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第9話「ペケペーケ様と神様事情」

 祖母が家に帰って来た。


「ばあちゃん、驚かないでよ。ペケペーケ様が……」


 祖母までユキさんのように腰を抜かされても困ってしまう。僕はワンクッション置いておこうと思ったのだ。


「ペケペーケ様? ああ、知っとるよ」


 あれ? 驚かないのか。意外な返事だった。


「のう、わしは腹が減った。また団子でも作ってくれ」


「はい、わかりましたよ」


 全く気にする素振りでもない。傍から見れば祖母とその孫、のようにしか見えないのだ。


「ばあちゃん。この子、本物のペケペーケ様だよ。びっくりしないの?」


 僕の質問に祖母は動じなかった。


「ああ、知っているよ。前々からその姿で遊びに来てくださっているからね」


 逆にこっちの方が腰を抜かしかけた。なんでも石像のままだと暇でつまらない、という個人的理由でしょっちゅうペケペーケ様は女の子の姿になっていたというのだ。


「良いのかな、神様がそんな調子で」


「構わんじゃろ。なんせわしの信者は少ないからの。こうやって直接姿を見せるサービスくらいしても」


 場合によってはペケペーケ様、頼まれれば握手したりサインまでしてくれるそうだ。そうまでしないと一けた台まで減った信者を繋ぎとめて置けないらしい。もっとも残念ながらその機会は今のところないらしいが。


 他のメジャーな神様は放っておいても信者が集まるし、崇めてくれる。だからサービス精神の欠片もない殿様商売ならぬ神様商売な方針らしい。姿を見せるなど言語道断、ありがたみが減るとばかりに御利益まで渋っている、とペケペーケ様は解説してくれた。多分私怨も混じっていそうだが、僕は黙っていた。


「とにかく他の神仲間は信者が多い分、力を誰かに集中するなんてことはできんからの。その点、お主は良かったのう。わしのありったけの力を独占できるのじゃから」


 その結果が、罠を踏んでも大丈夫という『無病息災』なのだろう。とは言っても、これだけではどう役に立てて良いのかわからなかった。


 ニアさんがようやく目を覚ました。本物のペケペーケ様に出会えて感激しているようだった。思えばニアさんも偶然宿が満室でうちへ来たことだって、ペケペーケ様の御導きだったのかもしれない。


「大体ワイト。お主は無病息災が役に立たんと思っとるようじゃが、実にけしからんの。力の偉大さは迷宮の奥へ行けば自ずと知れて来るわ。どれ、わしもついて行って御自らその素晴らしさ教えてやるわ」


 ペケペーケ様まで迷宮探索に来るらしい。


「私感激です。ペケペーケ様とご一緒できるなんて、これ程光栄なことありません」


 そう言ってユキさんはペケペーケ様に抱き着いてしまった。小さい女の子を溺愛しているようにしか見えないのだが、その神様ときたら「そうじゃろ、そうじゃろ」と鼻を高くしている。


 僕は正直嫌な予感がした。ユキさんの手伝いだけでも手一杯なのだ。そこへ野良犬にも勝てないこのポンコツ神様まで加わっては、迷宮探索はこれから一体全体どうなってしまうのか。



「全く忌々しいのう……」


 僕は溜まった魔石を古道具屋へ売りに行くことにした。暇だったらしく、ペケペーケ様がついて来るという。ところがその道すがら、そんなことを呟いたのだ。


「何がですか?」


「あれじゃよ。あそこの祠。あれは元々わしのものじゃった」


 ペケペーケ様が指さす先には村の祭神を祀る祠があった。現在は商売繁盛の神様の像が鎮座している。


 村の人々はペケペーケ様の専門分野である平穏無事、無病息災にあまりありがたみを感じていなかった。長い間そんな状態が続けば、あって当然のものだと思ってしまうからだ。だから随分前に、信者数全国ナンバーワンを誇る商売の神様、コメルト様の像へ交代させてしまった。


 半ば忘れられていたようなペケペーケ様時代とは打って変わって、村の人の尊崇を集めるコメルト様の像。迷宮が裏山に現れて、村の景気が一気に良くなると増々村人は崇め奉るようになった。いつもきれいに掃除され、花やお菓子が供えられている。


 一方で、行き場を失ったペケペーケ様の像はしばらくその脇に雨ざらしで放置されていた。だが、それを見かねた祖母がペケペーケ様の像をうちに引き取ったのだ。


「コメルトの奴、それでいっつもわしのことを見下しておる。いつか目にもの見せてくれるわ」


 神様間にも格差というかヒエラルキーというか、そんなものがあるらしい。どこの世界も大概世知辛いものだと僕は思った。


 僕らはそんなことを話していると、気が付いたら古道具屋へ着いていた。


 例の迷宮成金第一号となったお店である。前は雑然と古箪笥や壺が並べられているだけでやる気など微塵も無かった店だ。


 ところが、主人が迷宮探索で一山当てたために、店は改装されて小綺麗になってしまった。相変わらず売っているのは良くわからない迷宮産の壺などなのだが……。


「魔石を売りに来ました」


「はいはい……、うーんゴブリンのばっかりだね」


 主人はちょっとばかり見るなり、渋い顔をしてしまった。そりゃそうだろう。迷宮探索に出かける冒険者が毎日山のようにゴブリンを倒しているのだ。確かに主人の立つカウンターの裏側には、籠にゴブリンの魔石が山と積まれていた。


 魔石の公定価格は法律で決まっているものの、実際には守られていない。結局足元を見られたのか、大幅に値切られて半額以下の引取になってしまった。


「村の人間は皆、金に目が眩んでおるの」


 ペケペーケ様は頬を膨らませて怒っている。まるで祖母のような物言いだった。でも人間生きていくにはお金は必要なのだ。こんな田舎では現金収入も少ない。となればみんな稼げる内に稼いでしまおうとなるのも、やむを得ないことだと僕は思っている。


 とは言っても、あの自称勇者連中みたいなのにヘコヘコ頭を下げるのはまっぴらごめんだった。

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