倉持と剃毛
バスルームの鏡の前で、赤井は固まっていた。
目の前には、2組のアメニティがある。
赤井(T字カミソリ… 謀ったか 藤壺さんんん)
藤壺(赤井脳内)「言いがかりはやめてよ」
赤井「うわあああああ。 意識してしまうううう…」
赤井(うううう。 いや、でもあれだよ? OKとかそういうのじゃなくてさ… そう、これは身だしなみ… 歯磨きと一緒。 そう、一緒だよ。 だって、歯ブラシと隣に置いてあるし… それに、別にこれは―――。 倉持にどうとかじゃなくて… 明日ね。 明日他の社の人と会うからね。 それで、腋毛ボーボーはないでしょ? そう。 それはマナー違反。 だからね。 これは… あのそれだ… 気にすることじゃないからあっっ)
赤井は衣服を脱いで、上半身を鏡に映した。
赤井(みんな… おっぱい大きかったなぁ… 私だって形悪くないと思うんだけど… 同じ大きさだと白銀さんが綺麗すぎるし… く… 勝てる要素がない… 幼馴染とか同じ部屋に住んでいるとか… 教え子とか、元先生とか… 私なんてどうせ、会社での付き合い… まあ… 私は私で彼氏いたし… そんなに本気でもなかったけど… けど、ここ最近人付き合い悪くなってるし… 前はいつ誘っても即OKだったのに… だから安心してたのに…)
赤井は先日の藤壺とのやりとりを反芻した。
赤井(だれも倉持をおとすことができない… 拒絶されるのが怖いから… なんでも受け入れるあの人に拒絶されるのが怖いから… 白銀さんでもダメだった… じゃあ、誰でもダメじゃん…私なんか… どうしたってダメじゃん… だから、今の距離感がいい。 誰のものにもならないでいてほしい… それなら勝手に好きでいられる。 報われるとか報われないとか考えないでいられる…)
赤井は持参した化粧落としを使う。
赤井(…いいなぁ。 すっぴんでも綺麗な人たち… 私もルックスはそこそこ自信あったし…学生時代から、彼氏途切れることなかったし… でもな…あいつらは卑怯すぎるわぁ… 特に白銀さんと青野、しかも2人とも処女とか? こじれ童貞の理想そのものじゃん… まあ、青野は青野で、相当闇を抱えてる感じだけど… くあああああ。 もういいっっ。 忘れよ忘れよっ)
赤井は身体に泡を塗りたくった。
手を伸ばして指を広げて、第二関節から第三関節の間の産毛を剃る。
続いて手の甲を剃る。
次に腕を上げる。
腋の部分にカミソリをあてて上下させる。
感覚で、剃っていく。
シャワーで泡をきると、バスタブのふちに足を乗せて、脛の毛を軽く剃る。
泡を追加しながら、ゆっくり剃っていく。
足の指の気になる部分を軽く剃ってから、赤井は腹部をさする。
赤井(…どうしよ。 下手に剃るとじょりじょりになっちゃうからなぁ… ああっっ、でも…ラインは整えておかないと… 下着から出ちゃう… それに来週とかにすると生理きちゃうかもだし…)
赤井は足をバスタブに浸けた状態で、ふちに腰掛けて、足を広げた。
赤井(泡を… しっかり、つけて…)
赤井は腹部のラインに剃ってカミソリを動かしていく。
刃に絡まりやすいので、頻繁に水で流す。
足を広げて、慎重に剃っていく。
赤井(…ここも剃っておくか…)
赤井は足の内側に刃をあてて上下する。
指で広げながら、慎重に丁寧に毛を減らしていく。
反対側も同様に内ももから内にかけて剃っていく。
赤井(どうしよう… ここまでしたら、後ろもしておこうか…)
手で軽く広げて間にカミソリを挟み、軽く前後させる。
赤井(ふぅ。 これでいいかな… 結局がっつり剃っちゃった… あ、詰まりは大丈夫かな… ホテルの人ごめんなさいっっ)
赤井はカミソリを洗面台に置いてから、身体を流して、バスタブ周辺の毛を入念に流した。
その時、ドアが開く音がした。
赤井(やば… 戻ってきた… あまり長いと… 心配かけるかも)
赤井は慌てて水で流して、水気を拭いて、服を着た。
鏡を見る。
赤井(…だ、大丈夫だよね? うん)
赤井「おかえりー」
ドアを開けて、部屋に戻った。
倉持「はい、戻りました。 一応アルコールは無しにして… 飲み物とつまめるものを買ってきました」
赤井「アリガト。 いくらだった?」
倉持「いや、いいですよ」
赤井「そんなわけにはいかんよ。 先月結構ラッキースケベってたでしょ? 給料日前で、厳しいんじゃない?」
倉持「ま、まあ…」
赤井「…1268円かな? 割り切れるね。 634円だね」
倉持「さすが… 袋と品物で分かるとは…」
赤井「大体の相場は分かってるからねー。 お風呂入ってきなよ」
倉持「はい… それじゃあ、そうさせてもらいます」
倉持は着替えを持ってバスルームへ行く。
赤井はペットボトルの封を開けて、口をつけた。
化粧水をつけて、なじませてから乳液を塗る。
コンパクトミラーを取り出して、軽く色つきのリップを塗る。
赤井「…」
赤井「ん?」
赤井(あれ? そういえば私… カミソリどうしたっけ)
赤井「あ…あああああ///」
一方倉持は、シャワーで身体を流しながら、封の空いたT字カミソリの意味を考えていた。
倉持(詮索をするのは無粋… だが… 気になるっっ。 腋や脛を剃ったのだろう… けど、もしも、もしもだ… 剃毛していたらぁあああっっ…)
倉持の股間が勢いよく水を弾く。
倉持(いかんいかん… そんな妄想をするのは失礼だ… ああっ… でも、ちょっとサバサバした感じの女性が、そういう毛とか気にして剃るのとか… 恥ずかしそうに剃毛しているとか… 想像すると… ヤバい… これは来るっっ)
倉持(ダメだ… このままではのぼせてしまう。 冷水で落ち着こう)
倉持(まあ、あれだ… こういうのは気付いていないふりをしよう… そうしよう。 捨てておくのもなんかあれだし…)
倉持は冷水を止めて、水気を拭き取り、服を着た。