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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
日常編④ 承
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倉持は試される

倉持とリコは食後にプラネタリウムへ向かった。

2人ならんで、星を眺めた。

その後、近くのギャラリーを周った。

この地域には無料開放の展示室が多々ある。

モダンアートに心を馳せる。


倉持は抽象的な作品も好むが、具象的な作品をより好んだ。

だが、近年のサプライズ重視の作品にはそこまで心惹かれなかった。

何に魅力を感じるかは人それぞれであり、それはたとえは道端の石ころに価値を見出すか否かに似ている。

アートの売買においては、価値の指標としてあまりに有名な紙幣あるいはそれに代わるものが使われているので、ついついそのアートそのものの価値がその金額分あり、それは絶対的だあるというように思われがちであるが、あくまでその価値は購入者にとっての価値であることは忘れてはいけない。

価格は需要や懐事情によって決まる。

価値は心のありようによって決まる。

ゆえに価格と価値は必ずしも一致するわけではない。

ゆめゆめそれを忘れてはいけないのである。


アートが数億円で売れたということは、購入者にとって、それだけの価値があるというだけの事であり、そのアートそのものの価値が誰にとっても数億円であるわけではない。

ゆえにそのアートを貶めることも、過剰に持ち上げることも、購入者、あるいは欲した人以外がするべきではない。



倉持がより具象的なものを好むのは、技術や技法に価値を見出す傾向があるためである。

星同様倉持は作品を楽しむ側でいたためあえて必要以上の教養を身に着けようとはしない。

精々各年代の流行や主要な技術、その作者のパンフレットに掲載している程度のプロフィールを把握している程度にとどめている。

また、聞かれぬ限りうんちくを語ろうとはしない。


リコは時折、作品についての質問を倉持にした。

リコもアートに興味はあった。

しかし、これまで積極的にギャラリーに通うことはなかった。

そもそも、ギャラリーの存在さえ知らなかった。

もっというなれば、物心がついてから、そういった文化や娯楽に触れる機会が無かったのである。


ミコの方は、親元を離れてからは趣味や友人を見つけることもできたが、リコにはそれができなかった。

どんな人と話しても、自分は人と違う…という思いがあった。

自分の経験は、通常ならば起こり得ないものであることはリコも理解をしていた。

だから、真に他者と分かり合えることはできない…

どれだけ言葉を重ねても、どれだけ身体を重ねても…


そういった思いがずっとリコの胸にもやがかっていた。

当然誰かに打ち明けることもできない。

そんなリコにとって唯一の精神的なよりどころがミコであった。


ゆえにリコはミコに依存した。

ミコが離れていくことを恐れた。

特に恐れたのは、自分と異質な存在に奪われることである。

すなわち男性にミコが取られることである。

女性ならばまだ許せた。

それは、女性には取られないだろうという、根拠はないがぼんやりとした確信があった。

それは同じ条件で競争をするならば、自分は負けない自信があると言い換えてもよいだろう。


だが、男性。

自分と異質な存在。

もしもミコがそれになびいてしまえば、もはや取り戻すことができないとリコは思っていた。


だから、ミコに男性との逢瀬を禁じたのである。



ある日、リコはミコの携帯電話を盗み見た。

ミコが友人と話しているトークを見ていると、ある名前があった。

『倉持』

以前自分を助けてくれた男性である。

実はリコも初対面で倉持の職業を聞いたとき、いずれこうなることをどこかで予感していた。

ミコの倉持に関する発言から、いつかはこうなるかもしれないと危惧をしていた。


そして、さらにトークを見ていると、誕生日会という文言があった。

これはリコにとってゆゆしき事態であった。


ミコが取られてしまう。

リコは恐怖した。

嫉妬と憎悪が燃え上がる。


そして、倉持の素性を調べて追跡していた。

何人もの女性と仲睦まじい様子を見せる倉持を見たリコは、一層怒りを覚えた。

もしも、倉持がミコ一筋であれば、あるいはリコの憎悪も落ち着いたかもしれない。

だが、倉持という男は客観的に見れば、とんでもない男である。

毎日毎日、とっかえひっかえ女性と出歩き、色々な女性と食事をして、夜遅くまでデートをして、ホテル街を歩いて… そんなことばかりしているのである。


しかも、行為をしていない、金銭を受け取っていないだけで、多くの女性の心を奪っていることは確かである。

もちろんそのようなこと傍から見る人間が分かるはずもない。

リコにとっての倉持は、プレイボーイ、女性にプレゼントを要求する奴、乱交パーティを開催する奴なのである。

ものすごく控えめに言ってもクズである。


そのようなクズが自分の唯一のよりどころを奪おうとしている…

そう思って、冷静でいられる人間がいようか。


だが、リコは辛うじて理性を残していた。

ホテルの前で倉持とミコを襲撃したとき、リコは試していた。

ミコを襲うことで、その男の本質を見ようと考えたのである。

もしも男がわが身可愛さで、ミコを見捨てようものなら、リコはその男を○ロしていただろう。


倉持が身を挺してミコをかばったことで、リコは思いとどまった。

また、初対面での印象もプラスに働いた。


だから、倉持の明日会うという話に応じたのだ。

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