倉持とパスタの行き先
倉持はシェアハウスに戻ると、PCを起動させて、実家とつないだ。
倉持「ぎりぎりになって済まない… ちょっと用事があって」
霞「いいわ。 トラブルに巻き込まれて遅れなかっただけマシよ」
倉持「いつもすまんな… ところで、理事長からの話… 受けられそうだよ。 ただ期間はかなり限られると思う…」
霞「分かってるわ… むしろ無理を言ってごめんなさいね」
倉持「いえ… 何とかしますよ。 しかし、それにしてもあの二人が衝突するなんて…」
霞「ええ…これまで長い間一緒にうまくしてくれていたのに… ここに来て考えが割れてしまったの…」
倉持「私は生徒の自主性に任せるべきだと思うのですが…」
霞「同感よ… けど、2人とも譲れないみたい… でも気になるのは… 表向きは教育理念の違いってことなんだけど… どうも腑に落ちないの… 詳しく聞いてもなんか、ふわふわしているというか… とってつけたような理由で… だから、本当の理由はほかにある気がするんだけど… 私たちでは、なかなかそこまで聞くことはできなくて」
倉持「それで、外部の人間をと言うことですね… 私でできるか分かりませんが… やれるだけのことはやってみます」
霞「ところで… 女装するのかしら?」
倉持「しません」
霞「それは困ったわ… 誰かさんのせいで、基本的にイベント以外は男子禁制になってるの」
倉持「私身長178cmあるんですが… あと、少し筋肉もありますし…」
霞「こないだの女装似合ってたわよ。 というか、生徒や事情を知らない人には女装家で恋愛対象は男性ってことで話してるから」
倉持「ちょ…ええええええ」
霞「それで、他の職員の了承を得たってとこもあるから… いっちょよろしく」
倉持「…ま、まあ。 そういう事情なら… 仕方ありません…」
霞「まあ、最低限のものはこっちで用意しておくから安心してね」
倉持「分かりました… よろしくおねがいします」
画面に花が割り込む。
花「さて… 次は私から…いいニュースと悪いニュースがあるわ」
倉持「悪い方からで」
花「…徹ちゃん。 本家が動き始めた… 脅迫状まがいの手紙が送られてきたわ… シラを切ったけどね… 多分、そっちの居場所も割れている… まあ、慎重なあの男の事… すぐには動かないと思うけど… 十分注意してね。 でも、できれば居場所は早いうちに変えた方がいいと思う… 貴方が平穏に過ごしたいなら…」
倉持「やはりそうですか… 会社にも迷惑がかかる可能性が高いですね… そちらは大丈夫ですか?」
花「まあ、何とかするわ… 次はいいニュースよ… 光の…意識が戻りそうなの」
倉持「え… ほんとですか… 母が…」
花「まあ、まだ意識は混濁しているようだし、日に数時間程度なんだけど… 少しずつ話ができるようになっている様子よ… けど、あの男に知られたら… 大変なことになる… 私も連絡はなるべく控えるつもり… 徹ちゃんも会いたいなら… 慎重にね」
倉持「分かりました… うれしいニュースです」
花「あと… 贈った服は着ているかしら?」
倉持「え… いや。 まだです」
花「…おかしいわね。 もう1カ月は経つのに… 真冬の話だと、ここ最近かなり頻繁に女性と出かけてるって言うのに…」
倉持「いや… まあ、なるべく軽装で行きたいので…」
花「…あー。 いるのね? いい人が… その人とのデートで着たいと…」
霞「何だと… いつの間に…」
倉持「いや… そ、そんなことないですよ」
花「そう… まあ、頑張りなさいね」
倉持「だから、そんなのじゃないですって… 切りますよ」
花「はいはーい。 それじゃあね」
倉持は通信を切断した。
倉持はPCを片付けると、台所へ向かい、調理を始めた。
合い挽きミンチ肉を常温に置き、2つの鍋に水を入れて火にかける。
先日のサラダを模すことにした。
レタスを水洗いし手でちぎってから、冷水に浸す。
サニーレタスは水洗いし、キッチンペーパーで水気を拭き取ってから適度な大きさにちぎる。
玉ねぎを取り出し、半分は薄切りにして、冷水に着ける。
もう半分はみじん切りにする。
キャベツを千切り、コマ切りにする。
ニンジンの皮をむき、半分をみじん切り、頭の方を一口大に切る。
ピーマン、ウィンナー、ハムを切っておく。
ニンジンと玉ネギ、ピーマンをレンジでアップする。
鍋にコンソメを入れる。
もう一つの鍋にパスタを入れる。
サラダ用の皿に、サニーレタスとレタスを合わせたものを敷き、キャベツそして、切ったトマトとフライパンで炙ったベーコンを刻んだものを乗せていく。
サラダには市販のドレッシングをかけた。
レンジにチンチンポテトを入れる。
鍋にニンジンと玉ねぎ、キャベツを入れてコショウなどで味を調えていく。
ミンチ肉にナツメグと塩コショウを混ぜ込む。
ツナギはあえて入れない。
手に薄手の手袋をつけて、ミンチ肉を手に取り、ポンポンと空気を抜く。
真ん中をくぼませて、フライパンの準備をする。
フライパンにはバターの代わりにマーガリンを入れて全体に広げる。
ハンバーグを置き、強火の状態で、ワインを入れて、一気にアルコール分を蒸発させる。
そして、弱火にして、中にしっかりと火を浸透させる。
様子を見つつ中火と弱火を使い分ける。
次々とハンバーグを焼いていく。
残った油で、チョリソー、ニンジンを炒める。
さらにマーガリンを追加してコーンを炒める。
炒めたものはハンバーグの横に添えていく。
最後に残った油をにソース、ケチャップ、ワインを加えてソースに仕立てる。
ソースをハンバーグにかける。
最後にフライパンにパスタとピーマン、玉ねぎ、ウィンナー、ハムを入れて、コンソメ塩コショウケチャップで味付けをしてナポリタンを作った。
ナポリタンは大皿に置いた。
所要時間28分で、ハンバーグ、パスタ、サラダ、スープが出来上がった。
テーブルに並べていく。
宇美と桜は早めにリビングにきて、ライスや食器を準備する。
青野もやや遅れたが、飲み物の準備をする。
由紀は直接椅子に座った。
人が当番の時は紅葉はゆっくりと出てくる。
揃っていただきますと口上をしてから食べ始める。
由紀「ナポリタンかぁ… 日本っぽくていいな」
由紀はフォークを直接突っ込んで、口に運ぶ。
倉持「行儀悪いですよ。 お皿に取りましょうよ」
倉持はお皿に取り分けてから、口に運ぶ。
隣の席の青野も同じように取り分けたものを口に運ぶ。
ちゅるちゅるとパスタを吸う。
しかし、一本のパスタの軌道がどうにもおかしい。
倉持がその先をたどると、その先は青野に向かっていた。
ちょうど、青野もそれと同じ麺を食べていた。
向き合って硬直する2人。
由紀「…それ、昔見たことあるけど… 宇美知ってるか?」
宇美「昔の事は分かりませんよ。 ね、桜さん」
紅葉「あら… なぜ私には同意を求めないのかしら?」
宇美「り、理不尽ッッ」
由紀「まあ、元はミートソースだけどな… しかも犬だし」
桜「あの… 2人とも固まってますけど…」
由紀「知るか、今の内に食べるぞ」
しばらくしてパスタが自然に中心で切れた。
その後、2人はハンバーグを温め直した。
他の人は既に片づけを済ませており、2人で食事を済ませて後片付けをしてから、自室に戻った。