倉持とスケジュール
月曜日のこと
倉持はいつも通り起きてから、公園でジョディと走った。
その後シャワーを浴びて、出かける準備をした。
リビングに行くと紅葉と青野が食事をしていた。
倉持は紅葉の隣に座った。
倉持「おはようございます。 早いですね紅葉さん」
紅葉「ええ… 今日は朝一で並ぶからね。 先に仕事を片付けないと」
倉持「たまにかなり早いのは、そういうことだったんですね」
紅葉「そういえば、倉持さんは今週、出張でしたよね」
倉持「ええ、水曜日に出発して、金曜日の夜に帰ります」
青野「どうでしょうねぇ。 また、女性社員と行くみたいですから? 何かトラブルにでも巻き込まれるんじゃないですかぁ?」
倉持「…ははは、そんな頻繁にトラブルなんて起きないですよ」
青野「あれ? ご自身を客観視できていないんですか? そもそも毎週何かトラブル起こしている時点で異常ってことに気が付きましょうよ?」
倉持「それは、仕方ないじゃないですか? それに青野さんに迷惑をかけているわけじゃないでしょう?」
青野「私に迷惑かけるとかどうかの問題ですか? 普通の社会人としての常識じゃないですか?」
倉持「今年社会人になったばかりで、よく分かりますねぇ?」
青野「いやー。 新米でも倉持先輩がおかしいことぐらい、すぐに分かりますよ? というか、こないだ私の連絡無視しましたよね?」
倉持「いや、それは用件が分からなかったからで…」
青野「分かりませんか? 先輩は聡明だと思ってたのですが、思い違いだったようですね。夜遅くに音信不通なら、心配するに決まっているでしょ?」
倉持「こ、子どもじゃあるまいし、余計なお世話です」
青野「へえーー。 それはすみませんでした。 先輩って、子ども? っていいますか、赤ちゃん? みたいなところがあるので…」
倉持「そ、それは。 その話を今出すのはダメでしょう」
青野「バブ―。 バブ―。 おっぱいが恋しいでちゅうー」
倉持「…」
青野「あれ? 怒ったんですかぁ?」
倉持「いえ… そろそろ、支度をしないと…」
青野「じゃあ、私はお先に行きましょうかね」
倉持は自分の部屋に消えていった。
紅葉「あ、青野さん… さすがに、ちょっと…」
青野「あれぐらい言わないといけないんです。 あの人最近ちょっと、調子に乗っているので…」
青野は食器を片付けてから足元に置いていたカバンを持って足早にシェアハウスを出た。
倉持は青野が出たことを確認してから、シェアハウスを出た。
周囲に青野の姿が無いことを確認してから電車に乗り込む。
三奈がいつものように声をかけてきた。
三奈「おっはよー」
倉持「おはようございます」
三奈「そういえばさー。 こないだ、夢に倉さん出てきたよ」
倉持「そうなんですか? 私も夢を見ました。 三奈さんもいましたね」
三奈「でもさ… 私の知らない人もいっぱいいて、驚いたー 夢って確か、記憶を整理してるんでしょ? あんな人いつ会ったんだろう…」
倉持「まあ、ふとした瞬間に印象に残ったのかもしれませんね」
三奈「そうかぁ… でもさ、倉さん… 夢の中で女装してたよ。 こないだのアレがよほど印象的だったのかな?」
倉持「…忘れてください」
三奈「えー。 無理無理… だって、あれも大事な思い出だし… あ、そういえば。 夏期講習後の模試の結果帰ってきたよ。 えーっと… んー… あ… あった… じゃーーーん。 A判定っっ」
倉持「おおー… すごい。 頑張ってますね」
三奈「へへー。 倉さんが教えてくれたおかげだよー。 もうね。 問題送ったらすぐ説明してくれるの、めっちゃ助かる」
倉持「いえいえ。 それも三奈さんの努力です。 この調子で行きましょう」
三奈「はい。 あ… あのさ… ご、ご褒美… 欲しいなー なんて… そしたらさ… もっと頑張れるかなーーーって… ダメかな?」
倉持「…そうですね。 ちょっと、予定を確認しますね」
倉持は新品の黒いスケジュール帳を取り出す。
倉持(今週の木曜日と金曜日は泊まりで出張…前ノリするから水曜日の夕方には出発だな。 土曜日は午前中喫茶店にヘルプで入って… 夕方は緑谷さんたちとイベントの打ち合わせ。 日曜日は朝から由紀さんたちとイベントに行くことになってるし… 午後は…テレビ電話で実家とやりとり… 夜は食事当番。 今週は無理だな… 来週は… 土曜日… あー、まあいっか…)
倉持「来週の土曜日に出掛けますか?」
三奈「やったー」
倉持「それじゃあ、午前中出かけて、午後から勉強をしましょう」
三奈「…やったー⤵」
倉持「まあ、大事な時期です。 適度に息抜きをしましょうね」
三奈「はーい… そういえば今日は一緒じゃないんですね? あの人」
倉持「あ、ああ。 そうですね…」
三奈「なになにー… もしかしてケンカですかー?」
倉持「そんなものじゃないですよ。 ただ、ちょっと避けられているだけです」
三奈「…まあ、倉さんは色々とやらかしてますからね。 仕方ないですよ」
倉持「う… まあ… ですね…」
駅で三奈と別れてから、会社へ向かう。
すでに青野はデスクに向かって仕事を始めていた。
青野は倉持の方に少し頭を傾けて挨拶をした。
倉持は自分のデスクにつき、仕事を始めた。
新人には先日のとある会社の株価急暴落の件と顧客への対応方法を伝えた。
予想通り午前中はその対応に追われた。
前場が引けたころ、倉持は金剛に呼び出され部長室へ向かった。
倉持「失礼します」
金剛「はい。 対応お疲れ様。 まあ、今回の暴落は本当に読めないものだったから、混乱した人も多かったろうな… というか、正直私も原因が分からん… 業績は順調だったと思うのだが…」
倉持「そうですね。 何らかの力が働いたとしか… 考えにくいですね」
金剛「…何か心当たりがあるのか?」
倉持「…いいえ」
金剛「…なにかある前に、相談しろよ」
倉持「はい」
金剛「それと、倉持… 今からは休憩だな?」
倉持「え? あ…はい。 あ、はいたった今、休憩です」
金剛「あのさ… 今度… キャンプに行かないか? 何人かで… もう簡単なもので… ほら、秋のキャンプって、なんかよくないか?」
倉持「いいですね! 行きましょう」
金剛「い、いつなら良い? 私は大体予定は空いてるぞ」
倉持「そうですね… 再来週の土日でいかがでしょうか?」
金剛「よっし。 OK」
倉持「それじゃあ、楽しみにしています。 道具なんかは準備していきますね。 でも、人数が増えすぎると大変かもしれません」
金剛「ま、まあ… 4人ぐらいでどうかな?」
倉持「分かりました。 それじゃあ、呼びかけはどうしましょうか?」
金剛「そ、それは私に任せろ。 費用は私で持つからな。 道具買ったらレシートくれよ。 それと、食べ物や飲み物の買い出しはこっちでするからな」
倉持「はい。 お任せします」
倉持は部長室を後にして、桃井のいるお弁当屋に向かった。
倉持「こんにちは。 日替わりください」
桃井「どうもー いつもお世話になっています」
倉持「こちらこそ」
桃井「おかげさまで、秋の新商品も結構売れてますよー。 野菜フライもなかなかの人気です」
倉持「それは良かったです」
桃井「お礼のおまけ… つけておきましたからね。 またよろしくお願いしますよ」
そこに赤井が寄ってくる
赤井「お疲れさまー。 桃井さーん。 私も日替わりください」
桃井「はい。 どうも。 あ… これおまけにどうぞ」
赤井「おー。 ありがとね。 いただきます」
倉持「これからお昼ですか?」
赤井「そ。 一緒に食べる?」
倉持「お邪魔でなければ、いいですか?」
桃井(小声)「…おまけ、あげるんじゃなかった」
倉持と赤井は会社に戻り、休憩室でお弁当を広げる。
赤井「今度の出張の準備できてる?」
倉持「ええ、大丈夫ですよ」
赤井「てか… 経理が出張とか… めちゃくちゃ珍しいんだけど… 私新人研修依頼の出張だよ」
倉持「確かに、珍しいですよね」
赤井「まあ、向こうで新しい経理システムに詳しい人いないみたいだからね… あ、そうだ。 これ確認しておかないと… ホテルは別の部屋だよね?」
倉持「…多分私は703号室です」
赤井「私は705号室…」
倉持「今回は藤壺さんもミスってないみたいですね」
赤井「だね。 よかったー」
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赤井「なんて言ってたのに… なぜこうなった…」
時は飛んで、水曜日の夜。
倉持と赤井は出張地のホテルの一室に2人でいた。
倉持「…」
赤井「まあ、あんたのお人よしは今に始まったことじゃないけど… まさか、急遽20人路頭に迷った人が、泊まりたいって言ってくるなんて… しかも天候不良とかじゃなくて、皆理由は別々… で、後1室だけ足りないからって、自分の部屋を譲るなんてさ…」
倉持「私なら、ネカフェでもいいかなと…」
赤井「そのネカフェもなぜか全部満室だったんでしょ?」
倉持「最悪、野宿…」
赤井「そんなわけにはいかないでしょ。 まあ、いいじゃん。 こないだも一緒に寝た仲だしさ」
倉持「…すみません。 床で寝ますので… お気になさらないでくださいね」
赤井「遠慮しなさんなって… それじゃあ、私先にシャワー浴びるねー」
倉持「は、はい。 まあ、私買い出し行ってきますね」
赤井「お、気が利くね。 明日は早いから軽めにしよっか」
倉持「ええ。 それでは」
赤井は倉持が出るのと同時に、着替えを持ってバスルームに入った。