倉持は手立てを思いつかない
サラダには特製のソースがかかっている。
タマネギベースのあっさりしたソースである。
倉持はまず、サニーレタスとレタスの見た目を確認した。
どちらも綺麗な色をしている。
サニーレタスを口に運ぶ、程よい温度、みずみずしさ、噛むとほのかに苦みと甘みが広がる。
次にレタス、シャキッとした食感、水分も丁度良い。
ソースともよく絡む。
キャベツの細さは約2㎜シャキシャキ感と食べやすさのバランスが良い。
レタスでキャベツとソースをまとめて包んで口に含めば、苦みに甘み、酸味が合わさって口に広がる。
食感も楽しい。
倉持はあっという間にサラダを平らげた。
水で口をゆすいでから、ローストビーフに目を落とす。
赤みと周りの温まった部分のバランス…
周囲のおよそ約2㎜が綺麗に茶色になっている。
厚みは3㎜柔らかさと歯ごたえのバランスがちょうどよい。
さしに沿って丁寧に切られている。
口に運ぶ直前の倉持の鼻腔に上品な肉の香りが伝う。
倉持はうまみをじっくりと味わう。
何度も何度も噛みしめる。
口に残ったかすかな肉の風味をカクテルと混ぜて身体に押し込む。
倉持「うまい」
赤井「ホント美味しいわー。 いいお店チョイスするじゃない」
倉持「直感ですけどね」
赤井「まあ、色々あると思うけど、とりあえずさ、飲んで食べて忘れなよ。 まあ、慣れないことで、戸惑うのはわかるからさ… そういう時こそ時間を置いて落ち着いて考えた方がいいよ」
倉持「…そうですね でも…」
赤井「?」
倉持「あまり、長い間気まずいのは… ちょっと」
赤井(おいおいおいおい。 このアラサー… 可愛いかよおおお。 何コイツ? え? 初恋?初恋なのか? もおおおお。 ヤバい… 私、男のダメ部分見せられると弱いかも…)
倉持「どうすればよいですかね?」
赤井「…とりあえず。 下手に何もするな」
倉持「え」
赤井「分かっていると思うけど、お前は恋愛スキルは低い。 下手なことをするとこじれる可能性の方が高い。 だから、何もせずに、ただ、タイミングを伺え」
倉持「はい」
赤井「よし」
赤井(というか本当に青野さんがどう出るか次第なんだよね… 基本的にコイツの手法はある程度相手に受け入れる気持ちがないと成立しないんだよな。 だから、拒否されたらどうしようもない… まあ、普段なら相手からの拒否も突破するんだろうけど… 今はそれもできない… となると、まあ、相手が折れるのを待つしかないだろな)
倉持「あ… あの… ちょっと、教えてほしいことがあるのですが… いや… 本当は良くないことなんですが…」
赤井「何?」
倉持は赤井の耳元でこっそりささやく。
赤井は変な声が出そうになったが、必死に抑えた。
赤井「ああ… まあ、それぐらいなら… 大丈夫でしょう」
倉持「すみません…」
倉持と赤井は食事を終えて、ホテルに戻った。
当然のことながら、他に空きはないため同じ部屋に戻った。
赤井「倉持、先に入りなよ」
倉持「いえ、頭を冷やしに歩いてきますので… 赤井さんお先にどうぞ…」
赤井「そうかぁ… じゃあ、お先に」
倉持「はい…」
倉持はカードキーを持って部屋を出た。
赤井はバスルームで衣服を脱いでシャワーの口をひねった。
赤井「はああああああ」
赤井(しかし… マジかぁ… 私は倉持は本当に誰のものにもならないと思ってたけど… まあ、誰かと付き合うにしても… 白銀さんや… あと桜さんとかだと思ってたのに… 青野さんか… いや、あれだよ。 確かに可愛いしおっぱい大きいけど… でも、それだと何年も倉持と一緒だった人はどうなんのさ… 長い付き合いの人達は報われんのかよ… 私だって5年は付き合いがあるんだ… なんだろ… 他の人が何年かけても倉持を落とせないのに… アイツはたった半年で… 気を引いてるのかよ… やば… なんかもやもやする… あああもお… こんなこと考えたくないのに…)
赤井は体に洗剤を塗りたくって、勢いよく流した。
そして、タオルを巻いて髪を乾かし、部屋に戻った。
藤壺に連絡をした。
藤壺「はい藤壺です… もしかして、何かトラブルが? 今回はミスもしてないし、裏工作もしてないけど」
赤井「大丈夫。 平常運転」
藤壺「そう」
赤井「うん。 普通に同室だ」
藤壺「どうなってんだよ」
赤井「まあ、それはさておき… 聞いてほしいことがあるんだけど…」
藤壺「なに?」
赤井「倉持が人を好きになったかも…」
藤壺「えええええ? …もしかして、青野さん」
赤井「正解… よく分かったわね」
藤壺「この間、白銀さんがやたら警戒していたからね… あの時は思い過ごしと思ったけど… よくよく思い返してみると… あの子なら落とせるかもしれないって、私も思ったからね」
赤井「どうしてそう思ったの?」
藤壺「理由は三つ… まず、あの子ね… おっぱい大きいのよ」
赤井「知ってる」
藤壺「まずそれが一つ…」
赤井「あと二つもそのクオリティなら、電話代請求するからね」
藤壺「次に… あの子… 倉持についていけるのよ」
赤井「ついていける?」
藤壺「知ってると思うけど… 倉持の思考と行動はかなり早い。 思考だけなら、私や白銀さん… あとは桜、あと、あなたも追いつくことができるかな。 けど、行動まで考えると、倉持に追いつける人間は青野さんしかいない。 こないだのパーティの時、倉持が手を広げた意図を真っ先に理解できたのも、それに対して最適な行動をできたのも青野さんだったでしょ。 普通の人間は躊躇するような行動… それができるという意味であの2人は同質なのよ」
赤井「…なるほど」
藤壺「最後に… 勘」
赤井「勘って… あんた。 それ理由にあげるかね」
藤壺「あなどれないもんだよ。 勘」
赤井「なるほどね。 まあ、ありがとう。 実質情報は一つだけど、有益だったわ」
赤井は立ち上がり、バスルームに戻ろうとした。
その時、バスタオルの結び目がほどけて、裸体が露わになった。
と、同時に鍵が開き、倉持が入ってきた。
赤井「あ」
倉持「あ」
その時、倉持に視線は、すぐに赤井のVラインに向かった。
赤井もその視線に気が付いた。
赤井「…早く締めて///」
倉持「は、はい」
赤井「見たね…」
倉持「はい」
赤井「…毛を見たね?」
倉持「…はい」
赤井「気付いてたな…」
倉持「…」
赤井「ムダ毛処理… 普通はするもんだからっっ」
倉持「は、はい。 だと思います」
赤井はすぐにバスタオルを巻きなおした。
赤井「はあ… まったく」
倉持「すみません」
倉持は買い物袋を机に置き、赤井に500円渡してからバスルームに向かった。
翌日
無事に仕事をこなしてから、昼食にパスタを摂ってから、出張を終えた。