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倉持氏はラッキースケベでいつも金欠  作者: ものかろす
日常編④ 承
131/371

倉持と由紀

由紀がシェアハウスを出た2日後。

ある程度お別れの言葉を交わすことができた倉持は、それでもまだそこまで落ち込むことはなかったが、宇美は明らかに落ち込んでいた。


宇美はリビングで勉強をしているのだが、明らかに進みが遅い。

倉持は2つのカップにコーヒーを注いで、宇美の斜め左方向に座った。


倉持「…元気がないですね」

宇美「はは… ですね。 なんだかんだ結構一緒にいることも多かったですから… いなくなった日も、朝、普通に挨拶を交わしたんです。 行ってきますって言って… 由紀さんは行ってらと言ってくれて… なのに、帰ってきたら… いなかったんです。 変な思い出も多いですけど、それでも… 楽しい人でした…」

倉持「ですね」

宇美「…どことなくですが… 由紀さんと倉持さんって似てますよね」

倉持「……… え?」


倉持は怪訝な表情に変わろうとしていた顔を、表情筋によって無理やり制御した。


宇美「ああ、いえ… もちろん違うところいっぱいですけど… あの、人をよく見ているところとか…  優しいところとか… でも自分のことはあまり見せないところとか…」

倉持「…そう、ですね」

宇美「やっぱり… 寂しいです。 寂しいですね… お別れって」

倉持「そうですね」


紅葉が封筒を持ってやってくる。


紅葉「倉持さん。 これ… 由紀さんから」

倉持「え… 親展の簡易書留…」


中にはペラペラの便せんが一枚。

「高いビルから街並みを見ていると…

 少しだけ、後悔。 葉っぱがまいちる前に、入り江まで川下りってのもしたかったって。

 結構するけど、海外旅行とかも行ってみたかったな。 ハワイとか? 面白そうじゃね?

 でも、無理だわ。 私パスポート持ってなかったし、国外出られんわ。 まあ私いなくても

 星がきれいな、この時期だから、空を見上げて慰みにしてくれ。 ちょうど今年は月も綺麗ら 

 しいし… まあ、あれだ。 楽しかったぜ  由紀」


倉持「やればできるじゃないですか… ところどころ雑ですけど」

宇美「どういうことですか?」

紅葉「暗号ね」

倉持「明らかに変な文章ですからね…」

宇美「???」

倉持「9月21日 夜6時 ハワイ料理の出る展望レストラン」

紅葉「行くの?」

倉持「…頼みは断れない性質ですので… それに、恩もありますから」

紅葉「…だそうよ 真冬さん」


トイレのドアが開く。

そこから真冬が姿を現した。


宇美(…え? いつからいたの?)

真冬「さすが私の弟だ」

倉持「…知ってる限りの情報をください」

真冬「あいつがいいところのお嬢様ってことは知ってるな?」

倉持「ええ、信じがたいですけど」

真冬「…私も最近知ったんだけど… あいつはある企業の社長夫婦に養女として引き取られた。その理由はルックス… あいつ見た目だけはいいだろ? そこに目を付けられた。 やがては政略結婚の道具となることを約束に… あいつはつかの間の自由を手にしていたんだ」

倉持「それにしては、自由期間が長いような…」

真冬「だな。 普通なら、もっと早くに結婚していてもおかしくない。 理由は由紀も分からないみたいだ… ただ、親から30歳で結婚をしろ… とだけ言われていたらしい」

倉持「…30歳」

真冬「ああ… 30歳だ」

倉持「偶然でしょうか…」

真冬「分からん… とにかくあいつは… 自由の代償に、望まぬ結婚を… 強いられているんだ!」集中線


倉持はじっと手紙を見つめる。

ぽりぽりと眉間を掻く。


倉持「…まあ。 結婚は当人の問題ですから… 私たちは迎えに行くだけ… 判断は本人にゆだねましょう」

真冬「…そうだな」

倉持「相手の男性のことは、私のネットワークで調べておきます… 真冬姉さんは、道具の準備を… お願いします」

真冬「道具?」

倉持「余興ですよ。 余興」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

9月21日 17時30分


由紀母「似あってるわよ由紀」

由紀父「そうだな。 これなら相手も気に入ってくれるだろう」

由紀「うれしいですわ。 お父様、お母様…」


ゆるふわカーブのショートボブ、長くくるっとしたまつ毛、淡くきれいな瞳、白くて目の細かい肌、カーディガン付きのワンピース、そこから生える絶妙に弾力感のある手足。


由紀は慣れないヒールで、見合い相手の待つレストランへ進む。 

由紀はきょろきょろと周囲を見渡す。


由紀(まあ、いるわけないよな… 覚悟完了なんて… 現実ではできないよな…)


由紀の向かう先には、スーツでかっちりと決めた見合い相手がいた。

事前に由紀が聞いていた情報によると、40代 男性 実業家 とのこと。

それ以上の情報は聞かされていなかった。


情報は… 判断する時に必要である。

情報を知らされないということは… 判断する必要がないということでもある。

逆に情報を得ないということは… 判断をすることを放棄している… とも言える。


由紀(見た目は… 悪くないな… まあ、金ももってそうだし… いいか…)


挨拶を交わした。

由紀はここで初めて、相手の名前を聞いた。

両家の親は別の席に座った。

相手の男性は由紀の椅子を引いて、座るよう促した。


由紀(マナーもある… スマートだ… いい人じゃんか…)


相手「メニューをどうぞ。 食事は頼んでいますので、お飲み物を」

由紀「ありがとうございます。 …決まりました」


由紀がメニューを返す。


相手「私はもう決まっています」


そこにスタッフが来る。


相手「ピニャコラーダ 以上で」

由紀「私も同じものを」

スタッフ「かしこまりました」


カクテルが運ばれてくると、相手はチップを渡した。

相手と由紀は軽くグラスのふちを合わせて、唇のそっとふちをつける。


由紀(好みも合うし… 優しそうだ…)


料理が運ばれる。

音も立てずに、淡々と料理を口に運ぶ。


由紀(料理も美味しい… いいな… いいよな。 こんなのも… 悪くない)



メインディッシュの後


相手はナイフとフォークを置くと、ナフキンで口を拭いて、スーツの裏ポケットに手を入れた。

そこから、カードキーを取り出し、机の真ん中に置いて、口を開いた。


相手「部屋をとってあります」

由紀「そ…」


由紀(あ… 私… 今… 初めて… この人と、目が合った…)


にじみ歪んだ相手の顔が… 

由紀にはどうも得体のしれないものに見えて仕方がなかった。


挿絵(By みてみん)

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