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 磨き抜かれた大理石の床に影が揺らぐ。一拍置いて、ドレスの裾がなびき、華奢な靴がステップを踏む。コートとウエストコート、ブリーチズで正装をした男性がリードする。音楽に合わせてあちらへこちらへ意匠を凝らした衣裳を身につけた貴族たちが躍る。


 大広間の中央にはシャンデリアが吊り下がり、夜会に訪れた貴族たちが身につけた凝った布地や宝石を一層輝かせ、夜なお欺くきらびやかさを演出している。


 出席者たちは様々な思惑を胸に抱きつつ、にこやかな仮面をつけ、社交を行う。

 他国の招待客との高度な外交の場でもあり、自身の家門を印象付け、未婚の者は結婚相手を探し、政治や経済の重要な案件がさり気ない会話の中で決められていく。知的で洗練された会話や礼儀作法を求められる場だった。


「今年の大麦の生産は、」

「雨量が心配ですな。日照時間不足は、」


「先だっての嵐で船が戻って来なかったらしく、」

「おお、では、破産は確実ですかな」


「あちらの男爵令嬢は今度ご結婚されるそうよ」

「ああ、あの倍以上年上の婚約者の御方と?」


「ねえ、今日も来られていないのかしら」

「見当たりませんわね」


 噂話も行きかい、玉石混交の態である。


 夜空の端を明るくする黎明が、黒から濃紺、青へと移り変わるのと同じく、人の世も変化を迎えつつあった。社会情勢が安定に向かい、新たな文化が花開こうとする昨今、技術改革が起こり、人口が増え、躍進の時代だと言われている。


 街中には物が溢れ、経済は活性化し、目端の利く者は新たな事業を起こした。

 猫の目のように千変する世情の噂に興じるものの、どこか揺蕩たゆたうような、優雅な時間が高貴な生まれの者たちの間には流れている。あくまでも優雅に、慌てず騒がず、作法に則った貴族特有の時間が。



「どうです、今から抜け出しませんか?」

 好みの女性をダンスに誘うことに成功した者が誘う。

「まあ、でも、伯爵様はお子様を授かったそうではありませんの。身重の奥方様を大切になさいませんと」

 婦人は貴族の子女だけあって噂に精通しており、相手が既婚者であることも、子持ちになろうとしていることも知っていた。

「そうなのです。男はいけませんね、こういう時になにをすれば良いのか分からない。妻は我が優秀な使用人たちに任せておきます」


「そうですわね。家の者が万事良い様に取り計らってくれますわ。ああ、それにしても、今日もルシエンテス侯爵様はいらっしゃらないのかしら」

 踊りながら婦人は周囲をぐるりと見渡した。

「エリアス卿は滅多にこういった社交の場には顔を出しませんな」

「そうなんですの。残念ですわよね。あの麗しいご尊顔を拝する機会がほとんどなくて」

 身体を密着させるほどに近くにいて、自分以外の男のことを話題に出されて、伯爵は興が削がれ、婦人を解放した。案外、それが狙いだったのかもしれない。

「ふん、化け物侯爵め」

 忌々しげに吐き捨てると、給仕から飲み物を受け取って一気に煽った。アルコールは幾分、気分を高揚させてくれた。次の目ぼしい相手を見つけて、そちらへ歩み寄る。


 夜会は遅くまで続いた。




貴族はファーストネームの後に領地の名前が連なると聞いていたのですが、

調べてみると、出るわ出るわ。

ファーストネームをふたつつけたとか、いろいろあって混乱します。


拙作ではではなるべく混乱を避け固有名詞を少なくするために、

領地名と家名をイコールとして取り扱っています。

「ファーストネーム+家名(代表領地名)」で統一します。


また、「卿」に関しても諸説あるようですので、

(仲良い人しか使わないとか領地持ちではない人に使うとか領地名につくとかファーストネームにつくとかetc)

「ファーストネーム+卿」で統一します。


小説の説明にカツラは保留で、と書きましたが、

男性用の貴族の盛装は横ロールのカツラじゃないと似合わないような気がします。


ですが、多分、エリアスは似合うと思うので後のことは全力で見ない振りをすることにします。



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