素直で、優しくて、か弱くて、賢くて… きっと… 素敵な娘… なんだろうなぁ… 私と違って」

ジョディ「…好きなもの頼みなさい」

青野「じゃあ… lemonをください…」

ジョディ「…花を添えてもらいましょう」


机(…人の心は分からない… どうしてこう… シンプルに生きられないのか… きっと、できることや考えるられることが多いからだろうな… わたしのように机としてあることしかできなければ、楽だろうに… 可憐な少女よ。 わたしはあなたの重さをささえることしかできないが… 願いましょう… あなたの未来に幸あることを…)



ジョディ(これは…青野さん一人に任してはおけないわね… 不安よね。 ジョディ動きます)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃

目覚めた倉持と桜はシェアハウスに向かって歩いていた。

倉持の顔はぼこぼこになっていた。


倉持「前が見えない…」

桜「知りません! 人が真剣に相談していたのに… 胸を揉むなんて… まあ、でも、その様子だと… 糸口はつかんだんですね?」


倉持はパパっと顔を整えた。


倉持「はい… 桜さんのおかげです」

桜「そう… 良かったわ」

倉持「今まで私は愛そのものを拒絶していました… ですが、それはただ、本質的な問題から逃げていただけなんです… 愛を認め… 受け入れながらも… 不幸にしない… それが私のすべきことだったんです」

桜「どういうことかは… 分かりかねますが… それじゃあ、いつか私の愛も受け入れてくれますか?」

倉持「…ありがとうございます。 確証はできませんが、むげにはしません」


この時倉持は鈍感にも桜からの愛は家族愛的なものだと思っていた。


桜「…ちょっと、遠回りしませんか?」

倉持「…いいですね。 天気もいいですし…」


倉持と桜は並木道を通った。

さわやかな香りに包まれながら、落葉を踏み分けて歩いてゆく。

並木道を抜ける直前、倉持は足を止めて桜の背中に声をかけた。


倉持「…桜さん」

桜「…はい」

倉持「桜さんは… 後悔していませんか? 私と出会ったこと」

桜「していますよ?」

倉持「…」

桜「失いたくないほど大事なものを若くして手に入れちゃったこと…」

倉持「…」

桜「失う怖さを知っちゃったんですよ? そうすると無茶できないじゃないですか… 悔しいですよー もっといろいろ無茶したいって気持ちもありましたからね… でも」

倉持「…」

桜「幸せです。 楽しいです。 きっとこんな幸せで… 穏やかな日々は… 今しかありません…」

倉持「…」

桜「由紀さん… 宇美さん… 紅葉さん… 店長と仲良くなれたのも…倉持さんあっての事です… それと、霞さんや倉持さんのご姉妹… みんな優しくて面白い人たちです… あ、最近葵とお出かけもしたんですよ… その、灰田さんも一緒に… ちょっと、マニアックな話が多くてついていけないときもあったんですけどね… まさか… 葵とまた仲良くなれるなんて… 思ってなかった。 葵が襲われそうになったとき… 結局私は何もできなかった… その後も…ちょっとぎくしゃくしちゃったし… だから、またこうして仲良くできるって… 本当に… 嬉しいです…」

倉持「…」

桜「三奈さんからもたまに連絡が来るんです。 学校の様子を教えてーって… もう何年前の話? って言うと、隣で紅葉さんが不機嫌そうにするんですよ… 最近紅葉さんの年齢いじりが多すぎて… まだ若いんですけどね… 宇美さんも最近とても楽しそうです。 前はちょっと由紀さんのこと怖がっていたみたいですけどね。 近頃はとても仲良しです… それに、倉持さんの周りは本当にいい人が多いです… ちょっと、嫉妬しちゃうぐらい…」

倉持「…」

桜「ぼっちだった倉持さんがこんなに愛されるようになったのは… ちょっとやきもきします…ああ、後悔と言えば後悔ですね… シェアハウスに誘わなきゃよかった… そうすれば独り占めできたかもしれないのに… とは思います… でも… そうするとここまで皆仲良くなることはできなかったでしょうし… 出会いも限られたでしょう… ですから… やっぱり…」


桜(ダメ… 止まらない… 私は… 知らない… 知らないふりをしていなきゃ… それが私の… 役目…)

桜「今が… 一番幸せです…」


風にあおられて、落ち葉が舞いあがる。


桜「お願いです… 死なないでください… ちょっとでいいので… 私より… 長生きしてください…」

倉持「…なんとか、なるように… してみせます」

桜「約束… ですよ?」

倉持「ええ… 私はもう… 1人じゃないので…」

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