倉持は歌う
倉持「さ、行きましょうか?」
倉持はリコに手を出す。
リコ「知り合い… 呼んでたの?」
倉持「偶然です。 というか、多分心配でついてきたんでしょうね」
リコ「心配って… おいくつですか?」
倉持「多分28歳です」
リコ「まあ、あなたがなんか罠を張るような人には思えないわ… でも、帰らなくていいの?」
倉持「もう一か所行きたいところがあるんです… 一緒に行きませんか?」
リコ「…いいわ。 面白いところでしょうね?」
倉持「…」
リコ「黙らないでよ」
倉持は紅葉たちの方を向く。
倉持「すみません。 紅葉さん。 明日の朝には帰ります」
紅葉「はーい。 あまり遅くならないでね」
青野「明日の朝の時点でめっちゃ遅いですよ」
倉持「それでは」
倉持はリコを連れて、お手洗いによってから公園を去っていく。
青野「あ、あ、あ… 行っちゃ… あああ」
由紀「まあ、青野。 大丈夫。 必ず帰ってくるさ」
青野「…それまで、私の理性がもちますかね…」
由紀「それは… 耐えろ」
青野「ううー」
青野(けど… これで、分かりました。 私がなすべきこと… 私は倉持さんの手段そのものになる)
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一方その頃、白銀達は宅飲みを始めていた。
お酒に弱い白銀は速攻で酔っていた。
白銀「ふあああああん。 どうしてええええ? クラたんはすーぐにどっか行っちゃうのオオ」
藤壺「うわー 弱すぎ…」
赤井「はは、まあ弱いうえに、強めのお酒いっちゃったからねぇ」
白銀「うううう。 というかあああ聞いてくださいよおおお。 青野さんがあああ。 私が、シェアハウス、狙ってたのに… 先に、入って… しまったんだけどおおお」
藤壺「ああ、そういえば転居申請来てたね。 青野さんは書類きっちりしてくれるから助かるわぁ」総務部
赤井「だね。 来月から家賃補助出るわ」経理部
白銀「仕事の話するなああ。 あなたたちはしんっぱいじゃないのオオ?」
藤壺「いや… まあ、でも、今更一緒に住んだところで… 桜でも落とせないんだよ?」
赤井「そうそう。 それぐらいじゃ、あの人は攻略できないって」
白銀「あなたたちは、あの女のヤバさを知らないからそんなことが言えるんです。 あの女は… 正直ヤバいのよ。 私が言うんだから、間違いないっっ」
藤壺「相当ヤバ目のあなたが言うんだからヤバいのは分かるわ。 けど、私にはただの可愛い女の子にしか見えないけど。 まあ、頭は切れると思うけど」
赤井「そうね。 賢い天然系ってぐらいだから… むしろ安全だと思うけど」
白銀「…そうか」
藤壺「そうそう。 気にし過ぎ気にし過ぎ… 大丈夫だって」
白銀(この2人は気付いていないのか… あの女のヤバさ… あの子は目的を達成するためには何でもする。 手段を選ぶ、吟味する。 その中で、最も効果がある方法を瞬時に選択できる…
そう、私や桜さん… あと霞さん… 知っているがゆえに動けない人間がいる。 理性による自制、配慮による遠慮… それによって動けなくなる… けど、あの子は知っていながらも知らないようにふるまうことができる。 自分自身を騙すことができるんだ。 それも薄っぺらい嘘じゃない… 本当に自分自身の心を騙すことができる… それも意識的にじゃなくて自然に…」
藤壺「おーい。 帰ってこーい」
赤井「…落書きするぞー」
白銀(男には、知られたくない内面と知られたい内面がある… と思う。 2人しか知らないけど…ある。 2人中2人ということは100%。 私は、きっと知られたくない内面を知ってしまうんだろうな… けど、青野さんは… おそらく感覚的に知られたくない内面と知られたい内面とを判別できる。 きっとそのうち、倉さんの知られたい内面も知ることになるだろう… その時、多分倉さんは… 落ちる)
白銀は思考をしながら、夢に落ちた。
藤壺と赤井に水性マジックで落書きをされたのは言うまでもない。
赤井「あれ? 着信だ…」
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一方その頃灰田は倉持を探して彷徨っていた。
灰田「倉持さん… いったいどこへ… こんなに探しても、見つからないなんて…」
灰田は倉持が行きそうなところをしらみつぶしに探していた。
灰田(ダメだ… 本屋もゲームセンターにもいない… まさか、アダルトショップ? いやさすがにそんなところには行かないだろう… 他に行きそうなところ… どこか、どこか無いか?」
灰田「く… 本当は気がすすまないけど…」
灰田は白銀に連絡をしたが、つながらなかった。
次に赤井に連絡をした。
赤井(電話)「はい。 赤井です。 灰田さんどうしました?」
灰田(電話)「それが… 緊急事態なんだ。 かくかくしかじか」
赤井(電話)「何ですって? 灰田さんのお姉さんが倉持と一緒にいて、デートしてるって? しかも、灰田さんのお姉さんはメンヘラってて○ロしちゃうかもしれないですってぇ。 それで、倉持が行きそうなところを教えてほしいって…」
白銀「何だって? それはまずいじゃないか」
白銀は飛び起きて、玄関を飛び出そうとした。
藤壺「待ちなさい。 せめて服をちゃんと着てぇ」
白銀は下着の上に衣服を身に着けると、颯爽と飛び出した。
赤井「あ…」
藤壺「…いや、時間がない」
赤井「…そうだね」
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リコ「ここなの? 行きたかったところって?」
倉持「はい。 そうです」
倉持はカラオケ店に来ていた。
リコ「カラオケ… え? 締めにカラオケぇ?」
倉持「はい。 あまり来たことないんですよ」
リコ「…ホント。 読めないわ」
倉持「ささ、どうぞどうぞ。 私は歌下手なので」
リコ「私も… そんなに知らないけど…」
リコは履歴からリストを眺めた。
リコ「…あ。 この曲」
倉持「それですか? 私も知ってます。 いい曲ですよね」
リコはマイクを手にして歌い始めた。
その曲は…リコの年代の女性が歌うには古めかしい曲であった。
ゆったり、しっとりと恋慕を語るように歌う。
リコの記憶にあった曲。
それは彼女の母が口ずさんでいたものであった。
リコは1番の後のサビまでしか知らない。
2番目が始まる。
それは途端に知らない曲になった。
リコ「…ごめんなさい。 2番からは知らないの…」
倉持「…サビは分かりますね?」
リコ「ええ」
倉持「それじゃあ、それまでは一緒に歌いましょう」
倉持はマイクを持って、リコが歌ったのと同じように2番を歌い始めた。
リコ(…知らない歌みたい… 音外し過ぎ… でも…)
リコは歌い始めた。
歪ながらも2番は進んでいく。
そして、サビに行きついた。
リコと倉持はそこで、初めて合わさった。
倉持もサビだけは音を外さずに歌えた。
最後のサビを歌い上げるとき、リコは何とも言えない感情に襲われた。
曲が終わる。
次の曲は始まらない。
リコは、倉持を見つめる。
倉持は歌い上げた満足感か、イイ顔をしている。
リコ「倉持さん… 私… 昔」
キイイイイイイイイイイイン
倉持はハウリングを起こしてリコを遮った。
倉持「リコさん。 こっちへ来てください。 それは… オフレコで」
リコは倉持の隣に座る。
周囲ではJ-POPやロックが鳴り響く。